毎年やっているセンター試験公民科目のゆる解説、今年から共通テストなのでしっかりめの解説です。
プレテストの傾向を踏まえると、
- 読解力を必要とする出題
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- とはいえ差がつくのは知識問題
これに加えて、コロナ禍の社会情勢を含めた出題はどうなったでしょうか。
早速、大問1から解きながら、受験生目線も交えて解説していきます。問題は読売新聞から。
初の共通テストで出題形式など変わったため、記事も長くなりますが、問題が面白いのでお付き合いを!
- 出題形式は変わっている
- 最初の2問は受験生殺し…
- 全く知らない場合、どう考えるか
- 最初の問題はこだわりあり?
- 設問2は数字を操る!
- 図を作る方が難しそう
- 社会情勢を強く意識した大問1
- プレテストを思い出す問題!
- 改正民法の内容も!
- 設問10は読解力ベースの出題!
- 10年経った制度は出題される!
- 見方・考え方をいかした出題!
- 経済分野でも新傾向つづく!
- 見慣れない図表が続々と
- 事象のつながりを意識した「理解」
- これは「知識」問題?
- 故・緒方貞子さんを偲ぶ
- 地理のような「推論」問題
- 文化資本・階層が試される問題?
- 「4点」配点の数は?
- まとめ
出題形式は変わっている
出題形式の変更が如実に表れてますね、リード文ではなくこの形。
緊張するとこのリード文が読み込めなくて焦るんだよね…
最初の2問は受験生殺し…
形式変わっても内容はそう変わらないでしょう、と思って問題をみると、最初の2問がかなり厳しいですね…
ニッチな問題+数字を埋める問題で緊張も相まってかなり正答率低そう…
この設問番号1はかなり難しいですよ…!
全く知らない場合、どう考えるか
ですが、
- 誤っているものを選べ、だから、②③は趣旨として妥当そう
- ①④の2択かな?
までいってギャンブルですかね…これは正答率低いと思います。
ちなみに、答えは④ですが、
- 「人間開発指数」は、1998年にアジア人初のノーベル経済学賞をとったアマルティア・センが関わっている
- センが受賞した理由は(私なりの理解だと)経済学において量的に集約されている「人間」を、質的な違いに着眼して解きほぐし、経済学の新たな地平を切り開いたから
- 経済学の潮目を変えたセンが関わっているわけだから、人間開発指数は20世紀末までに出てきているもの
と考えつつ
- 一方で、④のミレニアム開発目標は、ミレニアムだから2000年ではないか?
とあたりをつけて、④に行けたらいいけれど、人間開発指数やアマルティア・セン、ミレニアム開発目標のうち1つについて何か打開する知識がないと苦しいでしょう。
最初の問題はこだわりあり?
ちなみに、ミレニアム開発目標は、今や知らない人はいない(?)SDGsの元になってるMDGsの話なので、時事的要素といえば時事的にも思えます。
いきなり世界規模の、大きい射程の問題を出してきたのは意図的に思えますね。
ポピュリズムと分断がキーワードだった2010年代後半ですが、昨年度のセンター政経の第一問はマックス・ウェーバーの「支配」論でした。
そう考えると、メッセージ性はなきにもしもあらずではないかと。
設問2は数字を操る!
これも焦れば焦るほどわからなくなるよね…こういう問題はセンター試験の時もあったけど、公式やパターンより「読み取り」が求められている印象。
落ち着いて使える数字を探し、分かるところから絞っていくこと。この2つができればいいんだけど、初日の1科目目、緊張でできなくなるのが旧センター試験の怖さ。
図を作る方が難しそう
こちらは、そもそもこの図を高校生がIMFのページのデータから作成する方が難しそう、という雑なツッコミを入れておきます。
答えは、知識+簡単な読み取りであまり迷うことはないですが、この図を高校生が作れたら大したものだと思ってしまいます…
社会情勢を強く意識した大問1
ちなみに設問4はジニ係数を説明した上で、日本国内の年齢層ごとの格差是正効果に関するグラフの読み取り。
設問5は日本の逼迫する財政と社会保障関係費に関する語句選択問題。
締めとなる設問6・7は環境問題ががっつり出題されています。
6・7はテーマ学習をしっかりやっていれば対応できる範囲でしょう。ただ、詰めが甘いと落とすかも、というレベル。
総じて設問番号3〜7は頻出かつ易しめな問題ですが、グローバルな規模での社会情勢をとても強く意識した出題に思えます。
プレテストを思い出す問題!
ここから大問2(第2問)へ。
珍しい民法からの出題。高校で扱う民法は少ないんだけど、出てくるところをがっつり問うています。
知識がなくても、資料1の文章を載せてくれているので正解できる親切な問題とみるか、その文章が判例からの引用であることを厳しい問題とみるか…
ただ、この判例からそのまま文章を取ってきて読ませる問題は、プレテストの時にもっと長い、段落並び替え問題が出ていましたよね。
そう考えると、これくらいは対応してほしいし親切な問題、と作問側は思っているでしょう。
改正民法の内容も!
これはいい出題ですね!数少ない高校公民科での民法に関する知識ですが、新設科目「公共」を意識した主権者教育に繋がる出題だと思います。
主権者教育は投票ばかりではなくこういうところから、ですよね。
設問10は読解力ベースの出題!
これはセンター試験より、普段の授業っぽい出題、といったらいいでしょうか。
個人的には好きだけど、読解力ベースに偏ってる出題にも思えますが、どうでしょうか。
10年経った制度は出題される!
と個人的にいつも言っているのですが、この2問(裁判員制度、ふるさと納税)見ると当たっているんじゃないかな!
いずれも時事的な要素がかなり強く、現代社会っぽさ、公共への移行を感じます。
見方・考え方をいかした出題!
