今年も共通テストの時期になりました。プレテスト+過去2回の共通テストからいえる政経の特徴は、
プレテスト
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- とはいえ差がつくのは知識問題
2021
- 読解力ベースで文章量が多い
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素ふまえたインプットを
2022
- 「具体的なシチュエーション」が重要
- 「コアとなる概念知識」の確実な習得が必要
とある程度形が固まってきました。
共通テストになってからは、科目を問わず読解量が多い、です。初日の1科目目という緊張がピークの状況もあり、気づけば時間いっぱいだったという受験生もいるように思います。
総じていえば、政経はセンター試験からの決別を果たしたのが2022の共通テスト。さて、今回はどうだったでしょうか。
受験生目線+教員目線でみていきます。倫政受験の方は、お手数ですが倫理と政経それぞれの記事をご参照ください。毎年倫政オリジナル問題は出題されず、倫理と政経の問題の転用です。問題等は河合塾から。
- 毎年「設問1」は一筋縄ではいかない
- ロシアをこう聞いてくる
- 環境問題はもはやA+の出題頻度!
- 憲法尊重擁護義務と自民党改憲草案
- 行政国家現象を前提にした出題か
- 一目でわかる新自由主義
- 10年経った制度は出題される!
- 日銀の為替介入!時事的なテーマど真ん中
- あれ?なんでこうなるの?
- 国債を買う人目線で
- 戦争違法化の潮流、軍縮、防衛政策
- 委任の連鎖 責任の連鎖
- 改正少年法、これも待ってました
- 判決文を読ませる出題も継続
- SDGsの経緯!
- 共通だが差異ある責任
- 機能不全に陥る国際機関
- ★沖縄返還50周年の問題は…
- おわりに
- まとめ
毎年「設問1」は一筋縄ではいかない
と言っていますが、今回の政経は比較的解きやすい経済学説の問題。いきなり経済がきて面食らう、という形式に焦りはあるかもしれませんが、内容は易しめ。
①~③の正しい選択肢も非常に易しく、④を知らなくても選べそう。ケインズは「有効需要」の創出を訴えた人ですから、供給能力の不足ではなく需要の不足です。
設問2は知識+資料の読み取りですが、日韓中とアイウの特定は易しいので、あとはA~Cの照合。Aの債務超過で日本、Cの2010年代の対前年比10%超えの経済成長で中国、と判定して残るBが韓国でしょうか。一人当たり実質GDPでも正解できる問題。これは落ち着いて取りましょう。
ロシアをこう聞いてくる
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から、必ずロシア関連の出題、そして安全保障政策や、核軍縮、東西冷戦、国際機関などの出題があると予想された今回の試験、3問目でロシアを直接聞いてきましたね。他のテーマは第3問に集中してました。
地理のような出題にも思えますが、歴史総合、地理総合、公共の必修化により科目の枠を超えた学習の方向が強化されました。そのことを反映する出題の1つ。
ただし、これも資料文が大ヒントですね。日本と中国は機械なのでイ・エ、モノカルチャーのナイジェリアがウとなるとアはロシアしかありません。資料を読まずにやるとウの「天然ガス」が目に入りロシア!と言いたくなるので注意。
環境問題はもはやA+の出題頻度!
日本では環境問題に関する報道がそこまで盛んには思えませんが、共通テストでは毎年必ず出題される主力分野になった印象。10年前とは大きく異なります。
こういう2択×2択の問題が増えてきた印象がありますが、アについては、aは非現実的ゆえにb、イは固定価格買取でその発電を後押ししたいなら再生可能エネルギーのc、図は2012,2019の比較なら東日本大震災の影響で原子力がガクッと減ったfが2012、太陽光パネルがこれだけ増えたのも含めeが2019と2択問題を3つクリアできるでしょうか。
新幹線からの景色を思い返しても、太陽光パネルが増えている印象。定点観察、というほどちゃんとしてませんが、同じ景色を定期的に見続けるとそういうヒントも降ってくるかもしれません。じっくり何かを観察できるのは贅沢ですね。
憲法尊重擁護義務と自民党改憲草案
時事的でもあり、日頃の授業実践が問われる出題に思えます。アだけ載せます。
これは「憲法」というものの根幹を問う問題。bは自民党改憲草案。比較する形で憲法分野の学習をしていればあっさりとれる問題ですが正答率はどうだったでしょうか。授業を担当した生徒たちにはここは確実に取ってほしいところ。
行政国家現象を前提にした出題か
「三権」の中でも、今や国民生活の様々な場面に対応する行政権はその役割が肥大化している、とまで言われています。「行政国家現象」という言葉がその表れです。
設問7の独占禁止法・公正取引委員会の出題も「行政権からの独立性」という観点での出題はややイレギュラーさを感じた受験生もいたはず。
ある程度の裁量をもちつつ肥大化する行政権に対し、どこまで民主的コントロールを及ぼすか、というのが問題の所在です。「なぜこの知識が問われているのか」という問題の所在をつかんだ学習を促したい。個別知識で点を取るだけにしてはもったいない。
一目でわかる新自由主義
見る人にはそう見える出題。これも「なぜこの知識が問われているのか」が透けて見える気がするのは私だけでしょうか。
聞かれている知識は鉄板の中曽根三公社民営化と小泉郵政民営化。中曽根ー小泉ー安倍のラインを結べば1980年代から現在に至るまでの政策の方向性が見えてきますね。その点でも、一目でわかる新自由主義的な問題に思えます。
ここまで図表も読み取りも多い第1問でした。つづいて第2問へ。
10年経った制度は出題される!
