共通テストの問題がヒントをくれた気がしています。
政経・倫理・現代社会の公民3科目についてプレテスト(試行調査)、第1・第2日程の問題を解いたことで「見方・考え方」をいかに授業で扱うか、その考え方を少し整理できた気がします。
あくまで暫定解ですが、考えたことを記事にしておきます。
原典・判決文を読ませる意味
プレテストでも最高裁判例の判決文を読ませ、並び替えをさせて法的思考を丁寧に辿る問題が出ていました。また、第一日程でも、同様の出題がありました。
これに関連して、政経の第一問ではこんな出題が。
旧センター試験であれば、『リヴァイアサン』そのものを聞いたり、社会契約説の思想家(ホッブズ・ロック・ルソー)の違いを判定させたりするような問題が頻出でしたよね。
ただ、この問題は、『リヴァイアサン』やホッブズを知っていて、ロックやルソーとの違いを判定できたとしても、その根底にある「自然法思想」のコアを理解していないと、「知っていてもできない」と言いかねない(貧弱な知識を露呈しかねない)問題です。
なぜ原典や判決文などを出題するのか?
もちろん言語活動の充実は2000年代から重視されていることですが、単に読解力を試す、という意図だけではないと思います。
私なりの考えでは、そこに「教科の見方・考え方」が強く反映されているから、だと考えています。
つまり、見方・考え方を反映する知識が、原典や判決文の中に織り込まれていることが多い、ということだと感じています(そりゃそうだ!と思う方にとっては当たり前すぎることかと思いますが…)。
見方・考え方を生かした出題の例をもう一つあげてみましょう。
見方・考え方を生かした出題の例
同じ第二日程から。科目は現代社会です。
経済学の基本原理である「機会費用」の出題です。
この問題は、機会費用という原理の理解を、具体的な数字を操作することによって確かめる問題です。
「機会費用」だけ覚えていても、このリード文を読まなければ「Y」の答えは導けません。
つまり、経済学的な見方・考え方(機会費用)をいかして、私たちの現実生活を認識する、そういう問題の構図になっています。
つかみたい構図
見方・考え方を生かして、現実を認識する
この構図を先に紹介した問題に当てはめると、
政治学的な見方・考え方(『リヴァイアサン』・自然法思想)を生かして、私たちの現実(国家の存在意義・役割)を認識する
ことになるのではないでしょうか。
他の例をあげると、第一日程の政治経済から、最高裁判決も含め、法学的な見方・考え方をいかした出題があったことを思い出しました。
法学的な見方・考え方(奥平ー永井論争・最高裁判例)を生かして、私たちの現実(義務教育「無償」の趣旨・意味)を認識する
という出題になっていることが理解できるのではないでしょうか。
指導要領解説の文言が身近に
こうして共通テストの問題をヒントに、
「見方・考え方」を生かす
=見方・考え方を生かして、現実を認識する
という構図に落とし込むことができる、と考えると、指導要領解説の下の文章も少し身近に感じます。
・現代社会の見方・考え方(公民的分野)
社会的事象を,政治,法,経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え,よりよい社会の構築に向けて,課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付けること
https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/VIEW21_kyo_2017_01_toku_02.pdf
後半の「課題解決のための選択・判断に資する概念や理論と関連付ける」というところがわかりにくいですが、
要は私たちの現実(社会や生活)を作るために役立てる、と同義ではないかと考えています。
だからこそ、今回の共通テストでは、理論的な知識をいかに具体的な例(質的)や数字(量的)に落とし込んで活用できるか、という出題が目立ったのだと思います。
それはまさに、教科の見方・考え方を生かした出題の典型例、ということです。
さらに出題例!
最後にもう一つ、第一日程の倫理から例を出してみます。設問をよく読んでみてください。
「身近な例に置き換えた記述」を選べ、という問題ですよね。
哲学的な見方・考え方(ルソーの『エミール』)をいかして、私たちの現実(世間の中に置かれた良心のあり方)を認識する問題になっています。
こうした見方で共通テストの問題を見直すと、確実にセンター試験から変化していることが手に取るように理解できるはずです。
共通テスト公民科目6回分を解いて、自分ごとに迫るような場面設定が多いのはなぜか?も「見方・考え方」を生かす(文脈を作る)ため、と整理できた気がします。
奈須先生もこう言っている
ここまで見てくると、奈須先生の言葉もしっくりきます(斜体・青字は筆者)。
「子供たちが明晰な自覚を持ってその教科ならではの『見方・考え方』を身につけ、さらにその教科が主に扱う領域や対象を踏み越えて、それらを様々な問題解決に自在に駆使できるようになるということです。
それはまさに資質・能力が身についた状態なのですが、よくよく考えれば、それこそがいわゆる教科の本質や教科の系統を大切にすることであり、したがって本来の意味でその教科をしっかりと教えるということだったのです。」(117)
見方・考え方を生かすことが、資質・能力の育成につながり、学力の3要素を育むことになる、という新学習指導要領の目指す方向性を理解できる文章です。
おわりに
公民科目は「親学問」と呼ばれる政治学、経済学、法学、哲学、一部社会学などの内容が混在しています。
その学問をその学問たらしめている基礎基本こそ、その科目の見方・考え方に他ならないですよね。機会費用の出題はまさにその典型でした。
この、
親学問のいわば基礎基本にあたる知識が、「見方・考え方」につながる
という点から言えることは、
教師が、教育技術の向上にとどまらず、積極的に親学問に親しむ姿勢(今まではこちらが強すぎて生徒を置いてけぼりにしていたとしても)を忘れてはいけない、ということだと感じました。
当たり前のことしか言えていない気もしますが、共通テストが「見方・考え方」の生かし方について教師に迫ってきた、そんな感覚になっています。
よかったら第一日程の分析記事も、本記事の観点からご覧ください。
第二日程の公民科の解説記事はまた別記事にしたいと思います。
一問ずつスクショして貼っていくと結構時間がかかるのです…(もはや自分の作業メモ笑)