UNICEFから先日出されたレポートカード16こと、"Worlds of Influence Understanding What Shapes Child Well-being in Rich Countries"の全文に目を通しました。気になることをまとめておきます。
- 精神的幸福度が最下位の国は?
- 精神的な幸福度に影響する要素
- 子供が「選べる」環境をつくる
- ボディイメージと生活満足度
- 日々の言葉遣い、刷り込まれる行動
- スクリーンタイムと幸福度
- 学校のプレッシャー?
- 大人も子供も"人間"なので
- 報道や参考になったソース
- データのない社会・ニッポン
- おわりに
精神的幸福度が最下位の国は?
日本は精神的幸福度がワースト2位ということでしたが、最下位はどこだと思いますか?
孤立が社会問題になっているとされる国で、たぶん多くの人にとっては予想外の南半球の国です。記事末尾に答えを載せますので予想してみてください! *1
また、身体的健康の最下位も予想してみてください。これも答えは末尾で!*2
※日本語では精神的幸福度になっていますが、元々の調査はMental well-being。happinessではない、というところは少し注意が必要です。ウェルビーイングってなかなかしっくりくる訳語が見つけづらいですね。
精神的な幸福度に影響する要素
先進国の子供がよい幼少期を送るために必要なこと、として調査冒頭で挙げられている要素をまとめます。
- good relationships 良好な人間関係
- supportive families 支援してくれる家族
- opportunities to participate in decisions at home and at school 家庭や学校の意思決定に参加する機会
- Bullying by peers いじめがないこと
- family or friends they can count on for help with looking after their children 子育てを助けてくれる家族や友人
すべて紹介しきれないのですが、ここで気になったのは赤字にした3つ目。
この記事の後半で紹介するSession22の解説で阿部先生もポイントに挙げていました。日本では特にこれが少ないのではないか、とのこと。実感としてもよくわかります。
子供が「選べる」環境をつくる
学習者中心の教育を実現するためには、教員の学習設計のもと、子供が自分の学習や活動にオーナーシップを持つ、わかりやすくいえば「学びのコントローラを持つ」ことが求められます。
じゃあ具体的にどうすればいいの?と言われれば、生徒が「選べる」環境を作るということでしょう。教師が決めたこと、家族や大人が決めたものを与えるのではなく、子供に選択肢を持たせる、あるいは初めから選ばせる、そういう働きかけが重要です。
報告書の中盤では、
- 保護と提供だけでは不十分 - 子どもにも参加が必要
という見出しでまとめられている箇所がありました。
手前味噌ですが、コロナ禍の中で、私がブレンディッド・ラーニングを続けているのは、この「選べる」体験づくりをしている、という思いがあります。
ご興味のある方はぜひこちらの2冊をオススメしたいです。
ブレンディッド・ラーニングの衝撃 「個別カリキュラム×生徒主導×達成度基準」を実現したアメリカの教育革命
- 作者:マイケル・B・ホーン,ヘザー・ステイカー
- 発売日: 2020/05/22
- メディア: Kindle版
次に、報告書の中で強調されていた箇所を紹介します。
ボディイメージと生活満足度
- Body image relates to life satisfaction twice as strongly for girls than for boys ボディイメージと生活満足度の関係性は男子より女子の方が2倍強い
と見出しがつけられている箇所がありました。
簡単にいえば、「思春期の若者が自分の体についてどのように感じるか」ということです。これが特に女子に強く影響するとのこと。
興味深いのは、思春期の服薬や拒食、喫煙も体重を調整するための行動として捉えられていたことです。確かにカ○リミットとか飲んでる子供も…
また、世界的に見ても、健康的な体重の女子が、自分を太っていると思っていることも示唆されています。
他にも、貧困家庭の子供が肥満になりやすく、学業達成も弱いなど、貧困の悪影響は従来の研究・調査と変わらず子供にとって深刻なダメージを与えますね。
日々の言葉遣い、刷り込まれる行動
逆に、
- 体重に関連した懸念や否定的な行動を示すよりも、肯定的な身体行動(運動やよく食べるなど)を強調する家族や仲間のグループにいる女子は自分の体に満足する
という結果が出ています。
(少し話が敷衍しますが)そう考えると、日々刷り込まれている「美」的感覚を喚起するものに対して、思い込みを外していく学校教育が求められるでしょう。
この点、公共が新設される高校の公民科において、倫理の内容を扱う学校が減少するとしたら残念ですね。
当たり前を疑う先人の営みを学び、自分たちの思い込みに気づき、自分を自由にするために生かす。そんな哲学的な思考の機会を授業で担保し続けたい。
スクリーンタイムと幸福度
テクノロジーの進歩で、子供たちのスクリーンタイム(スマホ等の画面を見ている時間)の増加が懸念されています。
が、意外にも
- スクリーンタイムはそれほど大きな悪影響を及ぼしていない
- とはいえ、他の活動の方が幸福のためには重要
という調査結果が出ています。
これは予想外の結果かもしれません。実際に最も精神的な幸福度が高かった子供は、1日あたりのスクリーンタイムが
- 1日に2時間未満 (状況によっては30分~3時間)
だったことが指摘されています。全くネットやゲームをしないのも精神的には毒なのかもしれません。というか、友人等との「つながり」がネットを介したものがメインになっている現状もあるでしょう。
いずれにせよ、何事も「ほどほどに」ですね。
学校のプレッシャー?
