やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

共通テスト2024政治経済を解説・分析する ー政経を通して見える5つの傾向ー

今年も共通テストの時期になりました。プレテスト+過去の共通テストからいえる政経の5つの傾向は、

  • 読解力ベースで文章量が多い 
  • 初見の図表も慌てず丁寧に読み解くこと(ただし時間配分)
  • 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要(=差が付くのは知識問題)
  • 「コアとなる概念知識」の確実な習得で守備範囲が広がる
  • 「具体的なシチュエーション」、時事的要素ふまえたインプットを

というものです。

そして、結論から言うと、今回もこの5傾向に従った出題といってよいでしょう。

共通テストになってからは、科目を問わず読解量が多い、です。初日の1科目目という緊張がピークの状況もあり、気づけば時間いっぱいだったという受験生もいるように思います。

公民科目の中でも、特に政経は2023でセンター試験からの決別を果たしたと特に感じさせる内容、出題形式でした。さて、今回はどうだったでしょうか。 

受験生目線+教員目線でみていきます。問題は 河合塾から。

注目の「設問1」のテーマ:18歳成人

18歳成人の影響で、原則高1または高2で「公共」が必修になりました。来年度以降の共通テストも「公共・政経」となります。「政経」単体での出題はラストイヤー。そう考えると「公共・政経」への接続を大いに意識した出題です。

そして、18歳の当事者たちに、「18歳」という節目の視点で単元の異なる知識を整理することを求める大切な問題。

問1(下線部aは成人年齢)

これは③を一発で当てたい所。刑法41条(十四歳に満たない者の行為は、罰しない。)という明文もありますし、少年法改正等の時事的な話題とも関連します。

それよりも注目は肢④。この未成年者取消権は重要な規定で、18歳成人によってどのような影響があるか、注目していました。

「公共」で私法領域の学習が拡大したことを考えれば、この出題は自然な流れです。

問2 決め方で結果は変わる

10年前は教科書にもなかった事柄が、教科書だけでなくこうして共通テストにも出題されました。決め方で結果が変わる、という現実を具体的に把握する問題。

問2

アは単純な読解問題。数えればB党、全ての選挙区で(2位通過で)当選するので「多い」、イは死票の理解、ウもアと同様の読解です。これは確実に取るべき問題。処理問題の1つ目がこれくらい易しいと、ガチガチに緊張している初日1科目目の受験生がのっていけますね。こういう傾向を続けてほしい!

今見ている現実は所与のものではない、ということを実感をもって理解できるという点でも、毎年授業で盛り上がる学習の1つです。

慶応の坂井先生の功績が大きいこの分野。ぜひご著書を手に取ってほしい!

www.yacchaesensei.com

M-1の審査の偏りの検証にも使える面白さ。「決め方が変われば結果が変わる」中で、良い審査とはどのような審査か?という問いです。

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続く問3は「地方自治は民主主義の学校」を思わせる出題。問題文は割愛しますが、差が付くのはイ。条例制定の直接請求は「50分の1」以上の署名というのは昔から頻出です。覚え方としては、人の地位を直接奪うことになる大ごとは3分の1、そうでないもの(条例や監査)は50分の1です。知識がしっかりしていれば、対話文の流れに惑わされず正答できるはず。

10年経った制度は出る!

と毎年言っていて、今年も出ています。しかも裁判員制度のこの問題は2021年に出題された形式とほぼ同じ。過去問に取り組んでいれば確実に取れる問題。

問4 組み合わせ問題

ちなみにこっち↓が2021年の問題。ほぼ同じ!

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共通テストの特徴が顕著な問5

問5 問題文

問5

冒頭にまとめた特徴を全て踏まえているといっていい問題でした。そしてこういう問題の配点が「4」であることも共通テストの傾向。

  • 読解力ベースで文章量が多い 
  • 初見の図表も慌てず丁寧に読み解くこと(ただし時間配分)
  • 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要(=差が付くのは知識問題)
  • 「コアとなる概念知識」の確実な習得で守備範囲が広がる
  • 「具体的なシチュエーション」、時事的要素ふまえたインプットを

