書評(読んで考えたことを書き残す)記事、第2弾です。
第1弾はこちら↓www.yacchaesensei.com
ということでこの記事は第2章以降〜第3章の前半についてのまとめです。※以下の引用部分の太字・色は記事筆者によるものです。
- 第2章 プロジェクトベースの学びとは何か
- なぜ探究が生まれたのか?
- 探究を支える学習「観」
- 不安定な状況から始まる
- 教師が行う5つの習慣
- 教師に示されるガイドライン
- プロジェクトにおける9つの要素
- おわりに
第2章 プロジェクトベースの学びとは何か
この章はハイ・テック・ハイの学びのコアと言ってもいい、PBLに関する解説です。
ここで問題になっているのは、
- プロジェクト学習(project-based)
- 課題解決型学習(problem-based)
の違い。ややこしいですよね。似てるけどちょっと違う両者の背景には「探究」が共通している、というのが本書の主張です。
これに関しては実は以前藤原さんのweb記事を参考に、個人的に違いをまとめて記事にしました。
完全に自分得だったけど、この記事を勤務校で紹介しました!という連絡を複数いただいたりした思い出の記事です。
この違いが頭にあったので、ある程度は想像して読み進めていました。
が、本書はその両者に通底する探究の「思想」面まで掘り下げているのが◎だと思います。教員をしているとどうしても目先のことを優先してしまうからです(言い訳)。
なぜ探究が生まれたのか?
プラグマティズムの系譜を辿りながら、なぜ探究が生まれたのか、を言語化してくれるp49-56は個人的に読み応え抜群でした。
例えば、印象に残った記述です。
プラグマティストたちにとって、「真理」は頭の中で終始したり、客観的に観察されたりするものではなく、「行為」し、「失敗」し、世界(社会)に自ら積極的に介入していく中で、永遠に新しく発見し続けるものだった。そして、その過程こそが「探究」となる。まさにPBLにも、その息遣いが感じられる。(55-56)
探究講座を担当し、倫理で思想を教えている立場からしてもプラグマティズムと密接なつながりを持って探究が生まれてきたことを知れて一石二鳥と思える第2章です。
探究を支える学習「観」
探究のコアを思想的に捉えた上で、
それが教育における「学習観」の中でどう位置付けられるか、を自分の考え方にあわせて整理するための表。
みなさんは、どの辺りの捉え方をしていますか?
藤原さんの作られる図表が個人的にはとても好きというか、「あ〜それ知りたかった!そういうことか!」と思わされることが多いのです。
本書ではこの表の右3つが「探究する学び」に近しいものであり、「構成的価値観」に基づくものだと位置づけています。
自分自身が読んできたこの辺の本とか、
色々な所で西林先生の本を見てきてたのに、ちょっと古いからという理由で画像貼った新しめの本や訳書から読んでて大反省。こういう書籍の元になってる基本的な学習科学の知見がシンプルに整理されてて一気に繋がった感覚。末尾に西林先生が自身の専攻を「学習,教授-学習過程」と記した意味が沁みる! pic.twitter.com/MlRdmuOD2O
— やっちゃえ|Blended Learning (@Yacchaee) 2021年1月15日
西林先生本などの学習科学の知見は、
もっと早く読めばよかったな。
— やっちゃえ|Blended Learning (@Yacchaee) 2021年1月15日
「知っているけれど応用がきかない」
「できるけれど理解していない」
「知識だけではダメで実践が大事」
「教育の内容と方法は別」
「詰め込みはダメ」
1つでも思ったことあったら読むべき。「知識」観を揺さぶってくれます。https://t.co/FR3xj1LGel
真ん中の進歩主義的、実存主義的な意味合いを重要視している気がします。
一方で、本質主義や永続主義も決して見逃していない点には注意が必要です。こういうのは二項対立じゃないですからね。
不安定な状況から始まる
さらに、探究を表現するために欠かせない要素として
「不確定的状況」があります。ぜひ本書のp64の図を見ていただきたいのですが、実験にせよ何にせよ、確定的状況から始まる学びは、探究のふりをした「確認」作業になりがちです。