と毎年言っているんですが、2年連続ふるさと納税が出ました。
ただし、軽減されるのは消費税、ではないですよね。早合点して選ばないように注意。
この設問も地方自治の出題ですが広い目で見れば、国と地方という行政主体の関係性を問う問題です。立法司法よりも今年は行政関係の出題が目立ちます。
設問9~設問12までは比較的オーソドックスな知識問題が続きほっと一息。序盤は情報量も多く焦った受験生もここで乗っていきたいですね。
日銀の為替介入!時事的なテーマど真ん中
教科書にある知識を、時事的な要素を絡めて出題する傾向がバシバシ伝わってきます。
初めて聞く話が出た時は誰もできない or かなり易しい のどちらかなのでこういう問題は落ち着いていきたいですね。
逆らうか乗るかで2択。円安と円高と図の見方の対応がわかっていればイだと楽々選べるでしょうか。昨年度はアジア通貨危機を例に、ドルとバーツの為替レートを示すグラフが出ているので、今年は受験生も対策しただろうし、時事ネタだし解きやすかったはず!
歴史的円安と日銀の為替介入のニュースを反映した時事的かつ基礎的な出題です。
ちなみに日銀の「おしえて!日銀」のページは中高生でも読める易しい解説記事が多いです、素朴な疑問に対する回答も結構ありますよ。
あれ?なんでこうなるの?
戸惑った受験生もいたかもしれない、知にいざなうという点では好きな問題。
易しい割合の問題、といってもいいですが、面白いですよね。両方とリサイクルが活発化しているのに、国全体でみると進んでいないという現象。
シンプソンのパラドクスが起きている事例を自然に出してきているのは「情報」の共通テストに向けた布石でしょうか。
国債を買う人目線で
国債発行や金融緩和といった主語の大きい現象を扱う財政・金融分野ですが、それをやっているのはミクロの主体だよ、という当たり前の事象を教えてくれる問題。
日銀がめっちゃ買ってるじゃん!というのが一目瞭然ですよね。こういうグラフを見ると、買いオペー金融緩和という知識がガチっと繋がってくる。来年度の授業では生徒に示したいと思います。
ここまで第2問でした。折り返し地点の感覚だと、昨年度と読解量はそこまで変わりませんが、おととしより「処理」量が減ってる印象。その意味では解きやすいかもしれません。
戦争違法化の潮流、軍縮、防衛政策
第三問はテーマ色の濃い出題。ロシアのウクライナ侵攻は確実に影響しています。
ですが、この分野は政治的色彩も強く帯びることから、私立大学を中心とした一般入試の政治経済でもあまり込み入った出題はありません。
今回の共通テストも比較的頻出知識がストレートに問われていましたので割愛。センター試験とほぼ変わらない出題が続きました。
国家安全保障会議(NSC)や防衛装備移転三原則はやや時事的、といってもよいですね。
委任の連鎖 責任の連鎖
行政権の拡大の話をずっとしていますが、国会と内閣の相互の関係性を問う類の問題。今年はそういう傾向なのでしょうか。個人的に「委任の連鎖」は講学上面白い論点があることから、図を見た瞬間「来た!」と思った出題です。
来た!と思ったのですが、易しい問題で拍子抜けしました。(笑) 2択も易しく、あまり差はつかないでしょう。もう少し微妙な選択肢にしたくなるけど、委任の連鎖と責任の連鎖の概念を紹介すること自体が攻め込んでるのでやむなし。
なお、待鳥先生の本は授業づくりにおいても大変参考になります。
改正少年法、これも待ってました
こちらも個人的に待ってました、と思ってしまう改正少年法の出題。18歳成人に伴い議論が活発化しましたし、多くの受験生が学校の授業でも触れられているテーマです。
とはいえ、これも原則家裁、検察官送致、特定少年といった言葉を知っていれば問題なく正解できます。その意味では、やはり易しめ。
先の問題もそうだけど、時事性あるいは概念性が高まると、肢はとても易しくなります。
少年法関連のおすすめ本、学校図書館に備えておきたいです(いつもリクエストに快く答えてくださる図書館スタッフの皆様に感謝!学校図書館は大事ですよ、学校見学でもちゃんと見ましょう。その学校が図書館を学びのハブととらえているか、自習室ととらえているか、蓄積される知にお金をかけているか、そして「本を読む生徒」が集まる学校かどうか、色々とわかります。)
判決文を読ませる出題も継続
プレテストは判決文そのままフルで読ませて並び替えさせるというタフな問題がありましたが、これくらいだと判例学習もしやすい。
報道は、編集という知的作業あり+国民の知る権利に奉仕する意義がある点で憲法21条の直接保障ですが、取材は「21条の精神に照らし十分尊重に値する」と述べるにとどまるので、この機会に違いをおさえておくとよいですね。
報道の自由と、報道のための取材の自由 はちょっと異なる、ということです。
第3問の最後は「衆議院の優越」を問う基礎中の基礎問題。第1問で結構今年もタフかな、と思いましたが、昨年度に比べれば難化したとは言い難い印象です。
さて、最後の大問、第4問です。
SDGsの経緯!
