やっちゃえ先生ブログ

教員の、教員による、教育のための探究記。 大胆かつ繊細に、実のある記事を。 民間企業→私立中高一貫校→私立高校(今ココ)。

【書評】必読の書!新井紀子『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』~どんな力を育てるか?の指針~

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1500円+税で読めるのは本当にありがたい。

東ロボくん(東大合格ロボ)の研究者である新井紀子先生の研究や講演会の内容がぎっしり詰まった超良書です。帯が若干あおり気味ですが、本当に本当にいい本!

AI vs. 教科書が読めない子どもたち
もくじ

AI関連本の原点!!

圧倒的おすすめなのですが、その理由として、AIの原点にもどってきた!という印象がめちゃくちゃ強いからだ。

例えばレイ・カーツワイルの文章を読んだりしていると、AI半端ない…という実感で胸がいっぱいになるのだけれど、

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新井先生はそれに待ったをかける。

AIはコンピュータ。

コンピュータは計算機。計算機にできることは限られている。

それは数学が扱えること。

つまり、論理・統計・確率に落とし込めるもの。

だから、AIは意味を理解しない、のだ。AIに代替されない人間のファーストステップは、意味を理解できること、だろう。

「人間なんだから意味を理解するなんて当り前じゃないか」と思う方こそ、ぜひ本をご覧ください。衝撃の事実が書かれています。

いつも素敵な記事を書かれる江川さんが新井先生にインタビューしている素晴らしい記事もどうぞ。

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さて、ここからは現場の教員として、感じていることをつらつらと。 

試験で何を問う?

今試験を作成しているのだけれど、論理・統計・確率に落とし込めない問題をなるべく作りたい。と今まで以上に思って作問にとりかかる。

単なる一問一答、穴埋めや、キーワードを拾って答えを推測できるような問題は、AIの得意中の得意な問題だからだ(たとえAIが意味を理解していないとしても、「正解」は「正解」だ。)

と思いつつも、採点の負担を考えると、意味を持たせつつも、選択肢に落とし込める形の問題にしたい、なんていう全体最適の視点が働くのが教員である。

ただし、選択肢に落とし込んだとしても、AIは膨大な「教師データ」から関連性の高いものをひっぱってきて、これかな?と答えを出してくる。

そしてその「学力」レベルでいえば、AIは、すでにMARCH合格レベルに達しているのだ。

だから、「意味」を問いつつ、選択肢に落とし込めたとしても、その問題が「AIに代替されない力をもった」生徒の育成に寄与する問題か?というと、限りなくあやしい。

「意味」や「考え」を扱う問題を選択肢に落とし込む、という方向性は見えたものの、教員も試験作成アーティストと化すわけにはいかないので、時間との勝負。

もう少し具体的な方向性があれば、作問の時間を短縮できると思うのです。

人間がAIに勝てる可能性のある分野は?

じゃあどうすればいいのか?と唸りながら本のページを開くと、あったあった、「人間がAIに勝てる可能性がある重要分野」として3つの分野が挙げられています。

推論・イメージ同定・具体例同定の3つです。

「推論」=文の構造を理解したうえで、生活体験や常識、様々な知識を総動員して文章の意味を理解する力

「イメージ同定」=文章と図形やグラフを比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力

「具体例同定」=定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力

これは定かかどうかわかりませんが、センター試験廃止後の大学入試共通試験の問題がチラシやポスターの内容を理解して答えるものであったり、

英語のセンター試験の文章で会話文問題が出題されているのは、

こうした傾向に沿った物、つまりAIにはまだ解けない問題に近い出題ではないか、と感じます。

しかし、センター試験の公民科目の内容であれば、どうでしょう。

確かに、文章の趣旨理解を問う問題や、思想家の記した文章から適切な具体例を選ばせる問題などは出題されていますが、思想家のキーワードさえ頭に入っていれば、容易に正解を選べる問題も出題されています。

センター試験だけでなく、学校の定期試験でも、AIが答えられるようなことばかり聞いていては、生徒から「マジこの試験意味ない」と言われかねない。

教科の専門性との兼ね合い

だからといって全教科で、チラシ読み取りの問題を出すわけにはいきません。高校であれば、教科の専門性も少し高まります。

その中で、どんな問題を出せばいいのか。

意味を見出す問題、がキーワードだと思いますが、市販の教材等をみても、そのような問題はほとんどありません。

あったとすれば、国公立二次試験か、ハイレベル私大の一般試験、あとは小論文でしょう。

それを採点できるのか、はたまた、学校によっては「横でそろえる」(=同一学年の同一科目であれば、担当者が違っても試験は共通で行う)科目なのかどうかも、現実的に考えねばなりません。生徒の「学力」が一定程度高ければ横でそろえる必要はないと思いますが…。

いずれにせよ、学校でどんな力を伸ばしたいんだっけ?学校の定期試験ってなんでやるんだっけ?何を問いたいんだっけ?生徒のどんな力をのばしたいんだっけ?という問いを現場に投げかけてくれた超良書。

教育関係者、子育て中の方、絶対に読んで損はしないと思います。こういう理論と研究と現場をつなぐ本は、本当にありがたいです。自分にとっては試験問題作成前に読めてよかった!

おわりに

2018年の少ない読書の中ではおすすめランキング暫定1位の本であることは間違いない。

AIの行く末とか、特化型と汎用型とか、シンギュラリティの到来とか、カーツワイルが言うような指数関数的発達を遂げるとか、「そんなのは幻想に過ぎない」、と新井先生は実証研究からばっさり切っていく。

そこまで言い切って大丈夫なのか?と思うのは”批判的思考”といえるか、または自分が巷のAI本に汚染されているからなのかわからないけれど、AIの到来によって、「真の学力」像がくっきり浮かび上がってくるならば、それはチャンスととらえたい

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

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