やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

大学入学共通テストプレテスト雑感(倫理編)ー課題探究を題材とした大問が登場?ー

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センター試験に変わる入試、プレテストの倫理を解いた雑感です。

今回のプレテスト(2回目)から政経・倫理・現代社会と3科目そろいました。政経・倫理は単体科目として初のプレテストです。

※昨日は政経編をまとめました。本記事でも前半は重複する部分があります。

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昨年の調査では、同センターは各問題の配点を示さなかったが、今回は明示し、全体の正答率は5割を目標に作問したという。

共通テスト試行、2回目を実施 高校生8万人が参加 :日本経済新聞

正答率が5割ベースの試験ということを頭に入れて、先に前回の「現代社会」の調査で感じていたことを確認します。

最も正答率が低い問題

昨年度の調査で、最も正答率が低かった問題がこれ。

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「すべて選べ」は確かに難しいのですが、問われていることは単純。

そう、最も正答率が低かったのは、暗記問題

前回の試行調査では設問別の正答率がすでに公開されています。この問題の正答率は驚愕の4.8%*1

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「主に問いたい資質・能力」をみると、「知識・技能」のみを尋ねる問題なのです。また、3番目に正答率が低かったのも、知識問題でした。

よしあしはさておき、このような状況から前回の試行調査では「結局暗記問題で差がつくよね!」ということになり、結果的に「じゃあ今のセンター試験とあまり変わらないね」という言説を生んでしまったと思っています。

その反省?を生かして行われた2回目のプレテスト。どう変わったのでしょうか。

ロカルノさんの雑感で述べられていたこの観点から感じたことをまとめます。

先に断っておくが、あまりテストの是非については興味がない(というか、対応するしかない)ので、その点については議論しない。あくまで、日常の授業や生徒への指導との関係で興味があることを記すに留める。大学入学共通テストプレテスト雑感 - ならずものになろう

消えた趣旨合致問題

公民のセンター試験といえば、一問一問が独立しており、リード文を読まなくても個別の知識で解けてしまう、という現実的な課題があります。

それを解消するために現れたのが倫理に特徴的な趣旨合致問題でした。この問題は今年のセンター試験の倫理第1問の最後の問題。

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ただ、この問題が各大問に必ずあり(計4問)、それだけで10点近くの得点が見込めることから「倫理って現代文の問題があるよね」と言われている状況です。

しかし、今回のプレテストにおいては、各大問の最後の問題が趣旨合致問題ではありませんでした。

だからと言って文章を読む必要性が薄れているわけではなく、政経同様に、一問一問でしっかり読ませる問題が増えた、という印象です。

その点で、政経同様、読解力ベースのテストに変わろうとしているのはよく伝わります。

用語→資料→経緯・影響→生徒の分析

今回「おっ」と思った出題はこの問題。

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4問が連なっており、はじめに選んだ選択肢によって残りの問題の選択肢も変わってくる、という問題になっている。

用語→資料→経緯/影響→生徒の分析 という順番で展開していくこの流れは、通常授業であれば「生徒の分析」に力点を置いて授業を構成すべき、と示唆しているように受け取りました。見たいように見すぎているのはお許しを。 

ちなみに、配点を見てみると、4問連続で正解した(正しい組み合わせを選べた)場合にのみ正解とし、「4点」が与えられる、ということでした。

これは妥当だと思います。組み合わせで答えるということは、4つの正しい答えの組み合わせのうち、最も自信のあるものを解答にできるので、結果的に正答率は上がると思うからです。

ただ、途中まであっていても1つ間違えたら0点になる。4 or 0という得点の仕方は受験生にとっては慎重になる要因でしょうね。(現代文の8 or 0よりはマシか…)

共通する概念を扱う倫理ならでは

倫理で特に試しやすいのがこういう問題かもしれません。

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要するに、個別具体の知識を束ねる共通概念について問うもの。言い換えれば、テーマ別の学習が有効になるのかもしれない。

ざっと思い浮かんだものを書いておくと、例えば、「愛」「正義」「平等」「真理」「善」「救い」「自由」「意識」「進歩」「繋がり」「生産」など。

もちろんこれは今までのセンター試験でも、倫理の授業でも意識されてきたことかもしれないけれど、バカロレア(IB)の歴史プログラムのように、概念から個別の思想に入っていく、という学習の方向性を勧めている匂いがする。

個人的には、抽象概念と結びつかない個別具体の網羅主義を終わらせたいと思っているのでありがたいし、今回の倫理のプレテストはかなり細かい知識はそぎ落とされた印象。日本思想ががっつり削がれた印象もある。

概念」からスタートして自分ごとに引きつけて分析していくプロジェクト学習との親和性は高くなっていくのだろう。

「探究学習のプロセスから試験を作れ」 

第4問は私にそう訴えかけているような気がしてならなかった。

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完全に独り言になってしまうけれど、このプロセスに似たような探究プロジェクトを生徒が進めていて、まさにその発表会中なので、自分の試験でもこんな感じで定期試験問題を作れ、と言われているような気がしてなりません。気のせいなのはわかっている。

クラスごとに取り組むテーマが違うので、クラスごとにテストを作れるならそれはありだと思えるけど、今の私の実力では無理そう。

ただ、手前味噌ですが、探究の発表に対して生徒がコメントをし、そこでも新たな学びが行われる、という状況は類似しているのです。それをGoogle Classroom等のツールが後押ししてくれている。

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問題作成における主な工夫・改善にも書いてあった

「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」が往復運動を続ける授業。

そういう授業を作りたい。

おわりにー哲学・倫理ー

この記事↓は本当に精選してオススメ本を書いたので読んでほしいのです。

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今年のセンター試験の分析。

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*1:ちなみにこの問題の答えは、②③⑤⑥⑦。