やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

東北大のAO入試問題がすごいので見てほしい!

 

「ぶったまげたおかっぱ少女ぶったまげたおかっぱ少女」[モデル:ゆうき]のフリー写真素材を拡大

いやあ、やっぱりすごいと思うので見てほしい。

とっても月並みな言葉だけど、東北大のAO入試がアツい

受け持っている生徒も推薦・AOの添削を頼みにきてくれるのだが、やはり色々な大学の問題をみても、これからますます大学入試はこういう方向に行くのだろうと感じる。

めざせ、東北大!

全国の国立大学が今目指している方向性は、間違いなく東北大だ。

昨年度の東北大の全学部の入学者のうち、推薦+AO入試が504名。一般入試が1949名だ。

これを割合で表すと、推薦+AO入試入学者は25.8%となる。

http://www.tnc.tohoku.ac.jp/images/various_data/H29_sohkatsu.pdf

目標の30%まではあと数%、今年度は歩留まりの見極め精度もあがり、30%にさらに近づけてくるだろう。

もっとも、工学部なんかは、入学者805名のうち、234名がAO入試だ。その割合は29%。2017年度でこの数値だから、もうほぼ達成といってもいいだろう。

www.yacchaesensei.com

国立大の入学者の3割を推薦+AOで、という意向を目標より3年も早く達成している。(もちろん、入学後の追跡調査は必要なのだが)

 ではいったい、どんな問題が出題されているのか?

2017年度AO入試Ⅱ期の問題から抜粋して紹介しよう。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)における参加国は、将来的に自国の製品の関税を撤廃することに同意した国々の集まりです。将来、各国の関税が下がって海外からの輸入農産物が安価に購入できるメリットと、自国の農業が衰退する可能性のデメリットについて、 あなたの考えを述べてください。(800字程度)

 自分が地歴公民科の教員であるので、どうしてもこういう分野の問題が気になってしまうのだが、なかなかえげつない入試だと感じる。

その理由を簡単にまとめよう。

①定義・メリット・デメリットを提示

知識そのものを聞いていないのだ。

TPPとは何か、どういうメリットがあるか、デメリットがあるか、知らなくてもこの場で理解すればいい、と言ったら言い過ぎだが、それくらいの意気込みを感じる。

ぐぐればいい時代なんだから、知識はあげます

知識からどう考えるか、あなたの見方・考え方を聞きたい、という意図を感じる、といったら過大評価だろうか。

②どの角度からか、は提示されない

メリットとデメリットについて、あなたの考えを述べよ、だ。

どういう観点から、という提示が一切ない。場所や時代、立場の設定がないのだ。

自分で関心領域とつながりをもたせながら立場を固めて書く、というのは相当難しい。

※私はICEモデルからきている発想か?と思ったのだが、どうだろう?ICEモデルとは|ALbase

ありきたりなメリット・デメリットの分析・比較になれば、きっと合格するのは難しい気もする。うまくないたとえだが、

問題を切る自分の刃物の形を自分で知っていなければ、切り方がわからないまま終わってしまう問題だろう。

③試験時間30分、800字

②をふまえて、”書く”トレーニングをしてきていることが前提となる時間配分だ。

800字手書きで書くのは結構大変だし、論理性を考えて構造をつくっていこうとすると、30分はぎりぎりの勝負だろう。

当然、TPPの背景知識も生かせるだろうが、知識のアウトプットを求められている問題ではない。うーん、大変。

④これが農学部の問題!

TPPは農業の問題というのは分かるが、そのメリットデメリットというのは極めて社会科学的な話になってくる。(というのは私のバイアスだが)

分野の垣根があまりないのだ。

どういう学生がほしいのか、メッセージ性がある問題だろう。

※評価基準は気になるが、そのナレッジはサンプル数の多い塾や予備校にたまっていくことを願う。

他学部の問題も、おもしろい

ご丁寧に昨年度の問題を公開してくれている。(リンク最下部)

東北大学 入試センター | AO入試

公開期限は2020年となっているが、高校関係者は知っておいて損はないだろう。

こういう入試に立ち向かう生徒が増えるのである。

学力突破型のかつての入試像から、教員も脱却しなければいけない。ああ、授業をどうするか毎日ワクワクしているが、背筋が引きしまる。

いつでもどこでもだれでも学べる時代に、学校教育がすべきこと・できることは何だろう、それ以前に、この時代の教育者としてやりたいことはなんだろう?