そうなると、「生きて使われない知識」に成り下がってしまいます。生きて駆動する知識をつくるために、「不確定的状況からはじまるPBL」が必要とされていることを読み取りました。
意外な言い方になるかも知れませんが、その意味でPBLは生徒に確かな知識をもたせる学びと表現してもいいかもしれません。
「知識」の守備範囲を吟味し、ホンモノの知識を作ることは「這い回る経験主義」に陥らないためにも重要な認識だと思います。
平たくいうと、ざわざわする感じ、収まりどころが悪い感じ、そんなところから授業を構成し、生徒の試行錯誤を組み入れた学習活動、をすることをまずは目指そう、といったら言い過ぎでしょうか。
教師が行う5つの習慣
ハイ・テック・ハイの探究は「美」を重視しているので、そのために教師が行なっている習慣(p69-70)というのも印象的ですね。
- 意義のある学習活動を割り当てる
- エクセレンスの事例を研究する
- 批評の文化を構築する
- 複数回の見直しを要求する
- 公のプレゼンテーションの場を提供する
日本の学校でも結局学校の数だけPBLの枠組みがあるのだから、自分たちでPBLを言語化する必要がある。
ということで自分の担当している講座に引きつけて考えてみると、
「賞味期限の長い学び」とか「心の音が鳴る方へ」というのが一つの合言葉です。そんな学びを1年弱で行なっている状況。
「教師が行う5つの習慣」の中で特に磨きたいと思っているのが、
- 2. エクセレンスの事例研究(まだサンプル数が少ない)
- 3. 批評文化の構築(講座内ではなんとかできてる?)
の2つでしょうか。
自分たちの行なっている探究を言語化し、そのために教師が意識的に行うこと、働きかけることを策定するプロセスは、ハイ・テック・ハイでなくても求められる営みでしょう。
第3章に突入すると、より具体的なハイ・テック・ハイでのプロジェクトが紹介されています。そこで目を留めたのが
教師に示されるガイドライン
先の5つの習慣に近しいですが、p77-78で7つの方向性が示されています。
その要約箇所の引用です。
クラスの全員が前向きに参加できているかどうか、集中できているかどうかを確認しつつ、質を高めるための振り返りの時間を設定し、うまくいかないチームがあれば、自由度を確保しつつサポートしていくのだ。生徒が学びの成果を発表し、人に伝えるプロセスを支援することは、学びを有意義なものとし、真正なものにするために必要不可欠な教師の役割である。(78)
決して、突飛なことはありませんよね。
よい学びのために、地道なことを地道にし続けている、そんな様子が伝わってきます。
そして自分の探究講座の生徒たちとの営みを振り返り、うんうんそうだよね、と頷けるところまではきてる気がする(生徒の力は本当にすごい!)。
少し余談ですが、
探究学習に伴走してきて思うのは、とにかく生徒の心に火がつき、試行錯誤して走り始めるまでじっと支援すること、仲間の刺激を効果的に学習活動に取り入れることが鍵だと思っています。
ハイ・テック・ハイと同じだ!と言ったら言い過ぎだけど、確実に共通する要素をつかんで講座運営はできている部分もあり一安心(と同時に課題もたくさんある)。
そしてプロジェクトを作成する上で重要な箇所に突入します!
プロジェクトにおける9つの要素
これについては2つの実践例と担当教師のQ&Aもついていて読みやすくイメージが明快に湧く箇所です。
長くなってきたので、ここから実際のプロジェクト作成のポイントに関する書評は、次回に持ち越しにします〜!
と言いつつ少しだけネタバレすると、
p87のプロジェクト・ディスカッションパターンは、汎用性が高くて日本の探究学習の文脈にも取り入れられる箇所だと感じています。
文理をまたいだ教員の協働が必然的に生まれるのも◎ですね。
おわりに
もはやこの記事も紹介記事ではなく、書き散らし記事になってきましたが、ご容赦ください…!ぜひ本書を来年度に向けて読んでほしい、というのは間違いないです。
ちなみに今日は共通テスト。問題を解くのが楽しみです。
1年半ほど前に書いた「共通テスト プレテスト」の分析記事ですが、どこが変わりどこが変わらなかったかまた分析してみたいと思います。