やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

学校で多数決を使うのは禁止すべき?~本当に良い「決め方」を教えてくれる1冊~

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多数決以外の決め方をいくつあげられるだろうか?

くじ引きやじゃんけん?責任者での話し合い?学校現場での「決め方」はワンパターンだ。

しかし、いつから多数決が当たり前に使われるようになったのだろう

クラスの委員決め、合唱曲の曲決め、指定校枠での推薦者決め、なんでもかんでも学校現場の意思決定は多数決だ。あるいは管理職の一存(小声)

学校現場は生徒たちの意思決定を促す場でなければならない。

その意思決定が、意外と適当にやり過ごされている、と思わせてくれるのはこの本だ。 

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

 

学級委員の決め方と米大統領の決め方の弱み?

学級委員も、大統領も、ほとんどの場合は選挙になるだろう。推薦で無投票当選なんてことはなかなか起きえない(高学年になると出来レース化してくることも否めないのだが)。

1つのクラスから2人選ぶ学級委員選挙も、

1つの国から1人だけ選ぶ大統領選挙も、

候補者が3人以上いる場合は同じ弱みを持っている。

それが「票の割れ」だ。

例)男子と女子が20人ずつの計40人クラス…

男子から2人立候補、女子から1人、学級委員の立候補が出たとしよう。

選ばれるのは3人の中から2人だ。

なんとなく想像がつく方が多いだろうが、大体男子1人、女子1人が選ばれるだろう。

なぜそういうことが起きるのか?

ずばり、票の割れだ。なぜか生徒の多くは、2人とも男子・女子(でもまったく構わないのだが)ではなく、男女1人ずつを選ぼうと思ってしまう。

したがって、男子も女子も、その立候補した女子があまりに的外れでなければ、

その女子と、男子のどっちか」を選ぶのだ。

その結果、男子同士で票を奪い合う、ということが起こる。

もちろん、そんなことを誰も問題視はしない、のだが。

現実に起きていること

決してこれはたとえ話ではない。

2000年のアメリカ大統領選挙を例に挙げよう。当初の世論調査では、民主党のゴアが共和党のブッシュに勝っていた。だが途中で泡沫候補のラルフ・ネーダーが立候補を表明、最終的に支持層が重なるゴアの票を食い、ブッシュが漁夫の利を得て当選した。多数決は「票の割れ」にひどく弱いわけだ。」(坂井豊隆『多数決を疑う』)

こうして、現実的に票は割れていく

国会議員の選挙でもそうだ。

2016年の参議院選挙でも、小選挙区で、自民党vs民進党vs幸福実現党の構図が生まれたとき、自民候補が民進候補に惜敗するケースがあった。

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それは保守寄りといえる幸福実現党の候補が、政策のかぶる自民党候補の票を食い、それによって自民候補の票が伸びず、民進候補にその分だけ及ばなかったからだ。

逆に、自民vs民主vs共産の構図となり、民主と共産で票を食い合い、それが自民候補の当選につながったケースもある。(代表が敗れた、2014年の衆院選)

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ただ一つ言えることは、私たちは決めているようで、決めさせられている。

なぜこんなことが起こるのか?

それは、多数決という決め方のルールが、「1位」しか表明できないルールだからだ。

多数決のもとで有権者は、自分の判断のうちごく一部にすぎない「どの候補者を一番に支持するか」しか表明できない。二番や三番への意思表明は一切できないわけだ。(坂井豊隆『多数決を疑う』)

 順位をつけて投票する、となれば、「票の割れ」は防げるかもしれない。

もちろん、そうした選挙制度を国政レベルで整えるのは至難の業だ。

ただ、今の決め方は決して「総意」どころか「民意」を適切に反映しているものではない、ということは、頭に置いておきたい。

そうでないと、「悔しかったら選挙で勝て」みたいな発言をしてしまうことになる。

おわりに

とりあえずすべての学校教員はこれを読んで安易な多数決を控える教育をしたほうがいいんじゃないか。それこそがシティズンシップではないか。

シティズンシップはそういう、”生活”目線のもので、

教科として「教えられるべき知識」とは違って経験ベースの部分が強いものだと感じる。

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

 

 

新書よりも、こっちの方が読みやすいかも。

内容は結構かぶっている。ケーススタディが違うのと 、図が多め。あと地味だが巻末に「索引」があるのはありがたい。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

 

何かを「皆の意思で」決めた。そういう言葉のもつ”危うさ”を、論理的に自覚したい、という思いが何となくあるあなた、ぜひご一読を。

博多高校事件のその後と尾木直樹氏の「情けない」発言に感じる違和感

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教育は基準により人を断罪し、逸脱した者を排除するシステムではない

