10年間にわたる追跡調査の中間報告をまとめた1冊。
高校2年生から大学1年生の3年間を追跡調査してここまでで分かったことの総まとめです。
高2の資質・能力が大学生になっても…
3年間の調査報告の要点は、Webにも報告書がUPされています。
その調査報告書の要点は次の2点。
高校2年生の半数は、さほど資質・能力を変化させることなく大学生になる。
高校2年時の家庭学習や対人関係・コミュニケーション、キャリア意識が、大学1年時の資質・能力を含め、さまざまな側面における学習に影響を及ぼす。
私事ながら、来年度は高2の担任を仰せつかっています。
高校2年時の資質・能力が、大学以降にも大きく影響を及ぼすことを示唆するデータ・分析が本書でも示されていて、
「4月の授業開始時はもちろん、保護者会でもこれそのまま援用できちゃうな…」と思わされます。というか、使った方がいいなと思わされます。
もちろん、学校の特性もありますし、最後は生徒自身の叶えたい進路を叶えるためのサポートに尽きるのですが、自分のような経験の少ない教員が担任となると、保護者の方の不安も大きいはず。
そこで教育の方向性をエビデンスをもって示すこと、それに基づいた実践によって成長を支えることを伝えていきたい。
「いや、高3の受験で生徒は成長しますから大丈夫です」
そんな反論も溝上先生はデータを用いて反論しています。
結果はむしろ、高校3年生を飛ばしても、高校2年生の秋と大学1年生の秋との資質・能力に高い関連性が見られる
もちろん受験によって成長する生徒がいることは否定していません。
しかし、大学とそれ以降の社会人に重要な力は受験だけでは養えない、という主張。
例えば、文科省が打ち出している「習得・活用・探究」という3つの学習要素について、受験で養えるのは「習得」がいいところでしょう。
それでも、一定数の教員は、大学受験の絶対性を楯に取って、受験のための教育から逃れられない姿を見せています。
溝上先生は、このように現場の経験則だけで生徒の成長を語ることに大変手厳しい。
結局のところ、移行先の大学や仕事・社会で求められる資質・能力を真正面から見ていない
卒業生のアセスメントをしないから、自分たちが育てた生徒がどの程度、大学や仕事・社会に移行できているかを知らないのである。知っているのは大学受験の合格実績だけである。見ているものが違うから、いつまでたっても溝が埋まらない。
手厳しいけれど、否定できないのであれば、受け入れなければならないでしょうね。
文武両道に見える生徒の実体は〇〇タイプ!
先の例のような、受験で成長するから!のような現場の感覚・経験はこれだけじゃない。
例えば、「文武両道」という言葉。
「部活動も勉強も両立して、大学受験を目指しています!」と言わない私立進学校ってあるのだろうか、と突っ込みたくなるくらい、この言葉にはよく耳にする。
じゃあ文武両道ってどういう状態?と言われると、答えに窮してしまう。
そんな学校現場の怠慢を調査は一刀両断してくれる。
結局のところ、文武両道だと見える生徒の姿の実体は、“勉学タイプ”か“勉学そこそこタイプ”にある。(中略)文武両道が本質的に重要なのでなく、“勉学タイプ”“勉学そこそこタイプ”といった生徒タイプが本質的に重要であることを示唆する
怠慢と言っては言い過ぎかもしれないが、学校現場にいる人間として、この指摘は耳が痛い。
他にも、「部活でコミュニケーション力は上がるから大丈夫!」という現場の楽観にも釘を刺しまくっていたり、現場の経験則だけで生徒の成長を語る学校現場には大変手厳しいのです。
でもそれは学校批判では当然ありません。
日本の教育を真剣に考えているからこそ示される言葉が沁みます。
“勉学タイプ”ってじゃあどういう生徒?とか、じゃあ高2で何をするよう指導すればいいの?という問いの答えは本書をお読みいただくとして、
こういう指摘を真摯に受け止められる学校から、「学習する学校」になっていけるのだろうと思う。桐蔭学園さんみたいに…
おわりに
じゃあそういう指摘をどうやって受け入れればいいの?
という指摘に対する現場の「口を開けて餌を待つ雛」的な態度にも溝上先生はちゃーんと本書でそれなりの答えを示してくれています。
高大接続の本質―「学校と社会をつなぐ調査」から見えてきた課題 (どんな高校生が大学、社会で成長するのか2)
- 作者: 溝上慎一,京都大学高等教育研究開発推進センター,河合塾
- 出版社/メーカー: 学事出版
- 発売日: 2018/02/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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何かと叩かれがちな大手教育系企業だって、こんなアセスメントを作っています。
学びみらいPASS | 教育研究開発活動 | 河合塾グループ
こうした非認知能力を数値化して、追跡調査と合わせて学校の「教育力」を見える化していく。そんな動きが高校にも押し寄せています。
あとはその波に、乗るか、飲まれるか。
新年度の教育活動について今ぐるぐると構想してますが、本書で示されている結果を来年度の改善案の土台の1つとして、現場で援用していきたいと思っています!
現場は色々あるけれど、いる人間でじわじわ動かすしかない、2018年度も頑張りたいと思います。