やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

【書評】『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』①〜「譲り渡す」教育と社会科の悩ましさ?〜

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室 

お待ちかねの一冊、わくわく読み進めています!

第1章を読んだだけですが、『イン・ザ・ミドル』は第3版であり、15年前に出された第2版から約80%書き直されていると言う事実! 

これが「ベスト」を求めて学び続けてきた教師の姿であり、

その姿から学べる翻訳本のありがたさ…を実感しています。

訳者注がめちゃめちゃ丁寧…

原著との違いについては、この記事の後半で紹介するブログ(あすこまさん、ロカルノさん)で触れられているので、そちらをご覧いただきたい。丁寧です。

読んでいてありがたいのは大変丁寧な訳者注です。こんな感じ。

f:id:Yacchae:20180725192657j:plain

日本の読者の思考をスムースにしてくれる訳注

特に原著の書かれた環境やその背景を理解したい文学・教育関係者には丁寧すぎるほど丁寧!

いい書評は、「本に書いてあることだけでなく考えたことがしっかり書かれている書評」というちきりんさんのお言葉を意識しているのだけど、この本の訳注はまさに考えを深めるための情報源を提供してくれる

書評記事を書くときこそ、自分の環境を生かして書きたいからこそ実名でtwitterやブログやればいっか、と思うこともあるんだけど、まだ勇気はないです。はい。

社会科の悩ましさと吹っ切れ感の同居

さて、この本で紹介されているのは「読み書きのプロセスで学ぶ」ということだと思っているのだけど、社会科はその点どうしても悩ましさに直面する。

読み・書きの力を伸ばすことがそのまま教科で育成したい力になる言語教科に比べて、社会科は、その読み書きの「対象」となる一つの分野

社会に出るための基盤となる知識を掴むために日本の高校の地歴公民科のカリキュラムは考えられています。の割に、社会科(特に公民!!)に割かれる時間は多くない。

それでいて文系生徒の多くは社会科学系統に進学するんですよ…社会について考えなくてもいいんだよというメッセージが国から発せられてい

なので、読み書きプロセスを交えた授業デザインを継続的に行うためには、学校単位で考えないと現実的な難しさ・悩ましさがあります。

一方で、

社会科だろうと言語を通じて社会認識を形成し、他者と意見を交換することで自らの社会「観」を揺さぶることは変わらないのだから、読み書きのワークショップを社会科学編でやることで社会科になる、と言う吹っ切れた感覚もあります(言うは易し)。

アトウェルの手法そのものが苫野先生の言う、自由の相互承認を育むことのできる、「よい」教育に見えます。もうちょっと読み進めて考えたい。 

どのような教育が「よい」教育か (講談社選書メチエ)

どのような教育が「よい」教育か (講談社選書メチエ)

 

「譲り渡す」こと

第1章で印象的だったのは「書くこと」を教える際に、アトウェルは「譲り渡す」という表現を好んで使って(原書の表現が気になる)、いて、自分のことをこのようにたとえている。

私は生徒のかたわらに座り、彼らが自分の文章の課題を見つけるのを手助けします。(中略)まさに自分の知識や経験を生徒に譲り渡し、それを委ねているのです。(中略)私自身の詩、物語、論説文の下書きをみせて、ぶつかった問題や試してみた解決方法を説明する時…

ここでいう「自分」には2つの「私」の意味が込められている。

⑴熟達した教師としてのアトウェルであると同時に、

⑵一人の文学を愛する大人としてのアトウェルである。

社会科に置き換えずとも、⑴は教員であれば当然できることです。書く内容・読む内容について、私なら社会科の視点から指摘を加える。それは教科横断的な要素を多分にはらみつつも、社会科、もっというと社会科学という学問の立場を踏まえて、指導することはできる。

ただ、⑵は難しさを感じてしまう

特に政治的分野を扱う場合は、政治と教育の中立性の観点から、一教員が生徒に一人の生身の人間として関わりすぎるのは禁物。

自分の思想・信条が、生徒の書くことにどう影響するかわからない怖さがあり、⑵の大人として関わる以前に、⑴教師として関わる関わり方を無意識的に選んでしまう

というジレンマがあります。

生徒を信頼していない証拠だ、と糾弾されればそれまでなのですが…

他にも例はあるけれど、要するにコンテンツ教科の悩ましさがあるのです。

アトウェルは「⑴⑵のバランスをとることが最も大事」、と述べているのは全く共感するのだけど、政治的分野の場合、誘導とは異なる形で教師が「自分」を示すことにはより配慮が必要と思います。

まあ、そういうと結局⑴の関わり方で終わってしまう気がするのだけれど、、、解決策は出せません。⑵を出しちゃえばいいじゃん!という自分がいるのも事実。悩ましいだけです。

先達に学ぼう①

この『イン・ザ・ミドル』の翻訳もされている国語科教員のあすこまさんのブログは必見です。「10年間で僕が最も影響を受けた本」とのこと。

askoma.info

実際にご自身の授業にも生かされていてその実践報告も本当に参考になりました。

例えば、「新聞の読者投稿を書く」授業も、アトウェルから学んだことを生かして作られた授業デザインだということがわかります。

askoma.info

私もこのあすこまさんの記事をもとに新聞投稿を書く授業を実践してみて、優れた授業デザインのパワーを実感しました。もちろん、1回きりで「書き手」を育てた、とは到底思わないけれど、それでも生徒の書いたものたちを読み、生徒の声を聞くと、その効果を感じることができました。

同時に、自分がアレンジを加え(ざるをえなかっ)た部分については、『イン・ザ・ミドル』を読んで、「あ〜だからそういう方法なのか、アレンジしないほうがよかったな」と反省しました…。守破離!

先達に学ぼう②

すでに原書を読まれている(!)国語科教員のロカルノさんのブログも必見。

本で紹介されているワークショップなど関連記事が多数あります。そして毎日ブログを更新されているという事実!大変勉強になります。

www.s-locarno.com

・リーディング・ワークショップ記事まとめ - ならずものになろう

・ライティングワークショップを終えて(感想まとめ) - ならずものになろう

先達に学ぼう③

そして毎度おなじみ今回の翻訳にも携わっている吉田新先生が『イン・ザ・ミドル』について書かれている記事。

projectbetterschool.blogspot.com

評価についてもこの本は大切なことを教えてくれています。ぜひこの記事をご覧ください。日本の教育界にこの本が必要な理由が、訳者の言葉でまとめられています。

おわりに

お二人は国語科で、アトウェルも国語の教員、だから国語じゃない自分はちょっとこの本は違うかな、と思う必要はありません。吉田新先生の言葉を。

ぜひ夏休みの間に読んでいただき、夏休み明けから一つでも二つでも実践をし始めてください。子どもたちはもちろん(管理職や教育行政に携わる方は、教師たちも)、それを望んでいますから。

PLC便り: 新刊『イン・ザ・ミドル』

学びのコントローラーを生徒に

という思いがある人なら誰だって学べる素晴らしい本です。

第1章だけですが、現代の大村はまを読んでいる感覚に近いものを覚えました。第2章からより具体的な話に入っていくので、アトウェルの優れた実践に痺れたいと思います。 

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室

  • 作者: ナンシー・アトウェル,小坂敦子,澤田英輔,吉田新一郎
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2018/07/21
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る