2024年問題等の労働市場の時事的動向を踏まえ、対話形式かつ見開き1ページでの読み取りが必要ですが、「需要と供給」「有効求人倍率」という基礎がしっかりしていれば落ち着いて取りたい問題。

www.traffic-probe.jp

大問1その他問題のプチ解説

問6は平均消費性向とエンゲル係数の計算問題ですが、どちらも求め方を暗記している受験生はほぼいないはず。こういう時は問題文のヒントに愚直に従うのみです。

受験生目線の思考フローにすると、平均消費性向は「可処分所得に占める消費支出の割合」とあるから「消費支出」は表中の該当する数字を使おう→「可処分所得」の表記はない…どうすりゃいいんだ→?「実収入」はある→実収入から自分で自由に使えないお金を引けば「可処分所得」になりそう→「非消費支出」がそれか!→実収入から非消費支出を引いて可処分所得として計算してみよう。という感じでしょうか。

今回の問題は、実は消費支出÷実収入と表中の数字をそのまま使っても正答できるので出題者の優しさを感じますが、ちょっと焦る問題ですね。加えて「エンゲル係数」がわかってないと正答できないので、やや難しい問題の部類かな。すべての消費に占める食費の割合、くらいはイメージある受験生も多そうですが。こういう問題は、一旦答えを出しておいて、時間があれば後で戻る問題として先に行くのが全体の安定につながります。

 

問7は、公的扶助が保険料から、だとしたら生活保護にならないですよね…憲法の人権として規定されている意味を考えればイ✕には気づいてほしい所。

問8の子ども家庭庁が内閣府の外局、というのは時事的な出題は言え、受験生には酷な出題。一元化して文科省と厚労省のセクショナリズムを打破しようとしたけど文科省がごねてうんたらかんたら…と聞いてはいましたが…

 

国家=暴力の独占

さて大問2です。倫理っぽいけれど、国家とは暴力の独占である、というウェーバーの思想(乱暴に言いすぎ)から権力像の読解問題。

設問9

IBじゃないけれど、概念的知識の形成に資する問題。こういう引用を授業の端々に挟み込んで授業を立体的かつ説得的にしたい。

自分ごとを求める出題

が本当に増えています。これは負担者を暗記するというよりは、制度の趣旨まで含めた深い学習が必要ということだと解釈しています。というかそこを聞いている問題ですよね。

設問10

さっきの公的扶助の問題も含めて、社会保障の体系的理解がより求められているような印象です。

プチ司法試験?主張反論型

パッと見て、全農林警職法というおよそ高校生は知らない判例、しかもXとYの対話は司法試験を思わせるような主張ー反論型の問題に見えました。つまり、1つの判例に対する複数の解釈を検討させる問題です。

設問11問題文

設問11

b-c-eの正解自体は知識として押さえているべき点ですが、争議行為の全面禁止に比べ、「一般職の国家公務員」という限定をかけて団結権の○×を尋ねるのはやや細かい気もします。もっとも、労働三権は憲法上保障される人権ですから、原則は認められるべきで、制限していること自体が例外、という原則と例外の関係は踏まえたいところ。この最後のウで外してしまうと4点失うのは痛いですね。

今年は労働社会保障多いですね。割愛しますが続く設問12も問3につづく地方自治。いずれも、実生活との関連を強く意識させ、「公共」の姿をちらつかせている気がします。この傾向自体は大賛成だけれど、なんでも公共に押し込みすぎ+単位数があまりに少なすぎる…

宗教2世の問題の影響か

時事的な匂いがプンプンしますね…難易度としては易しめ。でも3択すべて○×あてないと得点できないタイプの問題はこれくらいの難易度にしておいてほしい。

設問13

本棚に鎮座する読みかけのこいつと目が合ってしまいました…やっぱり大学入試センターも時事性を相当意識している印象。そして続く3問のうち2問は読解問題。処理量は増えますね。この点は形式的な慣れが必要。学校の定期試験ではそういう純粋な読解問題は出しにくいので…

またもや私法領域から!

