センター試験に代わる大学入学共通テストのプレテストです。
昨年の調査では、同センターは各問題の配点を示さなかったが、今回は明示し、全体の正答率は5割を目標に作問したという。
今回のプレテスト(2回目)は5割ベースの試験だということだけ頭に入れて、先に前回(1回目)の「現代社会」の調査で感じていたことをまとめておきます。
最も正答率が低い問題
昨年度の1回目の調査で、最も正答率が低かった問題がこれです。
「すべて選べ」という設問は確かに難しいのですが、問われていることは非常に単純。
そう、最も正答率が低かったのは、暗記問題。
前回の試行調査では設問別の正答率がすでに公開されています。驚愕の4.8%。*1
「主に問いたい資質・能力」をみると、「知識・技能」しか尋ねていない問題なのです。
ちなみに、2番目に正答率が低かったのは、需要供給曲線問題の応用。これが難しいのはわかる。ところが、3番目は、憲法14条関連の判例を選ぶもの、これも知識問題です。
よしあしはさておき、前回の試行調査では「結局暗記問題で差がつくよね!」ということになり、結果的に「じゃあ今のセンター試験とあまり変わらないね」という言説を生んでしまったと思っています。
その反省?を生かして行われた2回目のプレテスト。どう変わったのでしょうか。
読解力ベースの問題
まず、今回から政経・倫理・現代社会と3科目そろい踏みした初めての試行調査となりました。政経・倫理は単体科目として初のプレテストです。今日は政経について。
仕事の速いロカルノさんの国語のプレテスト雑感で述べられていた、
先に断っておくが、あまりテストの是非については興味がない(というか、対応するしかない)ので、その点については議論しない。あくまで、日常の授業や生徒への指導との関係で興味があることを記すに留める。大学入学共通テストプレテスト雑感 - ならずものになろう
「授業や生徒への指導との関係」について最も感じたのは、読解力が大いに試されるようになった、ということ。
政経に関しては、第1問でその傾向が顕著に出ている。正直、結構気を使ったし、「め、めんどくさい…」という印象をもった。
また、第4問の最後、SDGsを題材に日本のODAの方針とそれを示す適切な資料を組み合わせて選ぶ問題も、会話文・資料・選択肢あわせて4ページ分ある。
でも思考力・判断力を問いたいなら当然そのめんどくささは引き受けなければならないし、教員である自分の目線でいえば、生徒に負荷をかけず、こちらが柔らかく噛み砕いた知識だけわかりやすく教えて飲み込ませたところで、生徒の噛む力は全く発達しない、ということなのだろうか。
生徒自身に、噛ませないといけない。
そしてそれは、「あの先生の授業は大変、めんどい」という言説に変わるのだけど、それを恐れていてはいけないんだろうなあ、とぼんやり思う。
原理と具体例の往復
を求める問題が多かった。「この行動をするには、どの原則に則っていると言えますか?」とか、「この発言の趣旨に合う具体的な事例はどれですか?」というような類のもの。
これはAIがまだ苦手とされている、
「具体例同定」=定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力
に近い問題だと感じます。第1問はかなりその傾向が強く、「え、この調子で続くとしたらもはや言語能力の問題になってこない?」と思いました。
高校生の立場と結びつける
これはメモ程度。そういう問題がちらほらありました。
日常生活の文脈、高校生自身の生活の中で直面する事象「AO入試」「奨学金の返済」など。
問題の設定として、高校生同士の議論の場面や、オープンキャンパスに参加して受け取った模擬授業の配布資料の一部、授業で使ったノート、発表資料を設問の材料として使っているものもあります。
日常とかい離しないようにする工夫は、教科書レベルでも実践されるべきだと思う。
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個人的に驚いたのは、第4問の問4。母親と息子の会話で、
息子「もし2012年に米ドル建ての預金をして、2015年に円と交換していたらどうなっていたかな。」
母「きっと、( X )」
この( X )に入る言葉を選ぶ問題なのだけれど、
答えは「為替差益を得られたわね」という言葉になる。
個人の資産レベルでの問題設定は今までのセンター試験ではなかったんじゃないか…?とにかく政治経済の事象が日常と直結していることを示したい意識はすごく伝わってきます。日々の授業もそうでありたい。
知識問題はあまり変化がない?
「主に問いたい資質・能力」の欄にご注目ください。
「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を問うているわけです。
学力の3要素にばっちり対応する出題にはなっているのですが、今回のプレテストを解いた感じでは、「思考力・判断力・表現力」の欄に記入があるにもかかわらず、その力を問おうという意図が感じられない問題もちらほらありました。
例えば、この問題とか、
この問題で、「現代における政治、経済、国際関係に関わる事象の関係やその意味や意義について考察することができる」はちょっと無理がないでしょうか…私が慣れてしまっているだけ…?
ただ、だからダメだ!と思っているわけではありません。
公平性を担保しながら、思考力・判断力の○×を問うことは難しいし、どうしても世間の道徳を意識したものが正答となってしまいやすいから(公共担当教員が道徳指導教員を担うという話とつながる)。
つまり、「思考力・判断力・表現力」を、記述のないマルティプルチョイス(多肢選択)型の試験で問う難しさを感じました。
その意味で、まさに思考力を問うような問題もありました。
第2問の問7の排出権取引をテーマにした問題は、知ってれば強いけれど、こういう問題を解ける生徒を育てたいか?と言われればYESと答える問題かも。
おわりに
読解力や資料問題が増えている関係で、ページ数もかなりある。厄介なのは、1問が数ページにわたって続いている問題。
これは、多くの受験生にとっては「まあめんどくさいな」程度だけれど、肢体不自由など、人によってはページをめくる物理的負担が大きくなり、精神的には大きな負担・焦りとなるのかもしれない。
仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけど、そもそもそういう方々がどうやって紙の試験を受けているかを知らない自分がいることにも気づく。
【倫理編の記事をかきました】
*1:ちなみにこの問題の答えは、②③⑤⑥⑦。