今年も共通テストの時期になりました。センター試験から解説記事はupしているのでなるべく続けたいですね。
さて、プレテスト+昨年度の初めての共通テストからいえる政経の特徴は、
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- とはいえ差がつくのは知識問題
- 読解力ベースで文章量が多い
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
という点でした。
そして何より去年解いた一番の感想は「政経は難しい!」ということでした。
時間内にあれだけの処理を精度高く、1日目・最初の科目という最大の緊張状態で行うのは大変です。
さて、2022年度の共通テストはどうだったでしょうか。受験生目線も交えて解説していきます。そして、教員目線で共通テストをどのようにとらえるか、にも焦点を当てていきます。ぜひお付き合いください。問題は毎日新聞から。
- 毎年「設問1」は一筋縄ではいかない
- 「地方自治の本旨」をより抽象的な角度から
- 最高裁違憲判決11例はマスト
- 特別法と対話文の融合問題!
- 設問5も日本の社会問題を問うている
- 設問6は「民泊」という具体例!
- 「公共」の共通テストを暗示する民法分野
- コロナと経済を絡めた出題!
- 設問10は新出題!関係図の作図!
- マンキューの10大原理も要注目です
- 融資の機能をBSから問う
- 設問15はSD曲線と災害の関連性
- 購買力平価と実際のレート
- 第三問(大問3)へ
- 定義→具体の当てはめ
- 探究的な学習の指導にも活かせる
- 生活者目線での問題が続く
- ★ここがポイント★
- 「逆進性」ほんとにわかってる?
- 難問だけど良問
- 最後の第四問(大問4)へ…!
- 10年経った制度は出題される!
- 教科の見方・考え方を生かす授業づくり
- 「4点」配点の数は?
- まとめ
毎年「設問1」は一筋縄ではいかない
これは本当に思うのですが、毎年「設問1」はあっさりいかないですね。今年は、いきなり概念理解を問う読み取りです。
権力分立の重要性を説き続けているのと、ほかの選択肢が勇み足だったり、大きくズレているので②と判断しやすいですが、地に足付けてないとそわそわしそうな問題。
逆に、この問題で②をしっかり選べれば、一気にスイッチが入りそうな今年の「設問1」ですね。
「地方自治の本旨」をより抽象的な角度から
公民受験生で知らない人はいない「地方自治の本旨」が設問2です。
しかし、これも住民自治と団体自治というキーワードだけで、意味をあやふやに理解していると解けません。「知識」の幅の広さと正確さを問ういい問題。
ただ、リード文があるので、団体自治は国から独立した「団体」としての自治、という点が明確ですよね。
なので、団体自治の概念理解が浅くてもリード文でア=「分権」が選べる点はちょっと易しめ。イも問題なく選べるはず。
ウでちょっと焦るかもしれないけれど、具体例のうえで「直接的には」と直前に丁寧に示してくれているので団体自治を入れてほしいですね。
ただ、「こういう概念理解、抽象と具体の往復ができるような力をつけてくださいね」ということを教員が問われているように思えてなりません。
最高裁違憲判決11例はマスト
次の設問3は、「すべて選ぶ」でぎょっとしますが、最高裁の違憲判決11個を押さえておけば解けます。これは受験生としては絶対に落とせない基本問題です。
と思わせて、選択肢の「内容」と判例の名称を逆にするとか「ひっかけ」があるかと思ったけれど、特にそれもなかったです。
深読みしすぎなければ、目的効果基準を出すまでもなく、地鎮祭は慣習の範囲内、ほか2つは違憲判決ですよね。
特別法と対話文の融合問題!