今までは法学分野といえば憲法だったのが、18歳成人で明らかに私法領域の扱いが変わりました。今度は会社法からの出題。

設問15

ただ、アは株主有限責任という会社法の大原則、イは持分会社の分類を覚えていれば一発。ウは論理的に解答導けますよね。ちなみにイは「無名誘導(有同)」で覚えています。無限責任ー合名会社、有限責任ー合同会社、両方いるのが合資会社ですね。で覚えています。無名な一般人が誘導してくれるイメージ。

資料集の解説記事が役立つ

大問3へいきましょう。最初の設問17のGDPの計算は一瞬身構えますが、あっさり。

次の設問18の三面等価の原則をきいているイ・ウは簡単なので、結局差が付くのは知識問題のアなんですよね。

設問18

GDP、NI、三面等価あたりは多くの学校で使用している資料集に必ずと言っていいほどグラフ付きで明快な解説が載っているので、そういう資料に目を通して理解を深める学習は必須。可視化できるものは使わない手はない。

学校で採用されている副教材(資料集)は定価1,000円程度=安価で、最新の、信頼のおける情報が、カラーで、高校生に分かる形で、網羅的にまとまっている最強の教材です。破格すぎます。こんなすごい教材は他にありません。

そして法や政治や経済に興味を持ち出すのは社会に出てからであることも多いので、ぜひ数年は本棚に並べておいてほしいと毎年伝えています。

またもやGDP関連!?

次の設問20でまたマクロ分野からの出題!さすがにしつこいなと思ってしまいました(笑)今年の政経は同一単元からの出題が多いですね…

しかもこれはGDPデフレーターの理解を求める踏み込んだ出題。

設問20

実質=名目/デフレーター×100の公式を知っていればいいのだけど、イはGDPデフレーターの意味まで確認することになりますね。物価指数というよりも、「ホームメイド・インフレの指標」という理解は通常授業でやっている時間はないけれど面白いです。

※勉強になった記事

・GDPデフレータが意味すること | 公益社団法人 日本経済研究センター

・よく分かる!経済のツボ『資源高で「下がる」物価指標とは?』 | 大柴 千智 | 第一生命経済研究所

やっぱり環境問題

昨年の分析で環境問題はA+と言いましたがやはり今年も。具体的な汚染物質の削減策として適切なものを選ぶ計算問題の一種です。が、よりよい社会の実現のために、モラルではなく制度を使う経済学の王道的な問題でもある。

設問21

所定の条件で最大濃度で最大量の汚染水が出るとしたとき、①②はどちらかが無制限である点で確実に減らせる保証はないことが分かります。汚染物質の総量を計算すれば④は現状と変わらず、③だけが減らせます。こういう現実的な解決策を探っていくのが経済学の面白い所です。

ちなみに大問4の最終問題にも、環境問題に関連して、スマートグリッドとコージェネレーションの語句だけを答えさせる問題があり、最近の政経でみられる易しい問題形式。こういう所は確実に取りたい。

これは難しい!

次の設問22でまたGDPという文字が見えた時、また!?と声が出ましたが、資料読解問題でした。そして難しい!

設問22

在庫だけが他2つと連動しない+94年の景気回復に伴って減少しているアと分かりますが、GDPと設備投資のイ・ウの判別は時間内に自信もってできる受験生ほとんどいないのでは…。GDPは民間設備投資より金額大きいでしょ、設備投資を含めGDPが出されるはずだ、と思って縦軸の数値の大きさで④にして時間あったら戻ってくる問題にしますかね…これは難しい。受験指導のプロ講師がどう解くか聞いてみたいです。

この大問3は難しく時間かかる問題多いですね…文章量も多く、これが初日の1発目、その後地歴→国語→英語→リスニングとずっと読解し続けるのは相当しんどい。受験生の皆さん本当にお疲れ様です。

比較生産費説と機会費用

こう絡めてきましたか…ただ処理させるだけではなく、比較優位の本質的な意味をつかむ面白い問題です。

設問23

受験向けの授業でも解説するように、比較優位の判定は機会費用の発想で行われるということが実感としてもよく分かると思います。センター試験自体から類題は出ているので、さかのぼった過去問演習が必要。何年だったか忘れましたが、ブロッコリーの問題だったことだけ何故か覚えています(笑)

機会費用という経済学のコア概念の理解も試されていて、コア概念の応用力にものを言わせる(言い方)傾向が顕著に出ている問題でもあると思います。

どこぞで聞いた”10のあやふやな知識よりも1の確実な知識”ですね。

定番「需要供給曲線」も深い理解が問われる

大問3は最後まで負荷の高い問題です。難しい!

