毎年やっているセンター試験公民科目のゆる解説、今年から共通テストなのでしっかりめの解説です。今回は現代社会編。
プレテストの傾向・政経・倫理の分析を踏まえると、
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- 読解力ベースで文章量が多い(倫理は読解力過多?)
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫が必要(特に政経)
という特徴が出ています。
これに加えて、コロナ禍の社会情勢を含めた出題はどうなったでしょうか。
早速、大問1から解きながら、受験生目線も交えて解説していきます。問題は読売新聞から。
初の共通テストで出題形式など変わったため、記事も長くなりますが、問題が面白いのでお付き合いを!
- 選ぶのに勇気がいる選択肢
- 前提知識は本当にいらない?
- 民事系の出題がここにも!
- これも「公共」移行を感じる
- 「MOTTAINAI」
- ついに!多数決を疑う!
- これはいい問題!
- 公共財をどう教えるか?
- リード文がカードゲーム
- 臓器提供できるケースはどれ?
- 文章量が多い!
- まとめ
- 公民科3科目を解いた雑感
選ぶのに勇気がいる選択肢
高校生が権力分立について学んでいる、という文脈です。どこか親近感を抱かせる設定は傾向どおりですが、この選択肢は選びにくそう。
一つずつ文章を読んで照らし合わせれば、なんてことはない問題ですが、答えの④の「合致しているものはない」という文言が結構威圧感ありますよね。
あまりにきれいな対立関係が問われているので、逆にひっかけのようで悩んでしまいました。
前提知識は本当にいらない?
実はこの問題について、予備校の分析を見ると、
こんな記述だったわけです。でも、本当にそうですかね??
この文章を「読める」ということが、前提となっている「知識」に裏打ちされた読みかもしれません。
どこからが知識で、どこからが読解力・思考力なのかは判然としません。
三権分立とモンテスキューの権力分立論の知識が「まったくorほとんどない」という人が読んだ時と、少し知っている人の読みは異なると思うのですよね。
統制群と実験群じゃないけど、もう少し厳密にやらないと、これだけで「知識いらない」と言って果たして本当に良いのか、少し疑問が残ります。言いたいことはわかるけどね!
西林先生の本が読み継がれている理由ですね…。
さて次にいきましょう。
民事系の出題がここにも!
政経で改正民法に関連する出題がありましたが、現社でも民事系に関する出題です。
高校で扱う一部の憲法・刑法はどこか生活者目線とは遠いこともあり、主権者教育を前面に打ち出した「公共」に切り替わる前触れに思えます。
選択肢の判別はどうしても政経の方が難しくなりがちですが政経は契約に関する出題でした。
これも「公共」移行を感じる
各社の資料集(副教材)でも取り扱われていたこの図、出題されましたね。
共通テスト移行初年度での出題は「今後、こういう見方・考え方を生徒が獲得できるような授業をしてね!」という高校教員に対するメッセージにも思えます。
これで大問1(第1問)が終了です。政経に比べるとどうしても易しい印象。
「MOTTAINAI」
環境問題を題材にした問題が政経・倫理でも見られました。SDGsもそうですが、世界的に共有された問題意識として出題されている印象です。
問題自体よりも、こうしたテーマ設定から教員は何かを読み取る必要がある気がしますよね。この点は政経・倫理も同様です。
ついに!多数決を疑う!
(個人的に)2017年度から授業で扱っていた「選び方」がついに共通テストでも出題されています!
「民意というものは決定方法によって異なりうる」ということに気づくと、色々な物事の「決め方」に関心が行きます。
民主主義の正しさを担保するのは、結果ではなく、手続の適正さでしかありません。
「法の支配」で最も重要な点の1つですよね。これを正面から共通テストで扱ってくれたのは大きい。今後の授業でも扱いやすくなります。
【2021 1/30追記】
坂井先生ご本人のツイートです!触発された1人として私も本当に嬉しく思います。
これはこのように言ってよいと思うのだが、今年の共通テスト「現代社会」に、明らかに『多数決を疑う』が生んだ問題系での大問がある。本の引用はないが、それでよい。これまで各種試験にこの本が使われることは多くあったが、新しい問題系として確立したということだと思う。https://t.co/KwytdyQuWP
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
言うまでもなく、こういう問題系が確立したのは、わたし一人の力ではない。学問は数百年単位で進んだり、浸透したりするもので、私の少し前にルソーやコンドルセがいる。その列の末席に、ささやかながら自分を置いてよい気がする、というのが嬉しいのだと思う。微力ながらパスを繋げた悦びというか。 https://t.co/SslJZ17TmM
— 坂井豊貴 (@toyotaka_sakai) 2021年1月31日
本当に学問のバトンパスの醍醐味を実感しますし、卒業生と政経の授業の話をしているとボルダルール懐かしいっすね、という話になります。社会的選択理論の考え方が自分たちの生活を認識する1つの考え方として確実に生徒にも残っていることを感じます。
このあと、第2問では正誤判定など、正確な知識を問う出題が連続しました。現代社会は間違いなくここで差がつくでしょうね。
倫理の後に分析すると、やはり倫理の「読解力一辺倒」さが際立つ印象です。
では大問3(第3問)へ!
