やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

【書評】『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』を読もう!ー教育界への示唆に読む挑戦の書!ー

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高等教育の再創造」を本気で志す壮大な試みです。ビジネス書としてもオススメ。

宣伝色の強い装丁にやられて積読本の中から読むのを敬遠していた1冊、早く読まなかったことを後悔しました。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ

取っ散らかると思いますが書きたいことを書いてみます。

学生の学び を軸に

ミネルバ大学の革新性は上の装丁にあるような内容(校舎なし、講義なし、テストなし、全寮制、授業はオンライン)で、キャッチーで目を引く。

が、やっていることは全て「学生の学びを軸とした教育に立ち返るための手段

課題と打ち手がバッチリ噛み合い、一貫している印象です。

本書でも何度も示されるミネルバのミッション

世界のすべての才能ある学生に、これからの変化の激しい世界や未知の分野で活躍できる実践的な知恵を、適切な学費で提供すること

の実現に向けて、できる打ち手を尽くしているから、読んでいて「あ〜自校でもこんな改革したい〜〜〜」という意欲を刺激される。

このミッションが口だけじゃない、金儲けじゃない!という本気度がスゴイんですよ。こちらもムズムズしてきます。

でもそのムズムズを改革に移していくときには問題に直面します。

改革のインセンティブ

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大学でなくても中等教育でも全く同じことが言える。

そして、学校は改革のインセンティブが見出しにくい組織です。

教育が重要だ!と言いながら、心の底では「自分の子だけが良ければいい」と思っている親は多いでしょう。

そして、子供が「いい」人生をあゆみ始めれば、別にそれでいい。教育界全体は遅れているけれど、自分の子は「一抜け」したから、と。

あるいは、現状維持ですら大変なのだから新たなことはしなくていい、という教員もいる。

そういう教員は「自分の勤務校は黙っていても生徒が入ってくるから」という状況に甘んじて、「本当に良いことができる」のに面倒なことはしない。

つまり、社会としても、学校組織としても教育は改革のメカニズムがない

学校は年度を止めることができないので、とにかく現状維持の方向にいきがちなのです。

その現状維持を打ち破るために、ミネルバの実践は示唆に溢れます。

究極のアクティブラーニング?

当ブログでも書評を書く本はだいたい学習科学に基づいた良書を選んでいるつもりです。ミネルバ大学も学習科学の知見に裏付けられた教育を行っています。 

www.yacchaesensei.com

www.yacchaesensei.com

www.yacchaesensei.com

ミネルバの特徴は、「概念を使いこなす」ことを目指す点。

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http://un-control.com/2018/12/17/minerva-schools/より

1年次に115項目からなる思考習慣や基礎コンセプトを使い、高度な汎用スキルを身につけようとするあり方は、「生きる力」の再定義にもがく日本の教育界が参考にできる点です。

この発想を聞くと、概念学習に力点を置く国際バカロレア(IB)と親和性が高いのも頷ける。

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https://www.ibo.org/globalassets/digital-tookit/brochures/what-is-an-ib-education-jp.pdfより

IBの授業を何度かみたことがあるが、例えば、フランス革命という事象から、「暴力」とは、「権力」とは、「権利」とは、そういう概念を主体的・対話的に掴んでいく授業は印象的だった。

ミネルバのオンライン授業で実現しようとしているのも、それに近いのではないだろうか、と邪推してしまう。

ただ、読むとわかるけれど、ミネルバはインターンなども積極的に行っているので(学業に支障が出るという言説を一刀両断しているのは面白かった)、

勝手なイメージだと、

  • IBの概念学習
  • 慶應SFCの社会との協同学習
  • 講義なし・試験なし=序列化された学びからの脱却
  • 全寮制でオフラインの学び
  • Allオンライン授業で形成的な学び

そんな要素をうまくブレンドしている。

革新的なのは、そのブレンディッド具合がミッション以外のものに左右されず、ミッションに直線的に結びつくからだ。

教員が話せるのは10分

90分授業で教員が話せるのは「10分」。

これにより、教員は生徒ひとりひとりのコンセプト熟達度の把握と、即時フィードバックに集中できる。これは学びの個別化の発想とも繋がる。

ミネルバの手法を真似しようと思ったら、当然反転授業の発想が欠かせない。

過去にこんな記事を書いているけれど、

www.yacchaesensei.com

今はもう少し反転授業「導入」したい!と考え方が変わってきました。

年度末なので生徒と色々1年の学びを振り返っていて、そう思わされるのです。

全寮制→オフラインの学び

実は私はここが重要だと思っているのだけれど、全寮制であるが故に、オフラインでの学びが可能になる

例えるなら、オンラインでの学びが場内戦、オフライン(寮)での学びが場外戦でしょうか。

課題に取り組みながら、寮での対話的な学びが自然発生する、そういう学びが発生するしかけがある。で、その時間はとても楽しいのです。

私も大学時代は寮生活をしていて、本当に楽しかった。

学びに貪欲になれたのは寮生活だったからだし、そこでの多様な価値観との出会いは今やり直せと言われてももう戻れない煌めきの時でした。 

組織の意思決定は?

いいものはやろう!」というタイプの人間なので、こういう改革の書を読むとワクワクするのだけれど、一方で、組織としての意思決定はどう行っているのか気になった。

大学って多くは教授会のような組織で意思決定をしていくのだけれど、組織の意思決定はどうなっているのだろう。ミネルバも、あのHigh Tech Highも、教員は1年契約だった。

でもまあそんなの関係ないのか。

組織のミッションがきちんと血肉化された教育者であれば、何年契約だろうと必要な人材であることに変わりはない。

おわりに

この記事自体もかなりミネルバの方向性に賛同しているけれど、それは「教育にとって本当に大切なことは何か?」という問いからミネルバが逃げていない、と思えるから。

本当に大切なことにリソースを割くこと。

色々なしがらみでそれが難しい複雑な社会に、テクノロジーを駆使して、シンプルに打ち手を用意し、実行する。その姿勢に刺激を受けました。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ

 

最後に著者がこう述べています。

ミネルバ大学で用いている思考・コミュニケーションのコンセプトを中等教育時代から意識して個人プロジェクトや学習への取り組みに反映できる人材を育成すること

これ、中等教育の教員研修とかないのかな…学びたいです。

【追記】著者の山本先生のツイートです。