「読者投稿を書く」授業実践まとめ記事②です!
前回記事をふりかえる
大まかに言及したのは以下の内容でした。
- 授業の流れ
- 社会科としてのテーマ設定の工夫
- ピアレビューを図書館で行う意味
- 生徒にとってのインセンティブ
この記事②では評価や自分の振り返り、生徒の感想をまとめます。
書き手の意図、大事!
あすこまさんの記事から引用ですが、「書き手の意図」は絶対に必要だと感じました。
「書き手の意図」をしっかり書いてもらう必要あり
僕はいつも生徒に「書き手の意図」を書いてもらって作品と合わせて提出してもらうのだけど、「新聞記事投稿」ではそれが一層大事だと思った。というのも、本文が短いし、さらに上記のように実際に掲載されている投稿にも色々なもの(意見文だったりエッセイだったり)があるので、書き手がどういうスタンスで書いたのか、読み取りにくいことがあるからだ。
これを設定せずに課題を出していても、次に述べる「納得度の高い評価」につながらないという実感を強く持ちました。
新聞投稿の字数は比較的タイトなので、「書き手の意図」は字数を制限しなかったのですが、それが功を奏した気がします。
生徒も一文一文にこめた工夫、ワーディング、文体の意図、などを丁寧に説明しており、教員が生徒の熱意を吸収する場として機能したと思います。
評価の仕方と改善案
評価に関して、私が設定した項目は、本文と書き手の意図を合わせて読み、
① テーマとの関連性が示せているか
② 知識・理解に誤りがないか
③ 読ませる・考えさせる表現を意図しているか
①>②>③の順で重み付けし、各項目ごとに評価をしています。
これは個人的な振り返りですが、③については、社会科という特性もあり、不公平感を助長しないようにかなり小さい点数で、ほとんど差がでない運用としました。しかし、やはり練られた表現、構成というのは存在しており、それを評価するにはこの③の重みを増すことが必要かなと思うに至っています。
生徒の得点のばらつきは?
で、得点自体はそんなにばらつきません。
というのも、特に本文が短いために、書き手の意図で十分な記述がないものが減点されます。逆に言えば、しっかり本文の意図がかけていれば、皆そこそこ点数を取れるということ。
ただし、「あなたの思うことは意外と人に伝わっていないから、たくさん書くこと」「伝えると伝わるは違う」ということを念押ししてあります。
掲載されたら「満点」以上?
あすこまさんは評価について、このように運用されています。
教師が「これはいい」と思ったものが必ずしも掲載されるわけではないし、逆に教師の評価がそう高くなくても掲載されることもある。もちろん運もあるだろうけど、そんなふうに、教師の評価が教室の外によって相対化されるのはとても良いことだと思う。ちなみに僕の授業では、書いた文章は30点満点で評価したのだけど、掲載された人は問答無用で35点という仕組みだった。
私も基本的にはこれに倣い、掲載された人は満点として行いました。
しかし、これに対して生徒の方から違和感があるという申し出もありました。
「先生は「よく考えてほしい」んですよね!?だったら、掲載=満点はおかしいと思います。掲載されたものが「よく考えられている」とは言い切れない。新聞社のスタンスに沿った文章をあえて書くことで、満点を獲得できる戦略が成功してしまうこともありますよね。ということは本心で考えていない(その人が「その人」として考えていない)のに、満点をもらえるのはもどかしい」
というような申し出でした。非常に説得力があり、考えものだと思っています。
掲載=満点をどうするか?
教員の評価を信頼してくれていることはありがたい(というか素直すぎる)気がしますが、実際にもし生徒がでっち上げの文章を書いてきて掲載されたら、教員からしても「本意ではない」満点になりますよね。悩ましいです。
今回は、生徒たちに私の感じる悩ましさを相談して、今回は納得してもらった(と思っている)のですが、生徒のことは生徒に聞く、ができたことはよかったと振り返ります。多くの生徒は「どっちでもいい」でしたが。笑
ただ、もし次同じ構図で実施するなら、満点と言わず「加点」にしようかとも思います。実際「加点」で満点になるくらいの高得点者が掲載されることが多いので…実践されている方のご意見を伺いたいです。
読み手の想定をすべきか?