これはいい問題!
ポイントを踏まえ、長い目線で掴ませる。基本的な良問だと思います。
みなさんは、年代別に並べ替えられますか?
④②①③⑤の順ですが、各年代やはりポイントとなる出来事がありますよね。
10%超えが続いている④は60年代、73年の石油危機の影響を示した②が70年代、
設問の80年代はプラス成長だけど伸びは鈍化、後半にバブル景気がきている①。
そして平成大不況に突入した90年代が③、00年代はリーマンショックの影響を受けている⑤、というように流れを作ることができます。
資料集にも長い目線でまとまったページがあったりしますよね。
教科書・資料集「で」教えると言いますが、十分な情報がそこにはあるわけですから、授業でどこまで効果的に活用できるか、という教員の基礎的なスキルを試されている気がします。
公共財をどう教えるか?
具体例を交えて、「非競合性」と「非排除性」という概念を踏まえて理解させることは公民科教諭なら誰もがわかっているんですが、授業において生徒がこういう思考のプロセスを辿れる扱いになっているか、ちょっとハッとさせられました。
2問とももう少し選択肢を難しくしたり、自分で考えて埋めなさい、という課題にすれば、丸暗記している生徒と理解している生徒を判別することができそうですね。
では大問4(第4問)へ。
リード文がカードゲーム
「こんな〇〇をしている高校生なんておらんて…」とツッコミたくなるシーンが共通テストにはいっぱいあるんですが、これが大賞かもしれない。
こんなカードゲームしてたらあっけにとられますが、それはさておき、ア〜ウに入る言葉を選べという問題。カード風の選択肢の芸が細かい。
ちなみに、ウで「はいはい超頻出QOLでしょ」と思った私、足元を救われました…カードゲームに突っ込み入れていい加減に文章を読んでるとこうなります。
臓器提供できるケースはどれ?
これも「自分ごと」を迫ってくるような出題に感じました。
こうやって出されると高校生は、自分はどうなんだろう?って自然と考えちゃいますよね。Cも可能になった、というのがポイントでした。
文章量が多い!
最後の大問5(第5問)は3問だけで割愛しますが、1問につき2ページ使い、読み込みを必要とする長い問題でした…!
ただ、難易度はそこまでなので、丁寧に資料を読み取ることが求められますね(月並み)。
ただ、政経や現社は倫理と違って類推で解けないので、そのあたりが難儀です。
いずれにせよ、歴代センター試験と比べても読み取るべき文章量は増加し、科目を重ねるごとに「読解力」のキレがなくなった受験生もいるんじゃないかな…
まとめ
ここまでの雑感を、プレテスト・政経・倫理の分析と突き合わせると
- 読解力ベースで文章量が多い
- 高校生の学習活動など身近な状況を題材にする形式
- 初見の図表も慌てず丁寧に読み解く
- 思考力よりも揺るぎない基礎知識が重要
- 時事的要素に配慮したインプットの工夫を
という点で政経と現社の傾向は近しいものを感じます。
ただ、今年の政経は3科目の中でも圧倒的に難しかったです。
公民科3科目を解いた雑感
自分ごとに迫るような場面設定が多く、共通テストの出題から、新指導要領で何を求めているか、を感覚的に理解した気分になります。
実際、教えるべき内容は減っていないわけですからね。
いずれにせよ、見方・考え方を働かせた、深い理解を実現する授業を追求することが必要ですし、
同時に、そうした授業を
- どんな方法で実現するか
- 剥がれ落ちにくい知識にするにはどうするか
により焦点が当てられているような気がしました。
【2021.1/31追記】
第二日程の問題を解いて、見えてきた「見方・考え方」を生かす方法について記事にしました!
他の教科・科目も解いてみたいと思います。