毎年やっているセンター試験公民科目のゆる解説、今年から共通テストなのでしっかりめの解説です。今回は倫理編。
プレテストの傾向・政経の分析を踏まえると、
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- 読解力ベースで文章量が多い
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
という特徴が出ています。
これに加えて、コロナ禍の社会情勢を含めた出題はどうなったでしょうか。
早速、大問1から解きながら、受験生目線も交えて解説していきます。問題は読売新聞から。
初の共通テストで出題形式など変わったため、記事も長くなりますが、問題が面白いのでお付き合いを!
- 設問番号1は難易度MAX?
- 科目横断的な出題か?
- ソクラテスの熱いスピーチ
- 大問1(第1問)のテーマが◎
- どーん!と絵からの出題
- 100分de名著を観ていれば!
- 南方熊楠は昨今のブーム!?
- 訴えかけるリード文!
- 良心の敵は「社会通念」
- 『君たちはどう生きるか』から
- 趣旨を、念押ししている
- リオタールとハンス・ヨナス
- メディアリテラシーを倫理で問う
- この問題の出題意図は?
- 忘れてしまうことばかり
- 第4問のリード文は歴史総合で使えそう
- まとめ
- 政経よりも強く感じた点
設問番号1は難易度MAX?
政経もそうでしたが、なぜか設問番号1は難しい!
キリスト教学校なら①を即答できるかもしれないけど、②〜④は世界史やっていた方が有利に働きそう。
考え方としては、②は自然と落ち着くなんて荀子は言ってないし、④はシーア派のこと、①か③か迷って、③の「天人相関」なら「善政ー安寧、悪政ー災害」になるかな、と判断して①を選ぶような消去法でしょうか。
去年の倫理の設問1もいきなりクワインが登場して、難しかったです。
いずれにせよ設問1で受験生をあせらせるのはやめて…
科目横断的な出題か?
政経の解説記事でも「現社っぽい」「地理っぽい」問題がいくつかありましたが、こちらも。
古代思想に関してはどうしても世界史っぽくなるけれど、そこに現代のイスラーム金融の話を織り込んで現社っぽい匂いもする。
ソクラテスの熱いスピーチ
ほとんどの資料集に載っているソクラテスの熱いスピーチが出題されました。
これ、個人的には大好きなんですよね。
民衆裁判にかけられ、死刑判決を受けてしまうんですが、当時もう老人だったソクラテスを本気で死刑にしよう、と考えていた市民は多くなかったわけです。
「まあ謝ったら許したるから、はよ謝って」くらいのテンションで裁判にかけたら、ソクラテスは「お前ら恥ずかしくないのか!」と大真面目にブチ切れるわけですよ。
よく生きること、知を愛し求める(philosophia)ことを最期まで貫いた彼の生き様。
ここから哲学(philosophy)が始まっていきます。
なお、この問題はこれまでのセンター試験同様の資料読み取り、かつ内容も平易なので確実に取りたいところ。第1問は設問1以外は割とすんなりと解き進められそうです。
大問1(第1問)のテーマが◎
設問1や、序盤から難しい政経とは打って変わって、比較的平易な問題が続いている印象の倫理ですが、やっぱり倫理はリード文がいいですよね。
第1問のテーマが「恥」について。高校生は周りの目を本当に気にしてしまう年頃です。気にしないでいようとしても頭をもたげてくる、健全な気がかりです。
その気がかりを探究のテーマに変えて、古今東西の「恥」にまつわる思想にあたり、本質観取を進めていく深い学びが生まれるのを妄想していました(私だけ)。
リード文がテーマに関して一定の役割を果たしていた元来のセンター試験。倫理は形式の変更で今年からリード文はかなり減った印象だけど、去年のセンター倫理も非常に良かった。
センター2020倫理を解いてますが、今年のリード文は4つとも哲学対話のイントロで使えそう+ストーリーにもなる笑
— やっちゃえ|Blended Learning (@Yacchaee) 2020年1月18日
大問1で現代の課題を見つめつつ友の大切さを悟り、大問2で旅に出る。旅に出ると「伝統とは、国とは」という問いに大問3が応え、大問4で受験生を労ってる(なお受験生は読まない)。 pic.twitter.com/hsz4gFIcbc
ぜひ問題をざっと眺めて見てください。
さて大問2(第2問)へ。テーマは「時間・人生観・死生観」です。
どーん!と絵からの出題
プレテストでもありましたよね、1ページ全て絵で埋め尽くす問題。
問題自体は難しくないですが、こういう授業を高校でやるときは真ん中の「感じた疑問」を「質問づくり」でじっくりやりたいですよね。
高校生になると面白がることを忘れてしまう、んじゃなくて、学校がそうさせていないか、問い直さないと。
100分de名著を観ていれば!
地理の問題で「天橋立」が出題され、ブラタモリで扱った内容と的中したという話がありましたが、その意味ではこれも(かなり大きい的だけど)的中では。
教員なら録画しておいて損はない、「100分 de 名著」。おすすめです。
去年はペスト、純粋理性批判、共同幻想論、モモ、ディスタンクシオンなどなど、素晴らしい回ばかりでした。ちなみに今は資本論、たまりませんね。
関連して、こちらの新書も素晴らしかった。資本主義の危機については色々な所で語られてきたけど、そこに環境問題との密接な関わりを見出し、未来を構想する論が展開されていて超おすすめです。
南方熊楠は昨今のブーム!?
