やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

なぜ都市部の学校で外部アセスメント教材が広まらないのか?〜非認知能力を見える化するインセンティブ〜

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経済の授業づくりを考えていて、「インセンティブ」という言葉をどう授業で組み込もうか考えていた時にいろいろと昨日の続きで思ったことを。

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生徒の成長を経験則で語らないために、(外部)アセスメント教材を活用して学校の教育力を見える化することが、進路指導には不可欠だという話でした。

※アセスメント教材はこういうものを指してます
学びみらいPASS | 教育研究開発活動 | 河合塾グループ
ベネッセのGPS-Academic

ただ、細かい数字はないのだけど、この手の教材が学校現場で広く市民権を得ているかというと、そうでもないと思うのです。それはなぜか?

アセスメント教材が広まらない理由

模試と違って、定量化しにくい非認知能力を見える化する教材を新たに採択する(当然カネがかかるし、年度途中の大きな買い物はしないのが学校です。

ただ、そのことを置いても、採択されにくい理由があると思います。

その決定的な理由として、(特に都市部の)学校では採択へのインセンティブが働かないだろうと思います。

というのは、昨今の生徒に関わる要素が多すぎて、アセスメントの結果が「学校の」働きかけの結果によるものか、を断定できないからです。

もう少し要因を分析してみましょう。

①教育に関わるプレイヤーの多様化

これは学習コンテンツを提供する業者が増えていることだけを指しているわけではありません。

夏休みの各種イベント、スタディツアーや社会人とのコラボ企画など、数えればきりがありません。本当にたくさんの大人・主体が中高生に関わろうとしてくれます。

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「プログラミング教育事業者マップ」をみてもこんな感じ

(出典) CA Tech Kids、子ども向けプログラミング教育サービス提供事業者のマップを公開 | 株式会社サイバーエージェント

プログラミング教育でなくても、とにかくいろいろな企業・団体が教育に力を注いでくれていることは確か。

少子化の影響・教育観の変化という時代背景もさることながら、自分が高校生だった頃と比較しても、かなり環境が異なるように感じます。

②「成長」の土台となった部活命!が減少

これも大きいと思いますね。

部活動を取り巻く環境はこの平成の終わりに激変してきたという実感があります。何か特定のニュースを出さなくても、「部活命!」という世論ではなくなっているのはうなづけるでしょう。

ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う

ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う

 

でもかつては、部活動が中高生の居場所の主となる役割を果たしていたわけです。今も一部はそうだけれど、「部活加入が必須」がナンセンスだ、という風潮になったのもここ最近のことのように感じます。 

言い換えれば、放課後の生徒の居場所は部活動や塾以外にも広がりつつあるのではないか、ということ。ネットで手軽にその手の情報を生徒自身が手に入れられるようになりました。

そうなってくると…

例えば私の勤務校は高等学校なので3年間ですが、3年間で生徒の成長を定量化しよう、学校独自の傾向を見える化しよう、と思っても、

「果たして、調査で出てきた結果が本当に学校の教育力だと言い換えられるのか?」

という疑問がどうしても湧いてきてしまいます。

こうやって切り取ると、現場で、わざわざカネと手間のかかる外部業者のアセスメントを入れて(ただでさえ教育業界に依存している学校の体質を嫌う教員もいるのに)、生徒の成長を見える化する意味を感じにくくなってしまいます。

溝上先生の射程はもっと長い

ここまでの議論 = 学校はそういう教材に頼る必要がない

というわけでは当然ありません。溝上先生の想定しているレンジはもっと長い。少なくとも溝上先生が行なっている調査は10年間の追跡調査です。

学校でどのような資質・能力を育成できているか?という問いの答えは、卒業後に発揮されます。当たり前のようだけど、現場はなかなかわかっていない(自戒)。

何度でも載せよう。

卒業生のアセスメントをしないから、自分たちが育てた生徒がどの程度、大学や仕事・社会に移行できているかを知らないのである。知っているのは大学受験の合格実績だけである。見ているものが違うから、いつまでたっても溝が埋まらない。

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「インセンティブは実感しにくいけれど、学校としてやるべきだよね」、という民主的な議論の場すらない学校が多い、というのが現状かもしれません。本当に良くない。特に公立学校はそうかもしれませんね…私学は学校によりけりです、良くも悪くも。

おわりに

勤務校では校内全体研修が8月末に控えます。そこでこういう議論ができればいいなあ、と密かに腹案をあたためつつ、目の前に迫る授業再開に冷や汗をかいて準備を進めなきゃな…

誤解を恐れずにいうと、外部アセスメントは特に地方で、生徒に関わる外的要素が少ない郊外の学校から流行っていくんだと思っています。

教材に関する認知度は都市部の学校の方が高いんだけど、広まらず、じわじわと地方から採択が増えて、都市部の学校も「やらなきゃ!」となる構図です。

「どこにいても同じものが受けられる」モデルは、必ず地方(あるいはそれに共通する要因をもつ学校)から火がつく。

この予想、どうでしょうか?

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