読書の夏、7月は今年度の読書欲を一気に発散するかのごとく、猛烈に本を読めていてとても幸せだ。とはいっても合宿などでばたばたし始めるのが7月末…
さて、近現代西洋思想をきちんとつかみなおしたい、と思っていたので手に取ったこちらの本。
初心者向けというよりは…
いきなり出鼻をくじくかもしれないが、初心者向けとは言い難い。
ただ、現代思想に触れたい、特に21世紀の"いま"を生きている思想家に触れたい、のであればこの本は非常にオススメだ。
初心者向けとは言い難い、と感じているのに、オススメしたい理由は2つある。
①きわめて価値中立的な文体で引用多し
これは筆者もあとがきで語っていることだが、
とにかく多様な現代思想家を紹介するうえで、
筆者がわかりやすくかみ砕いて語りかけることよりも、
「どういう問題に対して、どう考えている人がいるのか。」
ということにフォーカスされている書き方だ。
したがって、思想家の著作からの引用箇所が非常に多い。
見開き1ページに数行は引用部が必ずあるようなイメージ。
これは、「思想家1人を掘り下げるというよりは、なんとなく全体像をつかみたい、でもなるべく一次資料にも触れたい!」という私のような欲張りのくせに意気地のない他力本願な人間にはとてもありがたい。
だからこの本は、現代思想に至るまでの系譜をなんとなくわかっていて(もちろんわかっていなくても全然読めます)、それでも結局ごちゃごちゃしていてよくわからない!
どういう論点で誰が何を言っているの!という状態の方のニーズにばっちり答えてくれるだろう。
②効果的な図解とまとめ・ブックガイド
ここまで述べてきたような文体で展開されるため、「自分で考えようとする」態度でないと、もしかしたらくじけてしまうかもしれない。(言い過ぎか)
ただ、所どころで入ってくる図解が効果的で、節の終わりにはまるで国語の教科書のように、その節で紹介された主な思想家の似顔絵・業績・主張がまとめられているため、読み進めやすい工夫が随所にある。
ちなみに、章立てはこんな感じで、どの章から読んでも問題ない。
▼第1章 世界の哲学者は今、何を考えているのか
▼第2章 IT革命は人類に何をもたらすのか
▼第3章 バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか
▼第4章 資本主義は21世紀でも通用するのか
▼第5章 人類が宗教を捨てることはありえないのか
▼第6章 人類は地球を守らなくてはいけないのか
が、個人的に◎!と思ったのは、第1章だ。このイントロが、何より本書の価値が示されている。まさに現代思想をざくっとつかめるような書き方になっている。
例えば、いきなりこんなふうに見取り図を示してくれる(p31より抜粋)
もちろん、ひとつひとつの学派を掘り下げようと思ったら、それだけで別の本が必要だし、これをみて「は?」と思った人には、参考までにこんな本がオススメだ。
書店で立ち読みして、ちょっといきなり岡本さんの本はきつそう、と思ったら先にこちらをオススメする。まさに、超図解で全体像がつかめる。
本当に初心者!なら絶対にこちらからだ。
ただ、若干ビジネスマンに向けている部分もあって、途中からターゲティングとしては中途半端だった本(小声)読みやすさは抜群だった…!
その意味で、「売れること」をあまり意識させないこちらの新書はさすが。
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/06/20
- メディア: 新書
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思想家たちは、先人たちの営みを受け継ぎ、超えてゆく。
その意味では、内田さんの本だって構造主義のことだけを延々とやるわけではない、それを整えた実存主義・現象学あたりもカバーしている。そのうえでの解説だ。さすが内田節、という感じ。たとえがうまい。
個人的には、レヴィ=ストロースが理論武装されたサルトル実存主義を粉砕したところは、そういうことか!と納得した。ぜひ読んでほしい。
おわりに
岡本さんの本は、まだ日本で訳されていない思想家の本も紹介してくれていてとても読み応えがあった。
最後に一人だけ、「これは…」という思想家の経歴だけ紹介したい。
ベルナール・スティグレール
高校を中退、共産党入党、ジャズ喫茶を始めるも資金繰りに困り銀行強盗。逮捕、5年間の禁固刑。友人の勧めで獄中でプラトンを読み漁る。通信教育で学位、出獄後デリダを訪ね、その指導で博士論文を書く
哲学は特に、「自分のものの見方」を明らかにしてくれますね。社会科学によりすぎると、これを見失う。思索の時間があることは教員にとっても至福です…
なぜか内田さんの本のリンクがおかしいですね