やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

初めて会った子どものトイレの面倒までみた話〜特別支援学校で学んだこと〜

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介護等体験という制度をご存知でしょうか?

今、小中学校の教員になろうとする人は、必ず「障害者,高齢者等に対する介護,介助,これらの者との交流等の体験」を「7日間以上」しなければなりません。

資料1-3:平成9年介護等体験特例法の概要:文部科学省

 

制度ができた背景には、今注目され直している田中角栄が関わっています。

当時自民党議員だった田中真紀子さんが父・田中角栄元首相を介護した経験を踏まえて、田中さんらの発議によって議員立法として成立した制度です。

 

「介護等体験」で検索すると、素晴らしい経験を語るブログや、体験前の緊張や不安(めんどくさい等のぼやき、他にやることはなかったのか等の愚痴、手続きの面倒さへの不満、田中真紀子への恨み節 等)を書いたまとめページが見られます。

今日はその制度の是非は一旦置いておき、私が今教員として働く上でも学んだ大切なことを紹介します。

 

◯特別支援学校でおどろいたこと

私がお世話になった特別支援学校は、かなり大規模な学校でした。

肢体不自由教育と、知的障害教育の2つの校舎がありました。

 

何よりも驚いたのは教員の数がものすごく多いということでした。

特別支援教育は、児童・生徒一人ひとりの障害の種類や程度が違っていることを考慮して、特別支援学校は1学級6人(重複障害の場合は3人)、特別支援学級は同8人で編制されています。国の標準で35人ないし40人で編制される通常学級に比べ、ほんの少しの児童・生徒数の増加でも学級増につながり、それだけ担任する教員も増えるわけです。

増加する特別支援学校・学級 充実が急務‐渡辺敦司‐|ベネッセ教育情報サイト

40人学級で担任1人に対し、3〜8人学級で担任1人ということですから、いかに教員の数が多いかは想像できるでしょう。

職員室の広さにあぜんとしましたね。大ホールかと思うような広さでした。

 

さらに驚いたのは、(学校にもよりますが、)特別支援学校教諭の免許を持っていない先生も約半数弱いらっしゃったことです。

もちろん、英語でSpecial Needs Educationと言われる現場ですから、Special Needsに対応できる専門の教員がいて然るべきなのですが、増加の一途をたどっているため、教員の数が追いついていないのが実態のようです。

 

なお、私は体験前・後に何冊か本を読んだり、論文も読んできましたが、その中でもこの本が最も包括的で、多面的な特別支援教育像が書かれていたのでオススメです。

特別支援教育 - 多様なニーズへの挑戦 (中公新書)

特別支援教育 - 多様なニーズへの挑戦 (中公新書)

 

 

◯私の体験のはなし〜トイレの面倒まで〜

私は知的障害教育の方に割り当てられ、5人学級に2名担任+保護者ボランティアのクラスに入ることになりました。

言葉が通じない子どもたち、全く落ち着きのない子どもたちを学ばせるのですから、あの体験の時間は本当に1日が長かったですし,本当にどっと疲れました。

 

走り回ったり、実習生のメガネをとって床に叩き付けたり、楽しそうによだれをつけたり、という時間が続き、お昼ご飯の時間にはくったくた。ADHDの生徒が複数いたので、授業中に教室を飛び出して走り回るという状況が1日に何度も起きていました。

マンツーマンでみていないと不安、、という状況です。

勝手に飛び出さないように、扉にはカギがかけられ、あかないことにイラつき体当たりする生徒が普通にいる。それを「いつものこと」と見守りつつ、次の一手をどうしようか考える先生の姿。

およそわたしたちが想像する「授業」や「クラス」はそこにはありませんでした。

 

でも、染め付けの体験や、絵本の時間、運動の時間は生徒も楽しそうで、そのときのにこやかな場の雰囲気が印象的でしたね。(それ以上にしんどかった記憶しかないのが正直なトコロ)

 

2日目には、トイレの面倒もみることになりました。言葉が交わせませんが、トイレの意思は伝わるもの。一緒にトイレにいき、男と男の会話をしました。笑

トイレも実はそんなにうまくいかないんだけど、その子もやり方は身に付いている。本当に月並みですが、「教育」と「生きる」を実感しました。

 

◯最終日の思い出

2つ印象に残ったことがあります。

①プールでめちゃくちゃはしゃぐ生徒たち

言葉は明確に発しないけれど、一緒にプールに入って水遊び。すると、今までとは全く違う大はしゃぎっぷりで、私にばしゃばしゃ水をかけ、水中で足をばたつかせ、まさに超笑顔で力一杯抱きついてくる

言葉が足らなかったら申しわけないですが、「この子たちも、こういう思い、感情表現があるんだ。」と感動したことを覚えています。

 

②担任の先生のまなざし

それはそれは厳しい先生でしたが、間違いなく誰よりも優しかったと思います。

プールに一緒に入って生徒をみつめるまなざし、教室で生徒たちに語りかけるまなざし、一緒にご飯をたべるまなざし、手を洗わせる時のまなざし。

本当に、「教育者」の目でしたね。心の底から「この子たちがかわいい」と思っているのがにじみ出ていました。

 

◯ひとりを愛すること

最近私のクラスでは、人間関係のトラブルや、もめごとがちょくちょく起きています。残念ながら陰湿なことをする生徒もいます。

そういう話を見聞きするたびに、本当にどっと疲れます。どうしたらその子のためになるか分からず、よかれと思ってしていることが裏目に出たり。時間はとられ、疲弊します。「先生のせいじゃないよ」と言われても、解決の先頭に立つのは「子どもと担任」です。誰も代わってくれません。

 

私はそんなひとりひとりを愛することができているでしょうか?

「いじわるの芽をつんでもいじわるの芽が生えてくる生徒」に愛をもって接することができているか。なぜその芽が生えてくるか。(他者危害がない前提で)それが今摘まれるべきものなのか。

介護体験のことを思い出しながら帰路についた今日でした。