やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

あなたはどっちにつく?中国の「未来」を決めた1度きりの選択〜世界史を捉え直す〜

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歴史。それは、絶え間なく流れる大きな川。
その中のキラキラした一滴を「秘話」と呼びます―*1

時は17世紀。アジアの雄・中国の明に迫り来る終焉の時。

秀吉の朝鮮出兵。軍隊の反乱。政治腐敗。

戦費はかさみ、そのしわ寄せが民衆に。

民の心を失った時、それは中国の王朝が交替する時。

南からは反乱軍が破竹の勢いで明の首都に迫る。

北からもこの機を逃すまいと異民族の軍が押し寄せる。

北の防備を任された明の名将に入った首都陥落の知らせ。

名将は二者択一の決断を迫られます。

「もう戻るべき国はない。反乱軍につくべきか、異民族軍につくべきか。」

名将はついに決断を下します。その決断とは…!?

◯「世界史を分かりやすく捉え直す」試み。

世界史上の人物に焦点を当て、その人の「気持ち」から歴史のストーリーを紡ぎ直すことの面白さを伝えてみたい、と書いた記事が好評を頂きました。 

yacchaesensei.hatenablog.com

yacchaesensei.hatenablog.com

日本史に比べ、世界史は日本語でアクセスできるリソースが多くないだけに、世界史の面白さを広く伝えたいのです!

冒頭で紹介したように、今日は、中国・明の時代。内乱を食い止められず、首都が陥落し、国としての終わりを迎えている場面です。

 

◯手書き地図で状況を追ってみよう

歴史が苦手な生徒にも分かりやすく状況を理解してもらうために、ほとんどの教員は簡単な絵を描きます。

以下に載せる絵は、私が通勤途中に手書きアプリで作った地図です。指が太く、美しい図が書けませんが、生徒に見せている黒板の絵とほとんど同じです(切ない)

 

①むかしむかし、明と清が争っていました。

中国を中心とした図だと思って下さい。中国には、「明」がいました。

明は中国人の国です。民族としては、「漢民族」です。

 

一方、明の北東には、日清戦争で有名な、あの「清」がいました。

清は実は中国人の国ではありません。中国の東北部=「満州」にできた国です。民族としては「女真族」がつくった国です。

本拠地も、民族も異なる2カ国は、互いにしのぎを削り、争っていました。

明は清が攻めて来ないように、あの「万里の長城」を中心に防備に力を注ぎます。

さあ、ここで「あなた」の登場です!

明は、明軍の中でも精鋭中の精鋭である「あなた」を防衛軍として「山海関」(さんかいかん)という関所に派遣します。イラストの赤い星印のトコロです。

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※ちなみに、20世紀の日本軍=「関東軍」の名前の由来もここにあります。この赤い星で記した、「山海」の「側」で主に活動する部隊なので、「関東軍」と呼ばれています。要はそれくらい、「山海関」が重要な場所だったということです。

 

②農民・李自成(りじせい)が反乱を起こして、明の首都を陥落させました

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冒頭で紹介したように、民の心を失った明は、反乱を起こされます。その首謀者が「李自成(りじせい)」という農民です。

李自成軍は破竹の勢いで歩を進め、ついには明の首都・北京(図の黄色い丸)に迫りました。

赤い星「山海関」にいる勇猛な武将であるあなたは、「こりゃやばいぞ…何とか俺が駆けつけるまで持ちこたえてくれ…!!」と北京へ帰還する準備を大慌てで整えます。

そんな中、部下が言うのです。

「北京が、北京が陥落しましたっ…!!!!!!!!」

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あなたは悲しむ間もなく、

「コレはまずい…明を滅ぼした李自成の反乱軍は勢いに乗って、このまま俺たちのいる山海関に来るはずだ。俺たち明の精鋭を全滅させてこそ、李自成の野望も成し遂げられる…だが、今俺たちに李自成の大軍を迎え撃つ兵力はないぞ!!!!!」

最悪のシナリオが頭をよぎったそのとき、もう一つの知らせが北から届いたのです。

 

③清軍が北から攻めて来た! 

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中が乱れれば,外から攻めて来る」は歴史の鉄則。

外から恐れていた清軍が攻めてきたのです。あなたは二者択一の決断を迫られます。

「もう戻るべき国はない。李自成の反乱軍につくべきか、異民族の清軍につくべきか。」

あなたなら、どっちにつきますか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

李自成は同じ中国人です。 一方、清は女真族=外国人です。

言葉も文化も異なる外国人、しかもその外国人の進入を阻むためにあなたは派遣されていたはずです。

しかし、「あなた」の選択は、周りの予想とは逆のものでした…

◯ 「あなた」=呉三桂(ごさんけい)、清につく!!

「あなた」の正体は、実は呉三桂という将軍です。(写真はwikiより)

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彼は、同じ中国人の李自成ではなく、異民族の清を選んだのです。

その理由は諸説あると言われていますが、結局は

「どちらについたら今後自分に利があるか」を考えた末の選択だったのでしょう。

 

彼はこう考えたのではないでしょうか。

「李自成の反乱軍に味方したところで、元は南部の農民。明の国力はなく、漢民族の国をつくったところで、混乱は必須。それならば、清に恩を売って清とともに李自成を倒し、自ら新国家の要職に就く!

中長期で物事を観た、呉三桂の目論見は実現します。

 

◯清軍、山海関を突破、北京侵攻、李自成の反乱軍は大敗

呉三桂は、清軍を山海関から招き入れ、共に北京を攻めます。

李自成の反乱軍と壮絶な戦いの末、呉三桂+清は勝利

 

この後も色々と一悶着あって呉三桂は清に反乱を起こすのですが、こうして、明から清へと、中国史は続いていくのでした。

あなたは、どちらにつきましたか?歴史もこうやってみると、少し変わって見えるでしょうか。

あ、でも呉三桂は中国の「売国奴」として罵られることになるんですけどね…。

歴史の評価は難しいですが、当たり前を問い直すにはもってこいの学問です!

*1:歴史秘話ヒストリア - NHK

*2:李自成(明末农民起义领袖)_百度百科