2025年から始まる「公共」の共通テストサンプル問題が出ましたね。
問題等の一覧はこちらからどうぞ。
出題の「ねらい」が公開されているのが大きいですよね。
指導要領との対応も明記されているのが特徴です。公共はA~Cの大きく分けて3つの項目立てで構成されている科目です。
- A項目「公共の扉」
- B項目「自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」
はセンター試験→共通テストの流れを踏襲するのは想定できますが、
- C項目「持続可能な社会づくりの主体となる私たち」
でどのような出題が見られるか、個人的には注目していました。
※プレテスト段階になるとこれに「正答率」がついてくるのでより分析が深まります。
10問程度のサンプルですが、何問か見ていきましょう。
改正民法、ここでも。
所有権絶対の原則と契約自由の原則が並べて出題。
2022年4月から施行される改正民法を意識した出題は共通テスト(現代社会・政治経済)でも増えていたのでその流れを踏襲する印象です。
18歳選挙権、にばかり注目が当たるけど、家庭科でも消費者としての主権者教育はかなりアップデートされている印象です。
ここ2ヶ月くらい、課金もして民法をがっつり学んでいるのだけど、契約主体としての18歳という立場はもっと強調されていい気がしますね。
というのも、今の現代社会や政治経済では、民法学的内容はほとんど高校で扱われていないからです。
公共でもう少し反映したい気もしますが、そもそも高校で公民科目の必修が2単位で終わりというのが致命的すぎて…
2単位で主権者教育を「完成」させるのって誰がどう見ても無理です。ただ、そういう議論がなかなかなされません。まあ権力側から見れば、従順な国民が一番扱いやすいですからね…そういう視点で社会科教育って始まったのに、、です。
単位の奪い合いではない方向で、こういう議論をしていかないといけないのにね…
意思決定・合意形成
「選び方が変われば、結果が変わる」という認識は、共通テストで出題されましたね。
その流れを汲んだ出題でしょう。ただ、選び方・考え方・結果まで全部出題されたのは初めてじゃないかな?
この手の内容を日本で広めたのは間違いなく慶応大の坂井先生だと思います。
実際に共通テストでの出題があり、坂井先生の目にも留まりました。
これはこのように言ってよいと思うのだが、今年の共通テスト「現代社会」に、明らかに『多数決を疑う』が生んだ問題系での大問がある。本の引用はないが、それでよい。これまで各種試験にこの本が使われることは多くあったが、新しい問題系として確立したということだと思う。https://t.co/KwytdyQuWP
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
要するに、わたしが数えきれないほど各種メディアに書いて、イベントや調査で実施しきた、「決め方によって結果が変わる」という問題である。こうやって少しずつ(今回のは大きいですが)社会に問題が浸透していくのは、本当に嬉しい。まとまった解説のひとつはこちら。https://t.co/7FNDkKgjCv
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
学問のバトンパスを感じますね。「これが問題であるという認識」は確実に広まっているように思います。
これは本当に本音なのだが、私が望んでいるのは社会に「これが問題であるという認識」が浸透することだけであって、他はどうでもよい。本の売れ行きはもちろん、論文が良いジャーナルに載ったとか、何かの名誉を得たとか、そんなものに人生を費やすほどの価値があるとは思えない。今回のことは嬉しい。
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
言うまでもなく、こういう問題系が確立したのは、わたし一人の力ではない。学問は数百年単位で進んだり、浸透したりするもので、私の少し前にルソーやコンドルセがいる。その列の末席に、ささやかながら自分を置いてよい気がする、というのが嬉しいのだと思う。微力ながらパスを繋げた悦びというか。 https://t.co/SslJZ17TmM
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
『多数決を疑う』や、『決め方の経済学』まだお読みで無い方はぜひ。この2冊から専門書の『社会的選択理論への招待』に行くとぐっと深まって面白いです。
私はこの3冊で授業づくりの主要文献とした単元がありますが、生徒も自分ごととして「決め方」を捉えられるいい契機となっている・・・かも。
真正な学び・・・?
リアルな文脈に生徒の学びを位置付け「真正な学び」 によって動機付けも担保する、という点では意義深い設定に思えますが、聞かれていることはやはり質の高い基礎知識ですよね。
誤っているものを「すべて」選ぶような設問にした方が良さそうにも見えますね。
1つだけだと分かって読めばある程度あたりをつけられて、正解層と不正解層がはっきり分かれそう。
にしてもこんな予算案作成できる生徒、、、どこに動機があるのかも見えませんが、こういう「実際には起こりえないであろうシチュエーションを当然に問題に使ってくる茶番」はやめてほしい、と思ってしまうのは私だけでしょうか。。
都合よく子供を利用するような設問ならストレートに知識だけ聞いてほしいと思ったりしてしまいます。大人のそういうところに子供は敏感です。
第3問はC項目に対応!
ここまではA項目「公共の扉」、B項目「自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」に対応する設問のみでしたが、冒頭で述べたように
- C項目「持続可能な社会づくりの主体となる私たち」
に対応する問題が登場しました!
これは【説明メモ】を丁寧に読まないと解けません。一筋縄ではいかない「推論」問題ですね。
「それは何を示す指標なのか?」を理解した上で、資料を読み解き、選択肢の具体的な推論結果の正誤を判断する、という処理工数が多い問題です。
鍵を握るのは最初の指標の理解。こういうものをちゃんと理解しようとすると時間がかかるし、一人一人の躓きの原因を見定めないといけないんですね。
そういう意味では、数学や情報で、アダプティブな問題演習を行うような機会が求められるでしょう。「公共」だけの問題ではありませんね。
※ちなみに「情報」のサンプル問題第2問では、公民っぽい文脈で出題がありました。ご興味ある方はどうぞ。
第6ページにわたる問題文
第3問の問3は選択肢が5つの資料から会話文に当てはまる内容を選び、最終的には9択から1つを選ぶ問題。
問題文自体は割愛しますが、大枠は前掲の問2と同じです。
指導要領に則って言えば、資料を使い、自分で「課題を見出す」ことを促す文脈での出題ですが、やはり慶應SFCの一般入試くらいやらないと、どうしてもその力を試す、という形にはならないですよね。
結果として、この手の問題は知識を必要としない読解問題となり、「差がつきにくい」問題になりそうですね。
結局、センター試験の頃から変わらず、差がつくのは「知識(一発)問題」です。ここはなかなか揺らがないかもしれません。
おわりに
最終的に以下のように、「公共」単体での共通テストは存在しない、ことを考えると、「公共」として出題される問題は、今回のサンプル問題の後半のような出題が増えると思っています。
つまりC項目に該当するような探究学習を背景に置いて、課題を自ら導き出したりする学習活動と持続可能な社会づくりのための視座を絡めるような問題です。
気になるのは難関大学がどの科目を指定してくるか、ですね。
仮に「地理総合、歴史総合、公共」を指定してきた場合は、2年かけて学習を積み上げることになるでしょうが、現代社会的な位置付けかもしれません。
そうなると、やはり下の2つ「公共、倫理」あるいは「公共、政治・経済」になるのかなと。
だいたいこの手の議論は、「まあ、やるべきことをやっていきましょう」となって現状維持になりがちんだけど、その「やるべきこと」の指針としては
2021共通テストが示した「教科の見方・考え方」を生かすということだと思っています。料理人の腕が問われますね・・・。