これは新しい!と思ったのが設問4。全員にとって初見の特別法「空家法」を持ち出しながら対話文の文章補充をさせています。
難しくはないけれど、面白い問い方ですよね。空家法の条文は教員でも見たことありません。
ただ、アの「公共の福祉」は知らないとマズいし、イはあっさり読み取れるのでこれもしっかり取りたい問題です。
「空家法」というところが日本の社会問題を意識しているチョイスに思えます。それも、「探究的な学びをしている生徒が直面するテーマ」という基本設定が呼び込んできますね。そう考えると、やはりまた普段の授業の在り方が問われているのだと感じます。面白い。
設問5も日本の社会問題を問うている
空き家に続き、農業の担い手の高齢化といった日本の課題に紐づけた法制度の変遷を問う問題です。といってもこちらは知識一発問題だけど。
「農業の多面的機能」がキーワードと知っていれば、消去法をしなくても②で一発です。が、知らなかった場合はどうするかな…
時代区分で分けると昔の前半と、比較的最近の後半の2つにざっくり分けられます。で、選択肢を見ると①工業との生産性格差や③地主制の復活防止は、昔っぽいな、と思えて、④が農地の利用や賃貸借って比較的新しそう、と思えるでしょうか。
でも、それで言うと②も昔っぽいにおいがしますよね。そこでヒントになるのは、わざわざ入れてくれている「95年の食糧管理制度廃止」です。管理に対するアンチテーゼとして、「多面的機能」を呼び込みたいところ。で、②と④の比較なら時系列で②→④といってほしいかな・・・
ただ、推論プロセスの工数も多いので、やはり「多面的機能」でどうにかしたい問題に思えてきます。こう考えると、これは差が付く知識問題になりそうですね。
設問6は「民泊」という具体例!
これもいい問題ですよね、だれにとっていい問題か、と言ったら教員にとってです。(笑) 授業のテーマとして、具体的な切り口をどんどん与えてくれています。
公的な介入がどこまで許されるか、という線引きの問題に対し、民泊という具体例で検討を迫るのはそのまま授業にもなりそうな展開です。
そういえば、卒業生がコロナ禍で外で集まれないので、民泊で安く部屋を借りて友人との「ステイホーム的」に集まる場に使っているという話もこの前聞きました。時代よ!
「公共」の共通テストを暗示する民法分野
以前から指摘していますが、公共の教科書でも民法の内容がかなり増えている印象です。
公共の教科書、18歳成人で消費者教育の内容が増えてる。特に改正民法の内容の反映が色濃い。契約は意思表示の合致で成立、とか債務不履行とかは分かる。驚いたのは改正で明文化された契約不適合に伴う「追完請求」が太字で記載されてること!政経の用語集で今まで記載0の言葉が突然太字でランクイン。
— やっちゃえ|Blended Learning (@Yacchaee) 2021年4月29日
それと関連して考えても、やっぱり出たか、という感じの出題ですね。
ただ、まだ現在の指導要領下ではあまり私法に踏み込んで教えられていないので、これくらいしか問えない、という感じ。
逆に、「公共」が始まったら、民法の債務不履行とか具体例を交えて出題増えそうです。(追完請求が教科書に載るくらいですからね!)
設問8は知識問題ですが、「良識の府」たる参議院が法律案受け取って60日以内に議決しなかったら衆議院の議決が通る、としたら、何のための二院制、良識の府なの?と突っ込みたくなってほしいところ。
あれ、第一問(大問1)だけでこんなに書いてしまいました。それくらい政経は共通テストで大きく変わっていっている印象です。
繰り返しますが、授業の在り方が問われているように思えてなりません。さて第二問(大問2)へ。
コロナと経済を絡めた出題!
政経でも時事的要素が入ってきましたね。
割とそういうのは現社に流れていた印象だけど、コロナの経済的影響を正面から聞いてきました。ただ、これ選択肢的に③は×がつけられない書き方だし、概念を勉強していなくても解けてしまうので、問題としては微妙です。受験生からすればラッキー問題です。
設問10は新出題!関係図の作図!