設問24

これも時間かかりますね。冷凍野菜という代替品の登場で需要が落ち込み左にシフトする①or②。「生鮮野菜の価格が高いほど、生鮮野菜より冷凍野菜を好んで購入する傾向」というリード文をヒントに、「価格が上昇すればするほど、数量が落ち込む傾向にあるグラフ」で②を選ぶのでしょうか。より的確な解き方があれば教えてください。それにしても、負荷の高い問題を続けざまに解いて、最後に需要供給で安心できるかと思ったら…冷静に処理できた受験生はすごい。

原理原則に立ち返って1つ一つ処理するしかないですね…その際に書いてなくてもいいはずのことを書いているリード文があれば絶対に使ったほうがいい。

歯ごたえ満点の大問3でした。結構もうぐったりしていますが、大問4へ。

一帯一路もついに出題

大問4の最初は安心して解ける思想家照合問題。続く設問26インド、インドネシア、中国の人口ピラミッド比較の読み取りは易しいけれど、「人口オーナス」は受験生知らないのでは…比較する選択肢が「人口ボーナス」だからなんとなく選べるかもしれないけど、もうちょっといい出題ができた気がする問題でした。

続く設問27、知識問題だけど、時事的な要素の反映を感じます。

設問27

一帯一路とアジアインフラ投資銀行(AIIB)はセットでおさえておきたいところ。でも第二次所得収支をこれらに交えて単体で聞くのはなかなか厳しいのでは…実質①②を消せるかの問題に思えます。選択肢の書きっぷりから③は選べそうだけど。

○○教育の総本山

今度は金融教育ですね。これも最近の目玉。家庭科でも公民科でも頼んでないのに教材がバンバン送られてきては分別して捨てるのが大変注目されています。

設問28

当事者意識を持って考えることを促す問いという意味では良いですが、大問3の読み取り・処理の難しさからすると拍子抜けします。アの内容も、投資における基本のキ。

新NISAも始まり、色々通常授業でやりたいところだけど、どうしてもこういう分野は外部のプロが単発でイベント的にやって終わりになっている学校も多そう(自戒)。

宇宙条約と具体的事案

続く宇宙に関する国際法の資料読解問題は興味深いトピックではあるけれど、条文と選択肢を照合するだけの問題。敷衍すると、判例にせよ条文にせよ、判決文や条文を読ませることは大切。そうでないと問題の所在がつかめないことが多いです。

ちなみに、宇宙法務を手掛ける弁護士のインタビューが年始の新聞にも載っていて面白かったのだけどネットで探せなかったので代替記事。

forbesjapan.com

おわりに

やはり「共通テスト」は教員にとって授業づくりのヒントが満載ですね。

1つ1つの現象やその効果を生徒目線に落とし込み、「なぜこれを学ぶのか」という意味の発見に至る授業。

センター試験に比べて、共通テストはそうした意味の発見を促す問題になっているという感覚をもちました。

そして、政治学、法学、経済学を軸に、社会科学特有の見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求するという点では、決して今後も対策は変わらないと思った次第です。

※「え、それってどうやってやるの?」のヒントとして書いた過去記事です。

www.yacchaesensei.com

まとめ

これで4年分の共通テスト本試験が終了し、来年から「公共・政経」となっていきます。難関大が課している現行の「倫理政経」よりは出題範囲が狭くなる点で、受験生にとっては朗報かもしれません。

が、倫理が出ない分、「公共・政経」の難易度としては、今回の政経の共通テストが来年度の1つの目安でしょう。それにしても大問3の経済分野が難しかったので、これらを時間内に的確に処理できる盤石な基礎を築いていきたいところ。私もよりよい授業を展開していきたいと思います。

まとめとして、冒頭にも掲載したこれらの5つの傾向を踏まえた学習が必要でしょう。

  • 読解力ベースで文章量が多い 
  • 初見の図表も慌てず丁寧に読み解くこと(ただし時間配分)
  • 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要(=差が付くのは知識問題)
  • 「コアとなる概念知識」の確実な習得で守備範囲が広がる
  • 「具体的なシチュエーション」、時事的要素ふまえたインプットを

www.yacchaesensei.com

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※倫理・現代社会の共通テスト2024 解説記事は随時更新します。

「倫政」は独自問題なし=倫理と政経の記事にその内容を吸収しています。