やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

中高生に引用を指導するときに工夫していること ~引用がメディアリテラシーを育てる?~

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ご無沙汰の更新です。自分でフラグを立ててしまったので、自分が引用について指導しているtipsをまとめておきます。

前提として、勤務している高校では大学に進学する生徒がほとんどです。

以下の内容は中高生向けだと思いますが、場合によっては少し実践が難しい部分もあるかもしれません。ご容赦ください。 

基本的にやっていること

こちらのツイートで挙げた内容について補足します。

※以下色々自分の試行錯誤の結果なので、よりよくするためにご意見等ぜひお寄せいただければと思います!

引用ルール配布の注意点

ネット検索すれば大学が発行している引用マニュアルがいくつも出てきます。

が、そこには多種多様な媒体の引用方法が事細かに数十ページにわたって紹介されています。

いきなりそのクオリティを求めても「引用=できれば避けたいもの」という認識を強めるだけなので、ポイントを絞って引用ルールを配布しています。

実際に配布しているのは、A4×2枚程度の簡易なものです。

その際の注意点をいくつか。

 

①メディアの種類を限定する

求める課題に応じて、引用を求めるメディアを絞ります。

私の場合は、書籍、新聞記事、インターネット、論文の4つについて、それぞれ引用・参考文献表の書き方をマニュアルにして配布しています。

たまたま検索したら出てきた関西大学の高校生作文コンクールもこの4種に絞り込んでいますね。

まずは基本的な引用ができることが重要です。

※引用の書式は高等教育以降は学会のルール等色々ありますが、例えば

著者名『タイトル』(訳者名)、出版社、出版年、引用したページ。 

 というオーソドックスな形で統一しておけばどの書式でも良いでしょう。

分野によるかもしれませんが、わかりやすいものが一番です。

 

②引用ルール自体に具体的な引用例を付ける

これは当たり前かもしれませんが、イメージを持たせるためには例文提示まで必要かと思います。大学のマニュアルは例文がないことがあります。

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生徒に配布しているマニュアルより

 

③「困ったら引用」と指示する

生徒の多くは、どこからが引用かわからない、という状況に直面します。

私は「困ったら引用して、注を付けて」と指導しています。

そうすることで自分の考えと他者の考えを区分する知的作業を自然と行えるだけでなく、1文がダラダラ長くなることも防ぐ効果があります。

 

④引用の3種類を明示する

困ったら引用して、とはいっても、毎回「」で抜き出すだけでは物足りないことがあります。そこで、

  • 直接「」で抜き出す引用
  • 3 行以上の文章を引用するブロック引用
  • 自分で要約する引用

の3種を具体例とともに明示しています。

ちなみに、ブロック引用は引用部が長くなる時だけでなく、

小説やインタビュー記録など、文体や語り方が重要な場合や、自分とは違う意見に反論する場合によく使用されます。

という形で直接引用とブロック引用のどちらにするかの判断を生徒が自分でできるような一言を加えています。

 

⑤引用と参考文献の違いも明示する

私の場合、レポート課題で引用注と参考文献表を求めているので、まず、引用と参考文献表の違いを説明します。

以下の内容は、こちらの書籍をもとに提示しています。

引用=だれかの文章を正確に自分の文章に載せること

参考文献表=だれかの文章そのものはのせないが、勉強し、参照したことを一覧にして示すもの

という説明をしています。

書籍では引用と参考を次のように説明しています。

このあたりの論がおもしろい、「なるほどな」とか、逆に「こりゃいかんだろ」となって、自分の原稿にのせるのを「引用」といいます。先輩の文章をそのままのせないけれど、勉強になったという場合は「参考」といいます。(p154)

 これくらいかみ砕いてくれれば中学生にも伝わるのではないでしょうか。

生徒は、両者の区別ができていないことも多く、片方だけでよい、と思っていることも往々にしてあります。そこで、

全体的に参考にした図書、新聞、インターネット上の情報源はすべてまとめて参考文献表に明示します。注に出ている資料も、参考文献に改めて記します。 

と強調しています。もちろんメディアごとに書式も具体例とともに指示しています。

 

⑥引用の意義を示す

引用は「作法」である、としてさくっと流すのもありかもしれませんが、 

「剽窃」にあたる行為を行うとどのような制裁を受けることになるか、なぜそのような制裁を受けることになるのか、という点に絞って伝えています。

といっても、脅しの論理ではなく伝えたいところです。イメージだと、『独学大全』の「無知くんと親父さんの対話」のように、生徒が知的な営み自体に価値を見出せるように働きかけたいですね。(私もここは要改善)

 

⑦FAQを作成・共有し、都度更新する

A4×2枚で示しても、作成中に様々な質問が出てきます。例えば、①で絞ったメディア以外の媒体を引用したい場合はどうすればいいですか?とか。

今まで受けてきた質問はほぼすべて、Google ドキュメントに掲載し、FAQとして共有しています。

そして、「困ったらこのドキュメントを見ること」と指示しておくことで、引用関連の質問がかなり減り、生徒のミスも減ってきている実感があります。

小さなことですが、過去の先輩たちが懸命に取り組んだ蓄積に助けられています。

生徒の利便性を鑑みてドキュメントでFAQを作りましたが、今作り直せるなら、スプレッドシートで作りますね。質問の項目並び替え等が容易で、更新しやすいからです。

このFAQ共有は、大変地味ですが、やってよかった1番の工夫かもしれません。

 

他に意識していること:普段の配布資料

私は普段自作のプリントで授業を進めることが多いですが、そこに掲載している資料すべてに引用を付けるとごちゃついてしまい、学習効率が落ちます。

そこで、私はGoogle Classroomにすべて書籍や論文、インターネット上資料のリンクを掲載しています

授業でも「引用した資料はclassroomにあるからね」と伝えています。

これは手間と言えば手間ですが、自分が日々引用について意識する自戒の意味と、先人の営みの上に立って授業を構成していることを示したい、という教育的意義を込めてやっています。込めて、というと大げさですね(笑)

 

引用とメディアリテラシー

ここを本当はもう少し語りたいところですが、引用はメディアリテラシーにつながると感じています。このツイートで書いたことです。

引用すると自ずと資料を評価する目線が育ちます。

メディアの特性をつかみ、情報を評価した上で自分の作品に反映する作業が引用です。

そうであるならば、引用という営みは「すべての情報は再構築されている」というメディアリテラシーの根本的な認識を育てる営みではないでしょうか。 

主権者教育もメディアリテラシーも教条的におしえるのではなく、経験的に学び取っていく側面が強い気がしています。

 

おわりに:役立つ書籍の紹介

あえて3冊に絞ります。大学生向けの論文・レポートマニュアルは色々とありますので、それらとは異なるものを。

学びの技はもはやお約束ですね。昔はここで紹介されていた、エビデンスブックや参考文献リストの方法をそのまま使っていました。

こちらの新書は平易で生徒の読み物としても有用です。

例の知的な鈍器です。

 

こう書いてみると、本当に足りないことばかりだなと思うので、ぜひ皆さんの工夫や実践をお教えいただけると嬉しいです!

また、本記事の内容は、あくまで引用を指導するための最初の部分です。

実際は生徒の引用をチェックしたり、効果的な引用はどのようなものか一緒に考えたり、先輩のアンカー作品を示したり、途中経過の工夫も必要です。

が、まずは目線を揃えることから始めたいですね。

それにしても、必修2単位の公民科では限界あるので、学校レベルで、教員みんなで引用には向き合っていきましょう。