これまた新しい形式が来ました。まだ全体の1/3なのに!といっても「言ってる通りに図を書けるか」問題。
知識があって「排出権取引」でしょ!と待ち構えていると足元すくわれる所が共通テスト感満載ですね。逆に言えば、易しくなっている印象はぬぐえません。
マンキューの10大原理も要注目です
ここまでの傾向から明らかなように、大きな概念を押さえていることが点につながる試験になっているので、経済の出題も同様です。
その点で、高校の経済学ではそこまで光が当たってこなかった機会費用やトレードオフなど、マンキュー10大原理のような概念性の高い知識の操作が「公共」になっても求められていくのでしょう。本当に授業づくりのヒントにあふれてますね。
融資の機能をBSから問う
これもBS(バランスシート)を見たことない受験生は慌てそうですが、最近は掲載例が増えましたよね。
貸出というと生徒は「借金」=良くないもの、と認識されてしまいがちですが、貸出が「資産も負債も増やす」というのはBSで理解するとよくわかりますね。
その意味で、融資がどう社会をつくっているか、金融の本質的な理解を問う問題に思えます。個人的には好きな問題です。(でも実際は作図読み取り問題)
設問14は求人情報から労働法違反を発見する問題。法定休日は1日、有給休暇はバイトでも取得できるという知識は、大学に進学した後を考えても重要な知識です。
設問15はSD曲線と災害の関連性
毎度おなじみSD曲線ですが、これも良く読めばパターン化された知識なのだけど、問題文の形式がよく言えば練られているし、悪く言えば無駄に時間がかかる要因に。
でも、全体として「現象」だけでなく、その社会的「意味」に迫っていく出題が多くて個人的には共通テストの政経は日々の授業づくりに悩む教員にとって有用に思います。そういう教員の多くはこうした択一試験を「使えない知識」として断罪したくなる瞬間があるからこそ、灯台下暗し。
購買力平価と実際のレート
これ耳慣れない表現にきこえるけど④が正解です。自分は問題をちゃんと読んでおらず②と解答して失点しました(汗)。
購買力平価は現象はともかく、その意味や有用性に納得できるまで時間がかかるので悩ましい所です。ただ、とっかかりとしてこういう問題は授業にも使えそう。
第三問(大問3)へ
大問3もかなり図が多く、読み取りを求める問題意図が明確でした。
政経は共通テストになって予備校さんが予想問題を作ったり、模試の作問するの大変になったな、と強く感じます。
まず、最初の、フローとストックを「蛇口から流れ出る水」と「水槽にたまった水」に例えて理解する例は、資料集等にも掲載されている易しい問題でしたね。
定義→具体の当てはめ
次の労働分野からの出題は、「聞いたことはあるけれど、こんな形で定義絡めて出してくるか…」という印象。問題としては「穴」感があります。
アは生産年齢人口の範囲は問題演習も含め受験生として「一致しない」を選ぶのには困らないけれど、イは意外とてこずるでしょうね。
失業率や非正規雇用の問題は学習していても、ここまでの具体例を定義に照らして分類する問題は多くの受験生が初見でしょう。
AとBの分類が難しいですよね。「通学」でミスリードを招くし、どこまでが「仕事があればすぐに就くことができる」とか「仕事の準備」といえるのか、悩ましいです。
ポイントは、「完全失業者」は、定義上「求職活動」を行っている必要がある、ということ。言葉の響きに引っ張られると、この定義が呑み込めません。
求職活動という点でAとBを比較すれば、Aがバイトに応募しているのでこれに該当するため、Aが「完全失業者」になります。Bは資格の勉強をして働く気満々だけど「非労働力人口」になるわけです。
つまり、何となくの日本語の響きに引っ張られると間違う問題で、定義に照らして判断する法(学)的思考を問うているのに近い、という印象です。
探究的な学習の指導にも活かせる
今の問題のように、法令上あるいは統計上の定義に照らし、個別を見定めるという思考は探究学習でも直面しやすい話です。
ただ、「何となく使っている指標を丁寧に理解する」ことが、汎用的なリテラシーにもつながりますね。少なくとも公民科の教員であれば、そのような指導を公民科の文脈でやっていく、ということです。
この辺りについては最近出た(実は少し関わっている)こちらの書籍を読むとヒントが多いように思います。かなり内容が濃いです。
さて、問題に戻ります。このペースだとまずいと思いつつ、つらつらと書いてしまっている。
生活者目線での問題が続く
これもプレテスト→昨年→今年と3回にわたる共通テスト政経の1つの特徴といっていいように思います。
聞かれていることはシンプルなので割愛しますが、続く問題は「生活者」つまり一人の債権者、債務者目線でインフレ/デフレの影響を理解できるかを問うていました。
また、続く問題も、「内閣が予算を提出する」という知識以上に、具体的な通常国会のスケジュールと合わせて提示しているところに、「日本の国会がいつ何をしているかを知ることで、少しは身近に感じるのでは?」というメッセージが含まれているような気がしました。
★ここがポイント★
だから、しつこいですが(センター試験よりも)「共通テスト」は教員にとって授業づくりのヒントになるわけです。
政経のような「社会科学のごった煮」科目は、教員自身がすべての領域の専門家というわけではないのが実情です。
だからこそ、様々な単元で「なぜこのことを学ぶか」の意味を認識し、授業に落とし込んでいかなければならないのですが、一朝一夕にはいかない。
その点で、この共通テストはそうした意味の発見をかなり促す問題になっているというのが私の感覚です。
「逆進性」ほんとにわかってる?