博多高校で起こった暴力事件について、様々な方が様々なことをおっしゃっている。

教育は、ほぼ誰もが経験したことがあり、物申せる分野だ。それは良し悪しがあれど、共通の土台にもとづいて多くの人が議論をすることができる分野、であると考えている。

だから、今回の事件についても様々な見解が出されてしかるべきだ。

ただ、2つ違和感が消えないことがある。

1つ目。

彼のしたことは、法の下で裁かれるべきだし、彼の事件後のSNSにおける態度は決して良いものではないかもしれない。

だが、SNS上で個人情報を特定し、晒しあげ、煽ることの先に何があるだろうか

その先には、「なんでおれだけが!という思い」と「社会に対する憎しみ」を助長するだけだ。

そんな大人を育てることが教育だろうか。そんな社会に出よう、と思えるだろうか。

保護者をSNSで責めて何になるだろうか。保護者の多くは子供を守りたい一心に決まっているじゃないか。いくら子供に非があっても、SNS等で私刑にさらされるならば話は別だろう。

もう一度言う、

教育は基準により人を断罪し、逸脱した者を排除するシステムではない。

退学になった彼や保護者を受け止める先はあるだろうか。

尾木直樹さんは自分の影響力を分かっていない

これが2つ目だ。

尾木さんの言っていることは分かる。しかし、教員は「ことば」の職業だ。

自らの放つことば1つで、生徒は変わることがある。良くも悪くもだ。

教員は人一倍、ことばに敏感にならなければいけないのは百も承知だろう。

しかし、彼もまた被害を受けた教員を「断罪」している。

「尾木ママならあんなにけられ胸ぐら掴まれっ放しにしませんね 毅然(きぜん)として刑法に基づいて【正当防衛権】行使します!! 自らの正当な権利の行使も出来ないとは情けない教師ですね」

教師がけられっ放しの動画に|尾木直樹(尾木ママ)オフィシャルブログ「オギ♡ブロ」Powered by Ameba

news.livedoor.com

他の記事も合わせて読めば、尾木さんに”見出し”のようなあからさまな悪意がないこと、教員だけでなく学校を応援していることは伝わる。

が、とても残念だ。なんて想像力がないんだろう。

精神的にショックを受けているこの新任教員の経験は、一生付きまとうだけでなく、いつまでもネットに情報は残り、取り出される。

影響力の大きさをわからず、「情けない」という言葉を使うことが、1人の新任教員にどういう負の影響力を及ぼすか、の想像力がないのかと思うと、私は悲しい。

リスクを考えることは、教員にとって必須の思考だ。

それは今回の場合、

もし、彼がこのブログを読んだらどう思うだろうか?」という思考だ。

結果的に、この新任教員がタフで、意に介さず頑張ることができれば、それはそれでいいじゃないか。

どうして、1人の教員をつぶす可能性があることばを選ぶのかがわからない。

おわりに~大村はまのことば~

偉大な実践家・大村はまはこういっている。

こころをみがき、こころをみがく ・・・「みがく」ということは、そのものを大切にし、そのものに愛情を持っていることですね。どうぞ、ことばを大切にし、ことばへの愛情をもちつづけていってください。・・・ことばを、そのはしばしまで正しく使うことでしょう。どんな小さい傷もつけないように使うことでしょう。

www.yacchaesensei.com

尾木さんは、この新任教員という”仲間”と、自らの言葉に対し愛情を注げているだろうか。

高校生が授業中に教員に暴行…の裏にある「常勤講師問題」とは?

「あひるちゃん集団リンチあひるちゃん集団リンチ」のフリー写真素材を拡大

高校生が授業中に教員を暴行した、このニュース。

「生徒(暴行した生徒だけでなく周りも含む)がひどい」という個人・学校の批評とは違う角度から、2点だけいいたい。

news.livedoor.com

まず、この教員(23歳・新任)はえらい

前提として、自分もつられて当該動画を見たが、前後の状況はともかく、よく”やりかえさなかった”の一言に尽きる。

状況からして、当該生徒が”本気で”暴行していないことは明らかだ。教員のズボンのポケットを探る姿も、その後の蹴りの様子も、嘲笑的な要素が強い。(かなり強い力で暴行していたことは確かだが)

