やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

リクルートと河合塾が高1・2向けに新展開するテストの狙いとは~ピンチを迎えるのはあの大企業?~

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夏。教員にとっては、引率と読書に明け暮れる夏。

当然部活もあるが、幸いブラック部活化しておらず、そこまでの勤務負担はない。だからこそ、この立場に甘んじていてはいけない、とひたすら読書をしていたら、友人がこんなニュースを知らせてくれた。

 


www.recruit-mp.co.jp

一言でいうと、しかけてきたなあ~という印象。なぜそう感じたかをまとめておく。

どういうサービスか?

高校1・2年生向けのテストを共同で開発し、2018年度より高等学校に提供する 

とのこと。テスト≒模試といっていいのかわからないが、

正確な学力把握と教科指導の強化を実現した新しいテスト

とうたっているので、既存の模試のイメージと大きく変わらないものだと思っている。

ただ、これなら今までも多くの学校が民間の「模試」を採用し、受験させてきている。

あなたも、高校生の時に、「○○模試」って受けたことないだろうか?

しかも、河合塾は言わずもがな、予備校業界の中で知らない人はいない。

当然、今までも「模試」を行ってきており、その実績は確かだろう。

きっと、大学入試改革にも対応してくる。

では、なぜ新しいテストを行うのか?

真の狙いは、テストの内容ではないだろう。

今回、両社が共同で新しいテストの開発をおこなう背景には、大学入試改革もふまえ「生徒の希望進路をかなえるために教科指導をより強化したい」という高等学校の先生方からいただくご要望があります。そのご要望に応えるために、基礎学力の定着度を正確に測定し、偏差値等の提供を行う試験と、その結果をもとに効果的な復習ができる仕組みを両社で共同開発し、提供することとなりました。 (太字は筆者)

太字にした部分がポイントだろう。

なぜなら、それまでの、高校の教員からの要望は決して新しいものではないし、

その要望に応えるために行ってきた今までの模試は、まさに「基礎学力の定着度を正確に測定し、偏差値等の提供を行う試験」だったじゃないか。

これまで通りの模試で何ら問題ない(言い過ぎ?)だろう。

しかし、テストの「結果をもとに効果的な復習ができる仕組み」を本気で作りに来るなら話は別だ。

やりっぱなしは予備校にとって何の痛手でもないのに

個人的には安価で良質なサービスを、全国の高校生に対して届けたい、という方向性には大賛成だ。(学校現場がそれに乗るかは別なんだけど)

その仕組みをつくるなら、とても面白く、社会的にも意義深いと思う。

なぜなら、今まで「模試」を作る側は、別に生徒がやりっぱなしでも何らビジネスに影響を及ぼさなかったからだ。

今回、河合塾がリクルートと組むのは、

「やりっぱなしにしないこと」

にビジネスチャンスを見出したからだろう。そしてその着眼は正解だと思っている。

現場がカバーしきれない領域

なぜなら、やりっぱなしにしないことは、現場でひたすら説かれるのに対し、クラスで模試を受験した「個」の生徒に対して、主に担任の教員がそこまでカバーしきれない領域であったからだ。(言い訳がましいが)

学力とは何だ・偏差値教育はけしからん論争はいったん棚上げし、受験のためになってしまうが、

本当に生徒個人の「学び」を支援したければ、模試に対してもサポートは絶対に必要。

だって受験はできなかった問題をできるようにしていけば、ある程度の努力が報われる勝負だからだ。

だから、多くの生徒が「できない」を「できる」に変えていくための伴走者を必要としている。現場がカバーしきれなかったところだ。そしてそれは、金になる。

目指されるのは「学び直しのプラットフォーム」

河合塾がテスト問題と学び直しの問題の作成を担当し、リクルートマーケティングパートナーズがテストの販売も含めた運用全体と学び直しのプラットフォーム「スタディサプリ」の提供を担当します。

現場にいると、スタディサプリがぐんぐん浸透してきているのを肌で感じる。

www.yacchaesensei.com

www.yacchaesensei.com

リクルートの「金になる木」への執着心とスピード感は本当にすごいと思っている(いい意味で)。うかうかしていられないのはベネッセだろう。

ベネッセの「模試デジタルサービス」の限界

進研模試デジタルサービス よくあるご質問

gousen.benesse.co.jp

あんまりいいページがないが、通称「模試デジ」と言われるこのサービス。

昨年だったか、「合格への戦略」というサービスが加わった。

今回のリクルート+河合塾の動きに似ている。

簡単に言えば、模試の復習+自分に合った問題演習ができるプラットホームだ。

ベネッセは、なぜかわからないが、そこに進研ゼミ高校講座をリンクさせない。

模試を受けた生徒が、オンラインで勉強できるようにする

ならば、進研ゼミの高校講座をくっつけて売ればいいのに、それをしてこなかった。

(もちろん、進研ゼミ自体が会員数減少状態で、くっつけたところで売れない可能性は大いに想定できるが、ビジネスとしてはその機会を使わない手はない。また、進研ゼミ自体を売らなくてもベネッセ傘下の塾を推してもいい。入会するかは別だが、学びのプラットフォームを目指すならとるべき策だろう)

だから、ベネッセは学びのプラットホームにはなれていないと思っている。

生徒にきけば、「模試の結果を一日でも早く知るために見ている」くらいだ。

おわりに

とはいえベネッセは事業を多角化しまくっている大企業。あまり痛手は受けないだろう。でも、今日のこのニュースの動きは、リクルートが本気で食いにきている、というように思わないと、気付いたら…の状態になるのではないだろうか。

本格的にリクルート×河合塾が動くのは来年度。そこまでのプレスリリースは注目だ。