次の消費税の逆進性に関する問題も、用語だけ覚えていて具体的な数字が読めない人はさようなら、という意思を感じる問題。
値(額)なのか、割合なのか。この辺りもしれっと聞いているけど、数字を読むうえでは基本となる汎用的なリテラシーでしょう。ただ、焦りから落とす人が増えそう。
「累進性」と「逆進性」の意味をしっかり理解していれば、慌てずに②で正解できるという点では、数字よりも「確固たる知識」の有用性をも認識できる問題です。
これを知識問題とみるか、読み取り問題とみるか、両方なのだけど力点の置き方が人によって異なりそうですね。
難問だけど良問
アジア通貨危機の年号も教えてくれるのだけど、その「意味」が理解できないと解けない。難しいけどいい問題です。こんなクオリティの問題を定期試験で作ろうとしたら1問にどれだけ時間をかけなければいけないか!
リード文が丁寧で、状況設定やヒントを読み取るのは難しくありません。
が、為替レートは「バーツ安」を示しているのがどちらか、直感的に選べる受験生はわずかだと思うので、「円安/円高」の時のレートの動きをイメージして、グラフが上昇しているアが「バーツ安」ということを読み取れるかですね。
経常収支赤字の継続は、グラフのマイナス(%)での推移を読み取れれば問題ないでしょう。
最後の外貨準備は、
- 買い支えられたら通貨危機になっていない
- →現実は通貨危機になってしまった
- →買い支えられるほどの外貨準備が用意できなかった
の思考プロセスを経れば、外貨準備が用意しきれなかった「オ」になり、答えの③にたどりつけます。が、これは正答率は低めでしょう。
関連して金融先物取引業協会「新興国通貨の基礎知識 タイ」の報告書が勉強になりました。
最後の第四問(大問4)へ…!
大問1でも触れられていましたが、なんと大問4は再び地方自治関連の出題です。この辺も時事的な要素の反映が見られる気がしますね。
ただ、この出題はどうなのだろう…大阪都構想の住民投票は大阪の人にとってさすがに有利に働くのではないかな…これを言い出すと公民科はキリがないけど。
この問題も、日本国憲法で初めて規定された「地方自治の本旨」から、「公害」・「日本社会党」をヒントに並べ、最新の「大阪都構想」が分かれば「①A」にたどり着くこと自体は比較的簡単な部類ですね。
10年経った制度は出題される!
といつも言っていて、去年は裁判員制度、ふるさと納税が出ていましたが、なんと今年も出ましたね。泉佐野市と国の訴訟が終結した影響でしょう。
政治と経済の要素をバランスよく学べて、論争問題学習としても機能させることができる泉佐野市の裁判はぜひチェックを。
教科の見方・考え方を生かす授業づくり
以下第四問は読み取りベースに比較的易しい出題が続いたので割愛しますが、全体を見ても、授業においては、概念(知識)の獲得だけでなく、資料集(副教材)をうまく用いて、具体例と絡めてイメージを持たせた学習が求められている気がしてなりません。
政治・経済特有の見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求するという点では、決して今後も対策は変わらないと思った次第です。
「それってどうやってやるの?」のヒントとして去年書いた記事です。
総じて、共通テストの側から、(特に政経は)こういう授業をしてよ、と意図が透けて見える出題した。プレテストの時から政経は特にそういう傾向が強いです。
「4点」配点の数は?
この記事にも多く載せている図表問題は、多くが4点となっていました。
全30問のうち10問が最大である「4点」配点です。
去年よりさらに1問、総問題数が減っている分、時間をかけて取りたいですね。
全体の難易度としても、去年よりは易しい印象です。
まとめ
去年よりさらに
- 「具体的なシチュエーション」の重要性
- 「コアとなる概念知識」の確実な習得の必要性
を感じた共通テスト2022でした。
- 読解力ベースで文章量が多い
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
とまとめた去年の傾向も変わりません。
そして、センター試験との決別、を感じる出題でした。去年、今年の共通テストでそれが顕著ですね。
あれだけの図表を使いながら、対話文も混ぜていくとなると、予備校の模試など、作問者は大変だろうな…とも思います。
が、いずれにせよ共通テストは質の高いインプットの在り方を意識できる良問揃いです。その意味で、授業づくりのヒントが満載、公共との接続も含め、興味深い共通テスト2022でした。
※倫理・現代社会の共通テスト2022記事はこちら
「倫政」は独自問題なし=倫理と政経の記事にその内容を吸収しています。