これも公共を意識した出題に感じます。
時代をまたいで、「自由化」と「包括性」という考え方を使い、政治体制を分析する、という意味で、とても新指導要領を意識している印象!
この分析枠組みを「ポリアーキー」とあえて言わないところに「そういうテストじゃないよ、というような意図を感じますよね。(東進解説にも書いてあった)
出題形式が変わり、1問の長さがじわじわ効いてる感覚をおぼえます。科目の多い受験生これは大変だろうな…
経済分野でも新傾向つづく!
さて大問3(第3問)の経済分野へ。最初の2つは時事的要素も強く反映された労働からの出題でした。
「実生活で役立つ」内容であり、昨今の労使関係を踏まえてレクチャーをしていれば、はがれにくい知識になっていた2問の出題だと感じます。教員の視点は大事。
と思っていたら新傾向、きましたね!半端な知識だと手がかかる問題です。
と言いつつ自分もうろ覚えでしたがなんとか正解。歳入から国債依存度の計算ができれば解けるけど、迷った受験生も多そう。
なお、プライマリーバランス(PB)はニュースでも頻出の単語なのでチェックしていた受験生は多いけれど、一体それが何なのか?を理解していないと選べなかったかも。
要は、「ちゃんとした国の収支を黒赤で示すとどうなるか?」に答えているのがPBなので、公債金収入や国債費支出は引いて考える必要があります。
見慣れない図表が続々と
続く問題も受験生を焦らせるには十分すぎますね…リード文を正確に読んでも、選択肢が惑わせます。
読み取り問題については、半端な知識に頼るなら、「読み取って確かなもの」を信じろ、という意識づけが重要です。(特に初見問題の多い公民科目は)
ただ、貸し渋り、BIS規制を理解した受験生は少ないと思うので、②③に引っ張られるかもしれないですね。
知識がない場合は、1つ1つ、これが正解だとしたら…と他の選択肢との整合性を考えるしかありません。リード文に立ち戻り、迷わず①を選んでほしいけど。
割愛しますが続く国際収支の設問20は、半端な知識だと計算できない知識問題でした。
センター試験時代から同じですが、実際に点差がつくのは、暗記してないと苦しい問題だと思います。
事象のつながりを意識した「理解」
こういう出題も、「知識一発」感がなくなりましたね。推論して答えを手繰り寄せる感覚は、今までのセンター政治経済より強くなっています。
さて最後の大問4(第4問)に突入!
これは「知識」問題?
この問題、知識問題だと思いますか?
民主主義における国民参加の意義、選挙監視団が保つ利益は何か?と考えれば解ける問題ですが、これを思考力と言うのか、それとも知識の範疇か、といえばどちらでしょう?
民主主義における政治参加の意義を理解することは、個人的には「基礎知識」に該当する問題だと思います。知識「観」による部分もありますが…
故・緒方貞子さんを偲ぶ
2019年に亡くなった緒方貞子さんを意図した出題にしか思えないのは私だけでしょうか。
設問1でアマルティア・センの「人間開発指数」を出し、ここでセンと緒方貞子さんの「人間の安全保障」を出す、どう考えても意図的なメッセージに思えるんだよな…
地理のような「推論」問題
誰も細かいデータは知らないはずだけれど、原則からちゃんと推論できれば解ける地理っぽい問題。
減っているイは「栄養不良」、倍増以上のアと、微増のウの見極めは、「10年ちょっとで人間が意図的に増やせるか?」と考えれば、アは「電力発電量」で、ウが「平均寿命」ですね。
こういう頭の使い方させるのは、地理っぽい出題だなという印象。現代社会に近いか。
続く設問28は割愛しますが完全に資料の読み取り問題。これで4点もらえるのは正直ありがたいでしょう。平均点を押し上げそう。
文化資本・階層が試される問題?
教育社会学徒の皆さん、どう思います?
グラミン銀行、ムハマド・ユヌスさんを知っているかどうかって、政経の授業もあるけど、家庭の文化資本と学校の階層を如実に表していそう、という仮説です。
この問題の出身階層別正答率を知りたくなる教育社会学徒であった…
設問番号30,31も割愛しますが、倫理の趣旨一致問題の政経版ですね。そう考えると後半はかなり点が取りやすい印象を受けました。
「4点」配点の数は?
この記事にも多く載せている図表問題は、多くが4点となっていました。
全31問のうち9問が最大である「4点」配点です。
基礎知識を前提に、推論して正解に至る、という2ステップである点で妥当だと思いますが、総問題数が減っている分、時間をかけて解きたいところ。
とはいえ、先述したように(単純な) 読み取りもあり、知識をそこまで必要としないことから点数は取りやすい部分はしっかり取らないと致命傷になりそうです。
9割目指す受験生目線で悩ましいのは、
「こんなに広い範囲をしっかり、共通テストのためだけにやったのに、あんまり報われた感じがしない〜!」というところでしょうか。
9割目指す受験生は多くが「倫理政経」受験だと思うので一概には言えませんが、倫理政経で合わせて解くのはこの後やってみます。笑
まとめ
- 読解力ベースで文章量が多い
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
まとめてみると、
見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求するという点では、決して今後も対策は変わらないと思った次第です。
予備校の模試など、作問者は大変だろうな…とも思います。が、共通テストは「質の高いインプットがあれば、それが生かされる良問揃い」です。
質の高いインプットを心がけていきたいですね。
※昨年度の政経の方が平均点はもしかしたら低めにでるかもしれません。いずれにせよ難しい!
【2021.1/31追記】
第二日程の問題を解いて、見えてきた「見方・考え方」を生かす方法について記事にしました!
倫理・現社の共通テスト記事はこちら!