本当に溝上先生と東信堂さんには感謝である。
タイトルが難しそうな印象を与えるが、現場の教員であればこの1冊は必携だ。

アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性 (学びと成長の講話シリーズ)
- 作者: 溝上慎一
- 出版社/メーカー: 東信堂
- 発売日: 2018/03/01
- メディア: 単行本
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読みたての感想を一言でいうと
具体と抽象の記述のバランスが本当にちょうど良い。
現場を意識しているからやや具体寄りだけれど、理論も最低限の解説・注+溝上先生のサイトの参照でカバーできる。
それもそのはず、
「理論と学校現場を往還していろいろ考えることを、シリーズで自由に書かせてほしい」と溝上先生がお願いして実現した本だ。
だから、繰り返すけど「具体と抽象の記述のバランスが本当にちょうど良い」です。
・自分の実践を振り返るためのガイドブックになるだけではなく、
・校内で他の先生にも手軽に勧められます。
この内容で約150ページの薄さ&1000円+税(安い!)はすごい。(『学習する学校』をいきなり勧めるのはやっぱり気が引ける。笑)
理論的なポイントを押さえているから、ハウツー本には決して成り下がらない芯の強い本です。
アクティブラーニングを実施する高校の教育現場を観察すると、各学校・教員が行う独自の創意工夫が見えてきた―。本書では各学校の取り組み事例をふんだんに取り入れ、アクティブラーニング型授業の実践から学校教育の社会的機能を再考することで、教育の新たなステップを提言する。
本の目次はこのようになっています。
第1章 アクティブラーニング型授業における教師と生徒の関係性
第2章 アクティブラーニング型授業の基本形とさまざまな創意工夫
第3章 よく思い出す技ありの名場面集
第4章 文科省施策「社会に開かれた教育課程」をよくよく理解して
第5章 主体的な学習をそもそも論から理解する
本書で登場する教員紹介+ふり返り/文献/あとがき/人名索引/事項索引
前半は現場の様々な実践を見ながら、理論と照らし合わせて進んでいきます。
後半は、前半の実践について先生が行った解説の土台となっている背景・理論を中心に書かれています。
ここからは自分にとって印象に残ったことを中心にまとめます。
印象に残ったポイント①「自他のズレ」
「良い」アクティブラーニングは何だろう、とイメージをより具体化しようとした時に、どうしても「生徒の学びが深まる授業」とか「主体的に学んでいる授業」という言葉で表現することはないだろうか。
その表現は間違っていないけれど、結果論での語りだということに気づかされる。
だから教員は、「その結果を導くために教員はどのような仕掛けをすれば、良いアクティブラーニングを実現できるのか?」と問わなければいけないだろう。
その問いに対して、溝上先生はこう言い切る。
個人の学びに他者との協働的な学びを加えて、学びをより社会的なものに拡張していくアクティブラーニング型授業推進の根本意義は、自他のズレを徹底的に創り出すことにある。
ズレを可視化するためには、自己のなかにある理解や考えをまず「外化」(≒アウトプット)しなければならない
「自他のズレ」無くして、価値観の揺らぎは生じない。
良い教員の授業は、この認識を“しかけ”に変える。
溝上先生も
グループの発表後に教師が解説をするのではなく、生徒自身が自己と他者のズレを見つけ、自身の理解を弁証法的に発展させるというワークを行ったほうがいい。全国のアクティブラーニング型の授業を見ていて、ここができていない授業が多い。
と語っている。このしかけが「深い」学びを誘うものだと思うのです。
※「自他のズレ」に加えて、「身体性」というキーワードも重要ですが、これは授業写真等を見ながら理解するとより納得しますのでぜひ本で…
個人的にも前任校の素晴らしい先生の授業実践を思い出して、なぜ素晴らしかったかというと、この身体性がほぼ完璧に実現されていたからだと膝を打ちました。
第2~3章で紹介されている実践は、いずれも身体性を踏まえた、効果的な“しかけ”を実現している授業ばかりです。
教科・学齢の特性を超えて、自分の授業に反映できる要素が1つは見つかる、そんな前半でかなり満足しながら後半を読み進めました。
印象に残ったポイント②「主体的な学習スペクトラム」
個人的には第5章の「主体的な学習をそもそも論から理解する」は、今までの自分の実践を体系づけ、これからの実践の理論的支柱になるものだった。
この章は、
- 「主体性」の定義
- 「主体的な学習」の定義と学習スペクトラム
- アクティブラーニングと「主体的な学び」の関連
- 理論の補足
という4本柱で構成されています。
2・3の内容が個人的新学習指導要領の「主体的な学び」とアクティブラーニングの微妙な言葉の意味の差を明確化し、しかもそれをスペクトラムに落とし込んでいるのが本当に有用です。
平たくいうと、「自分が授業でやろうとしていることは、どこに当てはまっているものだろう?」という参照表が現場の教員にとってはとっても役に立つと思う。
こうした分類を常に念頭に置くことで、狭義には学習活動、広義にはカリキュラム全体の設計を短〜長期の視点で考えることができるようになる。
教員のための書籍、というと、ここ数年話題になっているような教育分野の書籍は、Ⅱの「自己調整型」の学習観からのものが増えてきたような気がしています。

学生を自己調整学習者に育てる:アクティブラー二ングのその先へ
- 作者: L.B.ニルソン,Linda B. Nilson,美馬のゆり,伊藤崇達,深谷達史,岡田涼,梅本貴豊,渡辺雄貴,市川尚,畑野快
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2017/07/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」
- 作者: ダンロスステイン,ルースサンタナ,Dan Rothstein,Luz Santana,吉田新一郎
- 出版社/メーカー: 新評論
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: 単行本
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巷の教育論議(良くも悪くも教育は誰でも語れちゃうからね…)に振り回されないためにも、骨太な理論に裏付けられた実践を設計できる教員集団を作りたい。
自分の授業実践だけで生徒や学校、ましてや教育界が変わるなんていうのは本当に幻想というか、「臆病な自尊心」を満たすだけ。
そのためにも、今紹介しているこの本はやっぱり周りと一緒に読んで議論したい本です。常に手元に置いておく価値のある本だと思っています。

アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性 (学びと成長の講話シリーズ)
- 作者: 溝上慎一
- 出版社/メーカー: 東信堂
- 発売日: 2018/03/01
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おわりに
今日の教育改革は学校教育の社会的機能の見直しを図るものである。(中略)この大規模な教育改革に関われることを、ときには恐れながらも、総じてありがたい機会をいただけたと思い、私は私の取り組めることに真摯に取り組んでいこうと意を新たにしている。
このマインドセットで現場で日々奔走する教員はきっと多いはず。
ぜひこの溝上先生の語りに賛同する方は手にとって損はない本です。
登場する教員の方々の実名も所属も明らかにされていて、なんだか全国の学校にこんな「仲間」がいるんだ、と勝手に思えます。
シリーズ化の第1巻ということで、続編が本当に楽しみです!!!!