若手男性教員の実感としていえるが、これほど悔しく、むなしい気持ちになることはない。このご時世だが、なりたくて教員になったのだ。

それなのに、生徒から蹴られる。でも、手を出さなかった上に、このコメントだ。

警察への被害届提出は見送る方針で「復帰したら時間をかけて生徒を指導したい」と話している

生徒が男性講師を殴る蹴るの暴行動画ツイッターで拡散 笑い声も…福岡の私立高校、被害届は見送り方針(1/2ページ) - 産経WEST

教育者だと思う。現状、精神的ショックで自宅待機となっているので、早い心身の回復を祈りたい。

必要以上の抑止ととられるような行動をとらなかったことは本当に良かったと思う。そのうえで思ったこと。

23歳・新任・常勤講師という立場への理解を

23歳の新任、ということは、どの学校でもあることだ。

が、常勤講師という立場をご存じだろうか?

※常勤講師のリアルな実態についてはこちらを

教員の実態は、こうなんです。〜ボーナス・退職金ありの契約社員?〜 - やっちゃえ先生ブログ

私立学校の教員は、公立の教員と置かれている立場が違う。それは良くも悪くも、「公務員ではない」ということだ。

裏を返せば、雇用に関して本当に弱い立場にあるということだ。

自分も常勤講師だった時代があるが、悩ましかった。

  • 専任になりたいが、なれない(本人の能力云々よりも学校の経営状態からして専任を増やせないということが多い)
  • でも、求人は「専任」への道があるという募集で出る(学校からするとそういわないと優秀な教員が集まらない。そりゃそうだ。)
  • その求人は、非常に数が少ない(特に社会科は少ない!五教科では最も採用が少ないといわれる)
  • となると、常勤であっても非常勤よりはマシだから、応募するしかない

という心理状態である。

この状態で採用されて「常勤講師」になっても、専任になれるかどうかは本人の意思はほとんど反映されない(反映できるようなら初めから専任の道を明確にする)。

まずは1年やって、とか、担任を1年やって、とか

そんなこんなで数年が経ち、気付けば30歳。そうなると、他校の専任の道はほとんどないといっていい。

だから、本当に「常勤」は弱い立場だということをわかってほしい。

抑止、とは言っても手なんて出せるわけがない

出せないよ。出せない。

いくら抑止のためとはいえ(この場合は防衛だが)、例えばその動画一発で「今年限り」を通告されることがあるからだ。それも、常勤だから、「契約通り」の一言で終わってしまう。

目立たない生徒から信頼されていても、目立つ生徒がとった動画一発でアウトだ。

動画を撮られていなくても、たとえ手を出していなくても「威圧されるような教員」という空気で自分は見られ続けるのだ。

しかも、良くも悪くも同じ県の私立学校は大体つながっている

学校はもちつもたれつ。私立ならなおさら、広報活動などで教員同士が関わることがあるし、部活動などでも教員同士は大体「どこどこの誰先生」で通じる。

別の学校に勤務していたら、大体どこかでその話は伝わっているし、リアルな評判も耳にするだろう。

その意味でも、今回この教員が守られるべきなのだ。手を出さなくて本当によかった。

その状況で、このコメント

もう一度のせよう。教育者だと思う。

警察への被害届提出は見送る方針で「復帰したら時間をかけて生徒を指導したい」と話している

生徒が男性講師を殴る蹴るの暴行動画ツイッターで拡散 笑い声も…福岡の私立高校、被害届は見送り方針(1/2ページ) - 産経WEST

先生の早い復帰と、生徒の更生を願いたい。

付言して、生徒のためにも、先生のためにも、今回の実名報道は本当にいけない。ネットにさらすことが、どんな影響を持つか想像力がないんだろう。その行為は、教員も苦しめる可能性があるのだ。

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民間企業を経て教員になった私の心を突き刺したアドバイス5選!

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最近、たまたまこういう相談が重なったので書いておこう。

教員になりたいという気持ちはあるけれど、今すぐなれる自信はないし、一度は企業で経験してみたい、などなど、状況は人によってさまざまだ。

今日は自分のエピソード、というより、自分の意志決定や今のあり方に影響を与えたな、と思う、心に残っている言葉たちを紹介したい。

①「自分の可能性に未練がなかったわけじゃない。」

高校時代の恩師から、就職活動で最初のキャリアをどう築くかの相談をしたときに返ってきた言葉だ。

この先生は、強烈な個性はさることながら、東大卒であることを微塵も感じさせないような形で自分を見せることができる先生だった。

それが抜群にかっこよかったし、面倒見も抜群によかった。

私は大学生になっていたのに、すっかり先生に甘えていてなんでも好き勝手にモノを言っていた。そんなキャリア相談の最中だ。

誇りを持って教職に就いている先生に

教員じゃ、自分の可能性を試せない。自分の可能性を企業に出て広いフィールドで試したい」なんて生意気なことを言った。書くだけで恥ずかしい。

でも、そのときに、普段さらっと返すことの多い先生が、ぐっと力を入れて先の言葉を投げかけてくれた。変な言い方だけど、「ああ、先生だって人間なんだ、100%教員!じゃなかったんだ」と思わされた。