これは対策していた人とそうでない人で差が付いちゃったかもしれません。とはいえ、1つ1つの会議やスローガンは頻出、かつ並び替え問題もよく出ていたところではあります。
国境を越えた世界規模の問題の出題が多いなと感じていましたがダメ押しでこの問題。
共通だが差異ある責任
この問題を解いているときになぜかケニア国連大使のスピーチが浮かびました。
ロシアのウクライナ侵攻がテーマですが、環境問題に関しても途上国は「巻き込まれている」とする立場も取れるはず。それでもなおなぜ国際協調体制を築こうとするのか、という点で想起されたのかもしれません。何度観てもケニア大使のこの演説は迫力と説得力があります。
機能不全に陥る国際機関
拒否権を持つ常任理事国であるロシアの力による現状変更、そのことに対応しきれない国連の機能不全は必ず出題される、と思ってはいましたが、それに限らず年々時事性が増している気がする共通テストの政治経済です。というか2022年が色々ありすぎた。
個人通報制度、人権理事会が出ている点も時事性を強く感じるし、④は日本の立ち位置を再認識させられる出題意図が透けてきます。
設問30まで、時間をかけて読み取れば対応できる問題が続きました。個人的に設問28でサプライチェーンが出題されたのも物流危機を背景にした出題で興味深く思えます。
今や新聞を読む生徒はかなり少ないですが、サプライチェーン、のような単語にも慣れていく上ではニュース検定は共通テスト対策の意味でも有用かもしれませんね。(回しものじゃない)
★沖縄返還50周年の問題は…
日本史の設問31で出題されていました。これは明らかにメッセージ性があるでしょう。
沖縄返還50年の知識と読み取りなのだけど、c,dは事象を見る「視点」を織り交ぜ、生活実感を伴う形での出題。センター試験から明らかな変化を象徴する問題にも見えます。
そして、復帰50年の節目に「経済的な利益を得ているのは本土の企業であると、沖縄では不信感が募った」と「戦後は続く」というリード文。
今や「沖縄は日本ではなかった」という事実を知らず、沖縄を身近な観光地と感じる生徒も多くいます。しかし、この結果を見ると「ほんとうに沖縄と本土は身近な存在といえるのか」と思わずにはいられません。
おわりに
昨年同様、「共通テスト」は教員にとって授業づくりのヒントが満載ですね。
そして、ご覧いただいたように国際政治の出題が例年より目立ちました。
1つ1つの現象やその効果を生徒目線に落とし込み、「なぜこれを学ぶのか」という意味の発見に至る授業。
センター試験に比べて、共通テストはそうした意味の発見を促す問題になっているという感覚をもちました。
そして、政治学、法学、経済学を軸に、社会科学特有の見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求するという点では、決して今後も対策は変わらないと思った次第です。
※「え、それってどうやってやるの?」のヒントとして書いた過去記事です。
まとめ
3年分の共通テスト本試験が終了し、政経はセンター試験との決別傾向が顕著な科目だという評価は変わりません。
冒頭のこれまでの共通テストの傾向まとめに何か加えるとするならば、
- なぜこれがいま問われるのか、という文脈の必然性
ある意味、この文脈を意識した授業は王道かつ試験対策っぽく見えませんが、逆にそれが直接的な試験対策にもなる、ということを感じます。もちろんすべての知識に必然性を感じられるように授業をすべきなのですが、今年は特にその文脈の必然性を感じた年でした。
と1つだけ足して終わりたいと思います。
※倫理・現代社会の共通テスト2023記事は随時更新します。
「倫政」は独自問題なし=倫理と政経の記事にその内容を吸収しています。