夏は授業の内容(Contents)だけではなく、まとまった時間を理論の勉強に費やせる貴重な時間だった。ということで、紹介したいのがこちらの新刊。
- 作者: キャシー・ハーシュ=パセック,ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ,今井むつみ,市川力
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2017/08/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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普段はこういう「子育て」本は対象とする子供の学齢の違いもあって、あまり読んでいなかったのだが、訳者の先生とたまたまお話しする機会があったので手に取った。
科学が教える・成功・超一流
「科学が教える」「成功」というキャッチ―なタイトル。
しかもサブタイトルは「強いココロと柔らかいアタマを持つ「超一流の子を育てる」だ。言っちゃ悪いがうさん臭さ満載のこのタイトル。
原書のタイトルは“BECOMING BRILLIANT: What Science Tells Us About Raising Successful Children"だ。
直訳すると「賢くなること:子育てについて科学が教えてくれること」だろうか。
超一流というのはやはり原書のニュアンスとは少し違う気がするが、
原書のタイトルでは、誰に向けて書かれたかというのも、イマイチ伝わらない。
読み始めは、そういう観点から、邦題のつけ方を変えたのだろう。という印象しかなかった。
ところが、読んでびっくり。
学習科学の理論と実践を結びつけた良書だった
これが結論だ。訳者の先生に義理立てするわけではない。良書だった。
読み終えた私が仮に「売れる」ことを一切抜きにしてタイトルをつけるとすれば、
『6Csの理論と実践〜教育における場づくり〜』だろうか。センスはない。
これでは売れないだろうから、あえてあの放題(と日本語のチョイス)をした、のだろうが、「どういう子供を育てることが成功か」ということをまず明確にしている。
冒頭はこう始まる。
「賢い子供」「子供を成功させる」と聞いて、勉強ができて学校の成績がいいのが「賢さ」で、いい学校に入って高収入を得るのが「成功」とイメージしたかもしれません。しかし、この本で皆さんに伝えようとしている「賢さ」「成功」はそうではありません。
さらにこのように続く。
「成功」とは、「健康で、思慮深く、思いやりがあり、他者と関わって生きる幸せな子供を育て、皆が他者と協力し、創造的で、自分の能力を存分に発揮する責任感あふれる市民となること」
「誰もが様々な分野で輝くこと」
これを読めば、教育者として、そうだよそうだよ、と思わざるを得ない。
しかも、序盤は「なぜそのような成功を求めるのか」という時代背景や過去の教育をめぐる議論を交通整理しているので、「なぜそれを求め、そのために何をするのか」の流れが明快だ。
でも保護者や教員が次に言うのは、「で、どうすればいいの?」だ。
紹介されている理論「6Cs」(シックス・シーズ)
そのために紹介されている学習科学の理論が、これだ。
理論というより、この6つの「C」の力をつけましょう。といえば簡単だろうか。
教育者や保護者であれば、この「6Cs」を育てられる子育て・学びの設計をしましょう、ということだ。
- コラボレーション(Collaboration)
- コミュニケーション(Communication)
- コンテンツ(Contents)
- クリティカルシンキング(Critical Thinking)
- クリエイティブイノベーション(Creative innovation)
- コンフィデンス(Confidence)
しかも、この6Csをどうやって高め(させ)ていけばいいか、それぞれの力の到達度をレベルに分けてくれているので、読みやすい。漠然と力を伸ばそう!本ではない。
ここだけちょっと紹介。この表に基づいて、どういう状態が、どのレベルに属するか、を確認しながら読んでいける。
実践の方向性を示してくれており、その抽象度の具合がちょうどよい。
あまり具体的すぎるとマニュアル本・ハウツー本になってしまうし、抽象的すぎても理論だけが先行して結局現場は何をしたらよいかわからない、という状態になってしまう。
その意味で、現場の教員として非常に有益な本だった。
- 作者: キャシー・ハーシュ=パセック,ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ,今井むつみ,市川力
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2017/08/19
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読後感は自分の授業でも実践している「質問づくり」を紹介したこの本に近い。
抽象度がちょうどよいのだ。
たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」
- 作者: ダンロスステイン,ルースサンタナ,Dan Rothstein,Luz Santana,吉田新一郎
- 出版社/メーカー: 新評論
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: 単行本
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そして質問づくりってやっぱり意義深いよなあ、と思わされた。
もう一度、秋の質問づくりを、この6Csに基づいて組み立てなおそう。