個人的に面白かったのは、
- テクノロジーの影響は、週末よりも学校のある日の方が強い
- 学校に通う日に子どもに大きなプレッシャーがかかっているかも
という指摘。週末よりも、平日の方がスクリーンタイムと精神的幸福度の影響が強い、ということなのでしょうか。ちょっと読み取りきれませんでした。INNOCENTI REPORT CARD 16 のp.23が該当箇所です、誰か教えてください〜
学校の課題の大変さから来るものなのか、日常生活からの逃避としてのスクリーンタイムなのかが気になります。
大人も子供も"人間"なので
スクリーンタイムも含めた、8つの活動の精神的幸福度の影響を比較した下の表からわかるように、
「メガネをかけている」ことが負の影響を与えていることはのび太くんのような「メガネ」イメージが世界的にもあることを示しているのでしょうか。
これに引き換え、スクリーンタイムはそこまで負の影響が大きくない、というところは意外かもしれません。
そしてここでも、「いじめられている」ことが子供の精神的幸福度に深刻なダメージを与えていることが下の表からもわかりますね。
逆に、よく寝て、よく食べて、適度に運動することがwell-beingにとって重要である、という点は大人と全く変わらないですね。
表の(上から4つ目の)フルーツを食べられることが精神的幸福度につながっている、というのは家庭の経済資本も間違いなく影響しているでしょう。
ちなみに、
日本が身体的健康で1位なのは肥満児が少ないことが要因です。逆に世界では、
- 10カ国で、3人に1人以上の子どもが過体重または肥満である。
とされています。
注意しなければいけないのは、「なぜ肥満になっているのか?」という点でしょう。昔と違い、貧しければ貧しいほどファストフードやバランスの悪い食事になりがち、という点です。
その点、学校給食の持つ意味は大きいですね…
他にも紹介したいところはたくさんあるのですが、字数もかさんできたのでこの辺にしたいと思います!
ぜひご自身でも全文をDLしてご覧になって見てください!
報道や参考になったソース
NHKニュースでは、概要が紹介されていました。
子どもの幸福度をはかるユニセフ=国連児童基金の調査で、日本は先進国や新興国など38か国中、20位でした。体の健康の分野では1位となる一方、精神的な幸福度は37位となっています。
と要約され、レポートの執筆者のコメントも。調査自体はコロナが拡大する前のものだったために、コロナでさらにメンタルヘルスケアが求められる、とのこと。
「新型コロナウイルスの子どもたちへの影響は大きく、子どものメンタルヘルスは健康問題の一部として積極的に対策に取り組むべきだ」として、感染拡大を受けて一層の対策が求められると指摘しました。
7年前に行われた類似の調査にも言及があります。
子どもの幸福度の調査は7年前の2013年に31か国を対象に今回とは異なるデータももとにして実施されていますが、この時は日本は全体で6位でした。
今回はこれに比べると20/37位ということで少し気になるところ。
また、荻上チキさんのSession-22では、阿部彩先生をゲストに1時間程度の特集がありました。音声がまだ聴けます(2020 9/13現在)。
データのない社会・ニッポン
阿部先生といえば、こちらの新書をぜひ。『教育格差』の松岡先生同様、自治体レベルでのデータがない日本の現状も鋭く指摘されています。(国勢調査も協力しましょう)
阿部先生は『教育格差』の松岡先生同様、 日本にはデータがない、国レベルのものはあっても、子供や家庭に一番接している自治体レベルのデータが提供されず、なかなか政策比較もできないところがもどかしい、と仰っていました。
自治体を説得して調査結果を貸してもらえれば、
- 医療費助成のある/なしで自治体の健康格差があるかどうかがわかる
- 父子や外国人家庭などプライバシーの関係で特定の自治体内では後悔しにくいデータも活用できる
とも。エビデンスのない教育政策、入試改革に振り回されている高校としても、エビデンスに基づく政策の必要性は肌身にしみるところです。
おわりに
全体の順位表を載せておきます。こう見ると、日本は本当にいびつな印象ですね。
日本の概要はこちらから確認できます。
スキルも結構低いというところはPISA調査とは異なるポイントです。
これは、友達がすぐできるか、などソーシャルスキルが焦点になっているからかもしれません。
また、NZやオーストラリアが精神的な幸福度で下位であることは驚きでした。あとカナダも全体的に低いのはなぜでしょうか。
ただの面白レポートではなく、私たちの日々に生かすべき提言として捉えたいですね。