やっちゃえ先生ブログ

教員の、教員による、教育のための探究記。 大胆かつ繊細に、実のある記事を。 民間企業→私立中高一貫校→私立高校(今ココ)。

なぜ公立学校教員は「君が代」を歌わないと処分されるのか

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日本の国旗・国歌が成立したのっていつ頃か、ご存知ですか?

 先日、退位特例法が成立しましたが今日は皇室の話、というよりも「日本」の話。

退位特例法成立:18年末にも皇太子さまが新天皇に即位 - 毎日新聞

日の丸・君が代が定められたのは1999年

意外に思われるかもしれませんが、日の丸・君が代がそれぞれ国旗・国歌として定められたのは1999年です。その名も、「国旗国歌法」。

政府は「強制はしない」との説明を当時から繰り返してきましたが、文科省は、国旗掲揚、君が代起立斉唱を徹底するよう。学校現場への指導を行ってきました。

都道府県別の実施状況調査も繰り返し実施し、ほぼ100%実施という状況でした。

波紋を呼んだ大阪の「君が代条例」

大阪府と大阪市では、2011年度に卒業式などで君が代を起立斉唱することを教職員に義務付けた全国初の条例が制定されています。

さらに2012年には同じ職務命令違反3回で分限免職の対象になる職員基本条例も制定されました。

つまり、入学式や卒業式などの式典等で、教員が「起立して君が代を歌わない」という行動を3回行えば、同じ職務命令違反3回で免職の対象になるのです。

大阪だけではなく東京でも

東京でも、同じく公立学校教員は君が代を起立斉唱しなければなりません。

さらにさかのぼって、石原慎太郎知事が2003年10月に出した通達によって始まっています。日付にちなみ「10・23通達」と呼ばれる通達は、「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことや、日の丸の掲揚などを義務づけています。

通達以降、東京都では卒・入学式での職務命令違反で、延べ14人が停職、82人が減給、354人が戒告の処分を受けたという結果が出ています…

公立学校で育ったあなた、歌っていましたか?

大阪の例は、公務員である教職員についての規定ですが、児童・生徒に関してはどうでしょうか?

公務員である教員が歌わないのは問題ですが、そうではない立場の人間が歌わないことには特に別段の規定はありません

ということは、原理上「教職員だけが君が代を歌い、児童・生徒、ほかの大人は歌わない」ということがあり得ることになるでしょう。(現実に起きうる可能性は限りなく低いでしょうが…)

ちなみに、大阪の条例を巡っては、当時の教育長が「条例化は必要ない」と府議会で答弁するなど異論もありました。しかし当時の橋下知事は「国旗・国歌を否定するなら、公務員を辞めればよい」と強い姿勢で臨み早期成立させています。

これは憲法19条に反するのか?~最高裁判例~

憲法第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 児童・生徒(やほかの保護者)は歌わなくても許されるのに、教員は歌わなければならない、これが憲法19条の思想・良心の自由の侵害ではないか、という裁判がすでに起きています。

例えば有名なのがこういった訴訟。

平成11年4月1日に東京都内の小学校に着任した音楽教師Kが、同年同月5日に開かれた職員会議の席上で、校長から翌6日の入学式で君が代の伴奏をするよう指示されたが、思想・信条上の理由により拒否した。

翌日の入学式では、国歌斉唱時に5~10秒間待ったが、Kがピアノ伴奏を開始しないため、あらかじめ用意してあった君が代の録音テープを再生して、国歌斉唱が行われた。

Kは、職務命令に従わなかったという理由で戒告処分を受けた。この命令は憲法19条に違反し、上記処分は違法であるなどとして、処分の取消しを求めた。

ちなみに、Kの思想・信条上の理由とは、君が代がアジア侵略で果たしてきた役割などの正確な歴史的事実を教えず、子どもの思想・良心の自由を保障する措置をとらないまま君が代を歌わせるという人権侵害には加担できない という理由です。

実際の判決は?