先生も、自分と同じように悩んでいたことがうれしくなったと同時に、

そんな自分の教職に対する軽はずみな言葉を恥じた。教員という仕事を軽んじていた。

 

②「僕も志を持っていたけど、守るものができたら簡単に変わっちゃう。辞めるなら早い方がいいよ」

なんやかんやで最初にいわゆる大企業に入った私だが、人事の先輩が同郷出身ということでよくしてくださり、いろいろな話をするようになった。

そこで、教員というキャリアに対する気持ちをふと打ち明けてみたときに、返ってきた言葉だ。

「え!引き止めないの!笑」と思ったけれど、今思うのは本当にこの通りなんだろうなあと思う。先輩は30代半ばで結婚し、お子さんが2人いらっしゃった。奥様が専業主婦になった、ということだったので、より一層この言葉は沁みた。

いわゆる日系大企業で昇給するタイミングは20代後半に一度やってくる(5年勤続とか?)だろう。そこにライフイベントが重なってくる。

そうなれば、どんどん守りに入ってしまう、という正直な先輩のアドバイスは、新卒で未来の見えていない自分にとても響いた。

 

③お前が決めたなら何も言えることはない。教員になったとき役に立つような仕事をアサインしなおす。だから、絶対に成果を出して辞めろ。

運よく教員として採用が決まり、緊張の中で上司に報告したときに返ってきた言葉。

こういうおじさんに、私はなりたい。

思えば、本当に上司に恵まれた。

最初に配属された部署の別の上司からも大切なことをたくさん教わったし、それは今でも本当に役に立っている。

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↑ブログはじめたばかりの記事、あまりに拙い…

成果を出すということへの執着は、企業にいなかったら体感できなかっただろう。

 

④死に様は、己の生き様を映す鏡

 私の人生のバイブル、北方水滸伝の言葉。

ああ、皆死ぬんだ、死ぬときによぎる想い出は何だろう?

今死んだら、自分は自分の人生に納得して死ねるか?

ということを考えずにはいられなかった。ちょうどこのとき、数十億が一気に動くプロジェクトに携わっていた。すごい仕事だったが、死ぬときにこのプロジェクトはよぎらないだろう、という確信があった。

それなら、「1人」のために尽くせる生き方、教員になろう、と思った瞬間だった。

「お前はどう生きるのか?」

「お前の志はなんだ?」

と北方センパイに胸ぐら掴まれて気づいたら虜になってる。そんな本です。

圧倒的に読ませます。ストーリーの圧倒的な構想力。本当に人生のバイブルです。仕事の大前提にある志・生き方を問われます。

業務改善・仕事の参考になった本5選!〜すぐ理解・実行できる〜 - やっちゃえ先生ブログ

水滸伝 文庫版 全19巻+読本 完結BOXセット (集英社文庫)

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⑤反抗は、甘え。 

 そんなむさくるしい思いをもって、教員になった。

初年度は私の度量不足で、反抗されることばかりだった。もちろん理不尽なこともたくさんあったし、企業の働き方は性に合っていたので、惰性の強い教育の現場に出て、もやもやすることも多かった。

そんな時に、今でも最も尊敬している先生が「ふふふ」とほほえみながら、「先生、」と私に声をかけてくれた。そしてこの一言だ。

「反抗は甘え。慕われてますねえ。ふふ。」

どれだけ救われただろうか。 

それから、本当に気持ちが変わったことを今でも鮮明に覚えている。

 

おわりに

北方水滸伝、やっぱり超スーパー名作です(笑)

教育業界にAmazon Inspireがやってきた!~Google,リクルート…大手の参入つづく!~

また驚きのニュースだ。ご存知の方も多いかもしれないが、Amazonが教育業界に参入し(てい)た。

「重いダンボールを持ち運び血管をアピールする上腕イケメン重いダンボールを持ち運び血管をアピールする上腕イケメン」[モデル:大川竜弥]のフリー写真素材を拡大

その名も、Amazon Inspire

実はアメリカの教員限定で公開されていたサービスだったが、この9月から全教員に解放された。

正確には、教員でなくてもamazonアカウントさえもっていれば、誰でも利用できる。

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