やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

【書評】『教育の効果‐メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』ジョン・ハッティ~「教育=場の価値の最大化」?~

教育の効果をエビデンスで語ろう。

そんな21世紀の教育改革を、強烈に後押しする1冊です。

教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化
もくじ

教育=介入がどれだけの効果を持つか?

が本書のコンセプト。教育の語源はEduce(引き出す)ことだけれど、

つきつめれば、教員のしていることは、生徒の持っているものを「引き出す」ためのしかけの計画と運用である、と個人的にも思っています。

教師の仕事とは、教育条件、学習者の個人差、さまざまな指導方法との交互作用を想定しながら、日々の指導にあたることである。交互作用を想定するには、各々の要因の効果を、実証的知見を踏まえた理路の通った説明に基づいて理解する必要がある。(20)

教育は相手によって全く効果が異なり、方法も変わってくるけれど、

効果のある介入(教育)をしていくために、どんな教育が効果的なのか、だけでなく、それがなぜ効果的なのか、あるいはなぜ効果的といえないのか、について、エビデンスをもとにした説明がなされていきます。

読みたいように読んでしまわないように

読んでいくと、「おお~これってこんな効果あるんだ!」とか、「でもその点を改善すればこれもきっと効果が出るんだろうな」とか、自らの実践に照らしていろいろなことが浮かび上がってきます。

正直途中から、「効果のある教育的介入のリスト」を読んでいる気分になってくるのだけれど、そこで要注意なのです。

では何に注意すべきか?ということですが、あすこま先生の言葉を拝借します。めちゃめちゃ納得度の高い言葉です。この書評記事を読めば、かなり本書の意義がつたわると思うのでぜひご覧ください。

ジョン・ハッティ『教育の効果』は刺激的な本である。この本は、「この方法は素晴らしい!」「この方法はダメ!」という「答え」が載っている本ではない。むしろ、僕らが持っているそういう「思い込み」を相対化して、自分の現場での最善を考えるための参考資料である。

この本のおかげで、自分のイデオロギーに自覚的になり、少し冷静に自分の授業を振り返ることができる。現場にいては見えないことが、現場にいないからこそ見える。そういうことってあるな、研究の価値ってあるな、と思う一冊。[読書] 現場では見えないことが、現場にいないから見える。ジョン・ハッティ「教育の効果」(1) | あすこまっ!

 苫野先生も同じことをおっしゃっていますよね。

ということで、自分の思い込みを相対化しながらも、自分の実践に役立てる、「教育の効果」を再考するための「参考資料」として、読み進めました。

ここからは、私なりに注目したトピックをいくつか紹介します!

学力に「負」の効果をもたらすもの…

効果があるものは何か、そしてそれはなぜか?という点に焦点が当たっている本書だけれど、逆に、「これは学力を下げる!」という要因も明らかにされている。

訳出されてないのが残念だけれど、巻末の「効果量順のメタ分析」を読むと、こうなっている。ワースト5といってもいいのかもしれない。

夏季休暇、生活保護、原級留置、テレビ視聴、転校

という要素であった。

ワースト1位は転校

これは肌感覚では分かるけれど、転勤族が多い地域で育ち、今の勤務校も転校経験がある生徒が多く集まっていることを考えると、見逃せない指標だ。

ワースト2位のテレビ視聴がなぜ学力向上に逆効果か、という理由の中で述べられていることで面白かったのは、

1日あたり視聴時間が2時間までの場合には視聴時間と学力との間には小さいものの正の効果が見られた

こと。と同時に、

テレビ視聴の適正時間は、年齢が上がるにつれて短くなること

 が印象的でした。つまり、年齢が上がれば上がるほど、テレビを見ても学力に好影響は及ばさない、ということ。

小さいときにTV依存する方が危険では?と思っていた思い込みがぶっ飛びます。しかも、

テレビ視聴が向社会的行動に与える効果は、反社会的行動に対する効果を上回ることも示されている。

というのも驚きでした。

向社会的行動は、「他人との気持ちのつながりを強め、それをより望ましいものにしたりしようとする場合にとられる行動」です。

テレビを見ることでそれが強まる、というのであれば、教育的にデザインされた番組によって「思いやり」のような人間的資質の育成を図ることも可能になる、とすれば、このデータも面白い。

負の効果、といっても、一概に「だからやるな!」というハウツー本には決して成り下がらない本ですね。 

宿題の効果は?

宿題自体はとびぬけた数値を示していないのだけれど、

小学生は(d=0.15) ※本書であげられる望ましい効果の基準値はd=0.40以上

なのに対し、高校生は(d=0.64)という数値が出ているのは素直に驚いた。

新しい学習内容を、単純で、短時間でできる暗記・練習・繰り返しの場合に効果が高い、という結果や、教科でいうと理科と社会が最も効果が大きい(!)というのも驚き。

他教科との兼ね合い、探究学習の推進、高校生の忙しさなどの理由を考えると宿題は基本的に出さないスタンスなのだけど、基礎知識の定着に宿題は一定の効果があると知ると、何かしら組み込んでみることも考えなければなあ。

なぜ小学生より高校生の方が効果があるのか、納得いく仮説が立てられないのは私の読解力と発想力の貧弱さです。はい。

でも確かにこの授業実践はめちゃめちゃ知識定着に効果があった…宿題を出したわけではないけど、宿題で実現される学習活動がスタディスキルとセットで組み込まれていたから、効果があったんだろうなあ、と今振り返っています。

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自分に最も欠けているもの

どこからでも本書は自分の実践に語りかけてくるので、際限なくかけてしまうので、まとめます。

本書を通して、自分が最も欠けていると思わされたのは何か?といえば、一言にすると、学習目標の提示でした。

いたるところで、目標の提示、目標達成の道筋、やりがいのある到達基準が学習のドライブになるということが言及されて、そのたびに、「ああ1回の単元、1回の授業の改革に躍起になって、目標を精選してないよなあ」と思わされました。

これって言い換えると、「なぜ学ぶのか?」という問いに答えることだと思います。

どうしても時間数の制約で、なぜ学ぶのか、どうすれば学んだと言えるのか、ということをおざなりにしてしまうけれど、ここから目をそむけてはいけないし、

逆に効果的なWeb授業なんかはそれをしっかりと語っていることを思い出しました。

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この本も、間違いなくずっと手元に持っていて参照し続ける書籍になること間違いないですね。読んだ満足感より、「ああ、考えなきゃ」と突きつけてくれる本です。

教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化

教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化

 

おわりに

2009年に出版された書籍なので、対象となっている研究が2008年までのものになっています(ICTなんかの効果量分析は確実に異なる結果が出ると思います)し、

日本語訳では訳出していない章もあることは補足しておきます。原著にあたる元気と気力がない!

ですが、監訳者の山森先生、本当に素晴らしい仕事をありがとうございました!

そして、Pikarya先生の書評記事もぜひどうぞ。

inotatsu0621.hatenablog.com

※以前Pikarya先生にはこんな記事も書いていただいて大変恐縮していますがお役にたてれば嬉しいです…!!持ちつ持たれつの教員ブロガーの世界です。笑

社会科教師の前衛的な実践に勇気づけられた!【やっちゃえ先生のブログから】 - 中学校社会科教師Pikaryaの記録