これまでいじめ関連本で新書と言えば、森田先生の中公新書だった。
が、そこで示された知見にさらに7〜8年の研究・調査分析を入れた素晴らしい1冊だったので、2018年の新書で今更ですが紹介します。
「私にもできることがある」と静かに、でも確かに思わせてくれる1冊。
クイズでいじめの「正体」をつかむ
自分の偏見に気づき、複雑な現実を複雑なまま見つめる。
まずはそこから、というのは大塚久雄も言っていること。
そんな社会科学のエッセンスを表す書籍『FACTFULNESS』や『教育格差ー階層・地域・学歴』ーがありますが、両方とも冒頭にクイズがあります。
自分がわかっていないことを痛感させられるので、あやかってクイズを作ってみたので初見の方は以下トライしてみてください。
第1問:小中比較
2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、小学生と中学生を比べると、いじめの被害発生率が高いのは…
A.小学生 B.どちらも同じ C.中学生
第2問:ピークの時期
一般的に、夏休み明けに子どもの自死が多くなり、9〜11月にいじめが増えやすいというデータがありますが、 2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、9〜11月以外にいじめが多かった月は…
A.4月 B.6月 C.8月 D.3月
第3問:相談の効果
2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、いじめを受けた際、誰かに相談したと答えた人のうち、その相談によっていじめは少なくなった、なくなった、と回答した人数の割合はおよそ…
A.30% B.50% C.70% D.90%
第4問:仮想体験の効果
チキさんの分析によると、 2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査から、いじめ対策の授業を行う際に「いじめ被害を仮想的に体験する」機会を設けることは、いじめ予防に対して…
A.効果がありそう B.効果がなさそう C.むしろ逆効果がありそう
第5問:被害者が対処に転ずる意味
最後は2択です。久保田真功「いじめへの対処行動の有効性に関する分析」によると、いじめ被害者などの行動を分析した結果、いじめ被害者自身の対処行動はいじめの早期解決に…
A.直接結びつく B.直接結びつかない
答え+プチ解説
5つ連続で答えと解説を載せておきます。Twitterでも数は少ないですが投票してもらったので、正答率も比較できるので興味ある方はご覧ください。
ちなみに最も正答率が低かったのは第4問でした。
第1問:小中比較:A
2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、小学生と中学生を比べると、いじめの被害発生率が高いのは…
A.小学生 B.どちらも同じ C.中学生
答えは、「小学生」です。
— やっちゃえ先生@2つのPBL (@Yacchaee) 2019年8月6日
文科省の調査では、いじめの「認知率」では中学生の方が高いですが、「経験率」だと小学生の方が高くなっています。チキさんの分析によれば、「小学生のいじめを、教師が「いじめとまでは言えない」と過小評価することなどが影響しているのでしょう」(62)とのこと。 https://t.co/Rwyu9ytZo8
第2問:ピークの時期:B
一般的に、夏休み明けに子どもの自死が多くなり、9〜11月にいじめが増えやすいというデータがありますが、 2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、9〜11月以外にいじめが多かった月は…
A.4月 B.6月 C.8月 D.3月
正解は「6月」です。チキさんは「6月ごろから「いじめ行為」は発生しているが、その行為が2学期まで継続して言った場合、その苦痛をはじめて「いじめ被害」として当事者が認識するがゆえに9〜11月にピークが発生しているという可能性」(64)を示唆してます。12~2月も高いです。3,4,8月は少ない月top3。 https://t.co/TacEyV6JVQ
— やっちゃえ先生@2つのPBL (@Yacchaee) 2019年8月6日
第3問:相談の効果:C
2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査によると、いじめを受けた際、誰かに相談したと答えた人のうち、その相談によっていじめは少なくなった、なくなった、と回答した人数の割合はおよそ…
A.30% B.50% C.70% D.90%
正解は「70%」です。
— やっちゃえ先生@2つのPBL (@Yacchaee) 2019年8月6日
「周囲への相談はいじめ解決に結びつく重要な選択肢であるにもかかわらず、子どもたちにそのことを躊躇させてしまう現実があるということ」(74)だと指摘しています。
「いじめをするな」ではなく、この学校ではいじめをどう解決していくのかのフロー開示が重要という指摘もあり。 https://t.co/e8z7q2InQs
第4問:仮想体験の効果:A
チキさんの分析によると、 2017年大津市の全小中学校・全学年を対象にした調査から、いじめ対策の授業を行う際に「いじめ被害を仮想的に体験する」機会を設けることは、いじめ予防に対して…
A.効果がありそう B.効果がなさそう C.むしろ逆効果がありそう
最も正答率が低かった!この問題の正解は「効果がありそう」です。
— やっちゃえ先生@2つのPBL (@Yacchaee) 2019年8月6日
いじめを目撃すると、被害経験のある人が「同情心を示す+大人への相談から遠ざかる」一方で、全体としてはいじめ行為を正当化する傾向が強まってしまう。であれば、「いじめ相談方法+被害の仮想体験」が効果的ではないか(82)。 https://t.co/KY6oqCFxp4
第5問:被害者が対処に転ずる意味:B
最後は2択です。久保田真功「いじめへの対処行動の有効性に関する分析」によると、いじめ被害者などの行動を分析した結果、いじめ被害者自身の対処行動はいじめの早期解決に…
A.直接結びつく B.直接結びつかない
正解は「直接結びつかない」です。
— やっちゃえ先生@2つのPBL (@Yacchaee) 2019年8月6日
例えばオランダの事例等を学ぶと、生徒たちだけで彼らの揉め事の解決を行いますが、それを切り取って「良い」とみなすことに警鐘を鳴らします。被害者の対処行動は、いじめ終結の契機になりえても、早期解決に直接結びつかず、多くは周囲の対応に左右される(124)。 https://t.co/5oBSNh34VC
あなたは何問正解できましたか…?
ネットいじめ・関連法・国際比較
のようなトピックも掲載され、全10章で構成されています。
理論から実践、調査から分析まで、慎重に言えることと言えないことを見極めて語られていきます。
歯切れの良い文章を書きたいけれど、現実の複雑さをまずありのままに認識することから。
ネットいじめだけが単体で起こることはあまり多くない、ということも外部講師の講演会などを繰り返し、既存の教室環境の工夫・改善が見られない学校運営に一石を投じるものだと思います。
道徳の教科化など政治利用にすぎない、と言い切るところは詰将棋のような淡々とした迫力がありました。
知っている、と思っているいじめの実態を、意外と知らないことに気づかされます。
「根拠に基づき、いじめの正体を明らかにする本」を作りませんか?という呼びかけから作られたそうですが、期待を裏切らない労作です。
チキさん自身がいじめを受けていた経験が様々な活動含め突き動かしていることを感じました。
おわりに
見たいように見るのではなく、(なるべく)ありのまま見つめること。
その重要性を感じさせてくれる1冊です。
教育という分野は誰しもが語れるからこそ、知見を共有し合える分野。一方で、誰しもが経験を絶対化しがちなところもあります。
「いじめ」を語るなら、その土台として読み継がれてほしいですね。

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夏で読書の時間が取れるからか新書オススメ本の記事が読まれています。
www.yacchaesensei.comwww.yacchaesensei.com
意識して、絶えず自己相対化していくことをやめないこと。
読書はそのためにも欠かせないですね、読んでないと自分が薄っぺらになっていく感覚が怖くなるので、色々と読みあされる夏はありがたい…