最近の南方熊楠の注目されようはなんでしょう。そういう意味では時事問題に思えてきます。
独学大全でも南方熊楠は出てきたけど、「知の妖怪」ってすごいあだ名ですね。
mainichi.jp
あとは単純に民俗学の注目度も高まっている気がするな。ああ積読本。
割愛しますが設問16の高村光太郎の「永遠の感覚」もとってもいい文章で生徒に紹介したくなります。もう共通テストが本質観取の練習帳になっている気がしてきた。
さて大問3(第3問)へ!
訴えかけるリード文!
きましたきました、センター試験を彷彿とさせるリード文!
何がいいって、冒頭もそうだけど、最後の締め方。
相対主義と見せかけて、普遍的な問いを提示してるんですよね。
哲学を、自らの信念の補強のためではなく、自らの信念を「検証」するために用い、他者と了解を紡いでいくために使う。そうした哲学の用い方をしているように思えます。
良心の敵は「社会通念」
これもハッとさせられませんか。ルソーの文章です。
そして問題も、具体例に落とし込んで答えを選ばせています。
答えは④ですが、ギクリとするのは私だけではないはず。
この後、割愛しますが(空想的)社会主義者、キルケゴール、フッサールと出題が続きます。フッサールが難しいかもしれないけど、現象学のポイントさえ押さえていれば取れる問題。
『君たちはどう生きるか』から
社会情勢をかなり意識していますよね、これも数年前のヒットが出題につながっているでしょう。
読解力があれば易しい問題ですが、ここまでみても、単なるキーワードと人物の暗記問題は減っていますね。
ただ、政経はそれをうまく知識と整合させる問題が多かったのに対して、倫理は読解力一辺倒になっているような感触もぬぐえません。
趣旨を、念押ししている
新しい形式です。リード文を読んで、さらに会話が展開される、という形式。
といってもここで注目したいのは設問の形式・答えではなく、趣旨です。
ここでも自己を問い直す、検証することの意味を念押ししているのがわかるでしょうか。
自己の信念をunlearnするための哲学であり、そこからより強い共通了解が生まれる。
そんなことを示唆するように読めます。
さて最後の大問4(第4問)へ。
リオタールとハンス・ヨナス
これは②③を消した後、①④で迷った受験生もいるでしょう。
ただ、細かい知識がなくても「ポスト・モダン」や現代思想がどのように誕生したのか?を踏まえてほしいし、①の「大きな物語の復権」にきな臭さを感じて欲しい。
と言いつつ、ヨナスの世代間倫理は、その名で呼ばれていなくてもよく目にする言説であり、今後目にすることも増えるでしょう。
関連事項を調べていたら見つけたインタビュー、面白かったです。初心者向けではありませんが…
メディアリテラシーを倫理で問う
と、こうなるのか、という一つの問い方。読解問題ですねこれも…
読解問題+社会情勢を反映した出題もやはり多い印象です。
この問題の出題意図は?
おお、と思わず声が出たのはこの問題。
この問題への感度が、前述の設問番号19で指摘されていたことなのではないか、と思ってしまいました。
かなり話題になったこちらの記事を思い出す人も少なくないでしょう。
忘れてしまうことばかり
生活の中で忘れてしまうことに焦点を当てようという意識が強く滲みます。
これ、下線部fは「犠牲者を歴史から消してはダメだよ」という発言の「犠牲者」にかかっています。
ただ、どうしても読解に寄りすぎかな、と思ってしまいますが。
続く設問31も心理学の記憶にまつわる実験の手順と結果を読んで回答する問題でした。
点は取りやすいから良いのですが、読解力一辺倒で丁寧な哲学史学習は結実しない印象をもってしまいそう。
第4問のリード文は歴史総合で使えそう
ということで全部解き終わったのですが、第4問のリード文は歴史総合で「歴史とは何か」という問いと一緒に読ませる文章に使えそうです。
まとめ
ここまでの雑感を、プレテスト・政経の分析と突き合わせると
- 読解力ベースで文章量が多い
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
という点は政経と似ていました。一方で、
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
という点、必要性に関してはあまり倫理では感じませんでした。
出題形式の目新しさはありましたが、時間のかかる資料問題や、時事問題が増加した感覚もそこまでありません。
政経よりも強く感じた点
①科目の性質上やむを得ませんが、読解力一辺倒になっている印象は強く、旧来のセンター試験の課題を乗り越えられていない面も見受けました。
が、これは言うは易しで、行うはかなり難しいでしょうね…曖昧なものは避けなければならない、でも確実に違う、という選択肢をつくるのは至難です。
また、
②メッセージ性も、性質上倫理の方が感じる出題だったと思います。
これも旧センター試験から変わらない特徴かもしれません。
倫理政経の受験者にとっては今年は倫理が易しめ、政経が難しめなので、そこまで例年と変わらない平均点が出るかなと予想します。もちろんどの問題が選ばれているかによりますが。
いずれにせよ、見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求するという点では、決して今後も対策は変わらないでしょう。
【2021.1/31追記】
第二日程の問題を解いて、見えてきた「見方・考え方」を生かす方法について記事にしました!
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