もう一つ生徒と話していて出てきたのは
「読み手の想定をした方がいいですか?」
という質問。なるほど、、と思わされます。
新聞投稿だから、新聞の読者層を想定してください、と言ってその場は終わったけれど、このコメントは他の課題を出すときにも非常に大切な視点を教えてくれたと思っています。
例えば、レポートを書かせる時も、限られた字数で誰に向けて述べるのか。
その分野の専門家なのか、同級生たちなのか、後輩なのか、小学生なのか。
誰に発信するかによって課題の仕上げ方も異なってくる、という視点は、当たり前なのかもしれないけど、課題を出す側は年月を経るにつれて忘れそうな点だと思います。
コンテンツ教科だからこそ拾いたい文章力
これも生徒の文章を読んでいてよく思ったけれど、新聞投稿という性質上、具体例が面白いです。
そこに着眼したか!、そんなことが心に残ったんだ!、今までそんな人生経験をしてきたんだ!というようなことが文章を通して伝わってきます。
論理的な読みだけすれば具体例の中身はすっ飛ばしてしまいがちだけど、1人1人の「実感」を言語化する課題として新聞投稿はとてもよかったです。
文章の具体例に個人が宿ることを実感できました。
こうやってみると、(字数の割に)教員側が生徒について得られることがすごく大きい課題です。
もちろん、教員を信頼してくれている生徒たちだからそう感じられるのかもしれないけれど、
「あなたの文章を書いて欲しい。あなたはあなたにしか書けないものがあるはず」と教員が生徒の力・可能性を信じることの意味を感じます。
とまあここまで自分を棚上げしまくったので、生徒の感想を少し紹介します。
生徒の言葉たち
肯定的なものも、そうでないものも。
新聞社へ提出するにあたって、新聞の読者投稿面を初めてしっかりと読みましたが、老若男女様々な人の意見や経験が読みやすく簡潔に書かれていて、読んでいて楽しかったので興味を持って新聞を読んでみたいと思いました。
改めて自分の考えを認識できる上、学校外へのメッセージという新しい視点に寄り添って意見を書くのは新鮮で役に立ちました。また、短い文字数の中伝えたいことを的確に述べる、文章の推敲能力も養われるので、いい課題だと思います。
始める前はアウトプットとか外部の視点といわれてもピンとこなかった。でもやってみると、この課題を通して自分の考えが整理されたし、授業のふりかえりからもっとじっくり調べたら知って、考えるきっかけになってよかった。レビューで他の人の文を読んで、ある程度具体的であまり理想論だけじゃないものの方が読みやすいし親近感が持てるとわかったし、そういう読みやすくかつ的確に指摘する文を同い年の友達がかかることに刺激を受けた。
生徒がこうしてしっかりフィードバックをくれるのは本当にありがたいです。
自分の思いをストレートに伝えるのって自分が何考えてるのかなって云うのを確認できて楽しい。ニュースや新聞の情報をそうなんだで終わらせるんじゃなくて自分にどう影響があるのか、自分だったらどうするのか、なんでそれに至ったのか、それを自分はどう捉えるのかを考えなければ意味がないと思った。
面白かったです。でも、新聞に載せようと思うと偏った意見を中心に書かなきゃいけないような気がして、あまり自分の言いたいことを言えなかったかも
新聞投稿について調べる中で投書したあとに嫌がらせを受けたケースが何個か見つかりました。近所トラブルとかも多かったんですけど 、やっぱり政治とかそういう分野でもあって、そういう形で主張が脅かされることがあると、触っちゃいけない雰囲気が出たりしちゃって、みんなが政治に取り組みにくくなるなぁと思ってちょっと辛い気持ちになりました
優れた授業デザインの力!
長くなりましたが、新聞投稿を書く授業を実践してみて、優れた授業デザインのパワーを改めて実感しました。
この記事を熟読するに限るのですが、実際に引用して生徒にも課題の意図や留意点をガイダンスできたこともよかったなと感じます。
- 「学習者中心」(この言葉の内実に議論があることも事実ではあるが)を教員が意識していることが生徒に伝わりやすくなる
- 「課題の意味」を感じやすくなり、成果物のクオリティにつながる
と実感しました。
おわりに
1回きりの課題で「書き手」を育てた、とは到底思わないけれど、それでも生徒の書いたものたちを読み、生徒の声を聞くと、その効果を感じることができました。
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大福帳、レポート、色々負荷はかけているけれど、
書かせるって面白い。
次は自分がちゃんと書いて出さないとな…ここがあすこまさんとの決定的な違い…