結論から言えば、原告である教諭Kの敗訴(1・2審も敗訴)が確定しました。

判決文からポイントをまとめると、

公立小学校における入学式や卒業式において、国歌斉唱として「君が代」が斉唱されることが広く行われていたことは周知の事実であり、客観的に見て、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであって、上記伴奏を行う教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難

つまり、音楽の先生が君が代の伴奏をするのは割と「普通」のことで、伴奏そのものが「思想・信条の表明」というのはちょっと無理があるよね、ということです。

しかし、同じ判決を出した裁判官から、こういう反対意見が出たという記録が残っています。

むしろ、入学式においてピアノ伴奏をすることは、自らの信条に照らし上告人にとって極めて苦痛なことであり、それにもかかわらずこれを強制することが許されるかどうかという点にこそある。

 つまり、いやいやそうやって「普通」のこと扱いするけど、その普通がK先生にとっては極めて苦痛で、それなのに強制してよいのか、ってことが一番問題なんだよ、ということです。

あなたはどう考えますか?

私なんかは、「1分程度のものなんだからすっと歌ってしまえばいいのに、」なんていう浅い感覚を一瞬持ってしまいますが、他者の人権をないがしろにするものは、いずれ自分の人権もないがしろにされる、でしょう。

しかもそれが権力を持つ国家による介入であることをみれば、慎重に考えなければならないことだと思います。

現に処分されている先生方がたくさんいる、というのも、難しいところです。

ただ、注意したいのは、君が代不起立だけで、減給や停職、ましてや免職の処分は許されないとの司法判断は確定していることです。*1

それでも、再任用拒否教員が出ている点は、別に議論の余地があると思います。私はこれも問題だと思いますが…

※教員は大体60歳が定年で、年金支給の65歳まで、希望する教員のほとんどが再任用(雇用)されます

【2018.2/24追記】大阪府:元教諭が大阪府を提訴。これから注目です。

「君が代」起立めぐり再任用拒否 元教諭が大阪府を提訴:朝日新聞デジタル

【2018.7/20追記】東京都:一審二審原告勝訴からの最高裁逆転判決。

君が代不起立で再雇用拒否 最高裁、都の裁量権認める(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

2つだけ論点というか気になったことを。

都教委によると、13年度の選考からは懲戒免職処分を受けた場合などを除き、退職者が希望すれば原則、採用しているという。

①今回の訴訟は06~08年の再雇用選考での取り扱いの不当性を訴えていたので、希望すればほぼ採用されている13年度以降だったら判決がどうなっていたか、と思ってしまいます。日の丸・君が代に関する訴訟は1つ1つの訴訟が微妙に背景が異なるので、状況を注視していないと、過度な一般化を招く恐れがあり、そこが判例主義・前例主義の怖いところだと思っています。

君が代をめぐる訴訟で、最高裁は11年、起立斉唱を命じた職務命令を合憲と判断。12年には、職務命令に違反した教職員の懲戒処分で「戒告は裁量権の範囲内だが、減給・停職は慎重に考慮する必要がある」との基準を示した。

②今回は定年後の再雇用という点で、12年に示された(通常の)教員の「減給・停職」の議論が適用されるわけではない、という枠組みが示されましたね。ただ、今回の判決によって、定年後の再雇用拒否がありうることが示された結果、萎縮して自らの思想・信条を封じ込めることが出てきてしまうでしょう。悩ましい。

おわりに

君の意見に賛成できないが、君が意見を述べる権利は死んでも守る。

 フランスの啓蒙思想家・ヴォルテール

「君が代」問題についてはこちらの記事が論点をまとめてくれています。筆者のスタンスもありますが。

toyokeizai.net

う~ん、私立だから無頓着だったけど、公立の先生はどうお考えなんでしょうか…

小学校の多くは公立。ましてや地方にどれだけ私立小学校があるか。嫌なら私立へどうぞ、というのもなんだかなあ。