こんなの普通だ、なんていうのは簡単だ。大人は入試を評価することばかり躍起になるが、生徒たちの不安と焦りにどこまで親身になれるかだ。

それは受容力と同時に、本当の力をつける授業を展開する力だ。

試されるなあ。

一般入試よりAO入試が主流になる…?~教員と生徒はきっとこうなる、なり始めてる~

面白い調査結果も見つけたので、現場の実感と合わせてまとめておきたい。

現在の中学3年生からは、大学入試において「センター試験」がなくなる。

「エネルギー波を繰り出す女子高生エネルギー波を繰り出す女子高生」[モデル:大川竜弥 河村友歌 Max_Ezaki]のフリー写真素材を拡大

記述問題が導入されたり、英語に関しては外部検定の導入までされるというニュースを耳にしたこともあるだろう。TOEICもOKになっちゃうのだ。(言い方)

www.yacchaesensei.com

これから入試が変わっていく、そう感じている方も多いだろう。しかし。

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【書評】科学が教える子育て成功への道~単なるhow to本ではない学習科学の知見!~

夏は授業の内容(Contents)だけではなく、まとまった時間を理論の勉強に費やせる貴重な時間だった。ということで、紹介したいのがこちらの新刊。

科学が教える、子育て成功への道

科学が教える、子育て成功への道

  • 作者: キャシー・ハーシュ=パセック,ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ,今井むつみ,市川力
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2017/08/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

普段はこういう「子育て」本は対象とする子供の学齢の違いもあって、あまり読んでいなかったのだが、訳者の先生とたまたまお話しする機会があったので手に取った。

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主体的で深い学びを実現している生徒が本当にすごい!~ソクラテスの語る教育とは?~

教育とは何か?ということを考えたことがあるだろう。古代ギリシャの哲学者・ソクラテスをご存知だろうか?

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無知の知を自覚し、対話を通して真理の追求を目指した哲学者だ。(簡単に言いすぎ)

上の絵はあの有名な「ソクラテスの死」。「悪法も法なり」と言ったとか言ってないとかあるが、ただ一つ言えることは彼が不正な判決を受け入れて死を選んだということである。この前NYでホンモノを見ることができテンションが上がった。

ソクラテスの教育思想

教育とは、炎を燃えあがらせることであり、入れ物を埋めることではない。

というのがその考えだ。知者と呼ばれる人であっても「自らを知らない者」と認識する、という彼の人間観がこの言葉にも表れているだろう。

つまり、教員が生徒を「まだ中身の少ない器(入れ物)」とみなし、その入れ物を満たすためにあれこれ教えるのは教育ではない、と言っている。

生徒の中にパチン、と炎を燃え上がらせること。与えるのではなく引き出すこと。これに尽きる。

ホリエモンこと堀江貴文さんは「学び=ハマること」と定義していたが、まさにこれだ。

燃えあがっている生徒!

何故こんな話を最初にしたかというと、まさにこの夏休みに、内なる炎を燃え上がらせ、ハマっている生徒がいるのだ。あまりにすごい、素晴らしい生徒なので少しだけ紹介したい。

具体的には、

0から憲法や人権のことを理解したいのでオススメ本を教えてくれ、と聞いてくる

→まあここまではたまにある。10冊近く教えておいたら、1ヶ月でほとんど読んでしまった!(素晴らしい!)

そこからが、さらにすごい!

 

読んだ後にどうしたらいいか?まで聞いてくる

→ここで裁判傍聴や夏休みを利用したその他の機会を紹介する。

本来なら有志で裁判傍聴に行ったり、授業内で大学の教授を呼んだゲストレクチャーを行いたいが、この生徒は自分でどんどん学ぶので敢えて行動すれば学べるものを紹介した。

すると…

 

・裁判傍聴に行った感想を伝えてきただけでなく、論点を設定し、先生はどう思いますか?と議論を始める

→恐るべし、ですね。これぞ主体的で対話的な学び。あれ、何処かで聞いたことがある。笑

ちなみに論点は、人工知能が裁判官を行うことはできるか?

読んでくださっているあなたはどうお考えだろうか?

さらに生徒の炎は燃え上がる…

 

・先生も〇〇に参加しませんか?と誘ってくる

→こちらが紹介した活動に参加し、友人を作り、先生にも参加してほしい、と呼びかけてくるのである。本当に恐れ入る行動力だ。この流れだと、大学生になってからも、というか一生学ぶだろう。この生徒とともに授業を作れていることは教員冥利につきる。

 

これぞ主体的で対話的で深い学び

本当にそう思う。自分で学んでいる。大人はその邪魔をしない、ともに走る伴奏者になるだけだ。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/29/1376580_2_4_1.pdf

こんな生徒が、他にもどんどん出てくるような授業をしなければいけない。そろそろ秋の授業設計を深めなければ、と思わされる読書の夏であった。