今年は業務量がさらに増えたこともあり、ブログのエントリ数も減ってしまいました…
が、読書量は90冊程度となんとか最低ラインに乗ったかと。
※これはいわせんこと岩瀬直樹先生の現職時代(週3冊)にははるか及ばず、もどかしさも残る結果です。
とはいえ、良かった本は良かったので、ぜひ紹介!
せっかくなので2019年に出た本のみで5冊選んでみました。
特に順位づけをしてはいませんが、トップ5を選べと言われたらこれらを選びます!
①『教育のプロがすすめる選択する学び』
2019年4月から特に個人的テーマとして掲げていた生徒が選択する学び。
「主体的・対話的で深い学び」をそれぞのれ学校現場の文脈で実現していく上で、この「選択」は重要度の高いキーワードだと考えています。
例えば、「主体的な学び」を短期的には学習活動への集中、長期的には自ら学びを止めない人間になることだと定義すると、
それに欠かせない要素は、学びのオーナーシップを高めること。
ではどうすれば学びのオーナーシップを高められるか?
といえば、日々の教育活動で「選ぶ」ことが大事。
かのJ.Sミルも「選ぶことでしか人間の能力や特性は伸長しない」と言い切っています。
選ばなければ、力は育たないわけです。
その選ぶことの重要性を学習のステップごとに整理した読みやすい1冊。
あ、これは当ブログでも紹介している吉田新一郎訳本の1つです。
骨太な思想と実践が一体となった素晴らしいものが多い反面、現場への導入に多少時間もかかるものがあるが、これはすぐに導入できるという点もオススメ度が高いです。
普段の授業のどこかに「選ぶ」学びを入れるヒント・視点をくれますよ。
②『主体的・対話的で深い学びに導く学習科学ガイドブック』
教育のプロとして、学びを科学的にとらえ直すことの大切さをひしひしと感じています。
それができればどんな分野でも、目の前の生徒に合わせて学習活動をデザインすることができるようになるからです。
学習科学という学問分野のガイドブックでもあるため、決してこの1冊で足りるわけではないですが、最新の知見に手軽に触れられて本当にありがたい1冊。
しかもそれがどの学齢でもどの分野でも使える汎用性の高い知見です。
個人的には協調学習、PFL、社会共有的調整学習、ICAPフレームワーク、評価の三角形、活動理論など発見と実際に使える武器をもらいました。
実際に探究学習を行なっている生徒には、このガイドブックで紹介されていた論文の知見をエッセンスとしてプリントにし配布できて本当に助かりました。
進学率の高い学校なので、生徒からしても学術的知見をきちんと「提示され慣れ」ておくことって大事だと思っています。
実際何度も見返して役に立ったと報告してくれるのは嬉しいことでした。
③『「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント』
主体的・対話的、ときたら「深い」に加えてその三者を実現するカリマネに触れないわけにはいかないですよね。
今年はカリキュラム策定もあり、色々とカリマネ関連の本は読み込んだつもりですが、これは想像以上によかったです。
というのも、僭越ですが田村学先生の著書は年々ご自身の言葉が増え、他の学指の方向性解説本より現場教員に伝えようとする思いを感じました。
上智の奈須先生の研究者視点が多いこちらの本と合わせるとより学べるはずです。
カリマネはだいぶ色々なところで語られてきた感があるけれど、イマイチ具体的なイメージが持ちにくいカリマネを徹底的に要素に分解して語り直してくれたのが何よりも有益だった1冊です。
詳しくはご覧いただきたいのですが、「グランドデザイン」から「単元配列表」の発想は学習者視点でカリキュラムを捉え直すのに必須のはず。
「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント (hito*yume book)
- 作者:田村 学
- 出版社/メーカー: 文溪堂
- 発売日: 2019/03/01
- メディア: 単行本
こういう「議論をするための支柱を作る本」って大事なんだよね本当に…
④『測りすぎーなぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』
唯一のビジネス書かもしれないけどこれは教育界も必読だと思いました。
というのも、
学力観が一面的ではなく学力の3要素として多面化している現在においては、
「じゃあそれをどうやって伸ばすの?どうやって測るの?」という問いから逃れることができず、とりあえず生徒の現状を知らねば!といい振り返りやアンケートの類を連発して有機的に使うことができずデータの持ち腐れにしてしまう私のような教員がいないとも限らないわけです。笑
実際、本書の帯の広告文には「数値評価が、有害なパフォーマンスをもたらした事例を、いきいきと描いている」というアカロフ(ノーベル経済学賞)の言葉がありますが、本当にその通りであり、Tyranny of Metricsという原題のニュアンスもよく現れていました。
自分自身がとにかく見える化することに躍起になりすぎていたけれど、そもそも見える化して意味あるの?と問い直すことは重要ですね。
透明性はパフォーマンスの敵。というのも名言かもしれない。
”適度”な秘匿性や人間臭さを残すことが人間にとって大事で、その”適度”の具合を判断するところにまさに熟達者としての知見・経験がいかされます。
アンケート病にならないようにしたいですね(ただの自戒)。
様々な分野の事例が面白く、今後の社会がデータによって動いていくことも考えると、読者の立場に応じた読み方ができそうで、こういう本で異業種ブッククラブをやってみても面白そう。
⑤『教育格差』
そして最後はこの1冊。
教育は誰もが経験する分野なだけに、個人的な原体験が幅を利かしてしまうところがある。
それは時に大きな力にもなるのだけれど、皆で「良い教育」を作ろうとしていくときに結構厄介にもなるものです。
そうやって常に自分の原体験と自分の授業を相対化していなければ教育者ってやっていけないところがあると思うのです。
ということで、ぜひこのクイズもやってみてください。意外と自分の見えている世界が偏っていたりするのです。
そして本書については書評も書かせていただきました。
そこから一部引用します。
見えにくい社会の現実を、見ようとしなければ見なくてもよい現実を、どこまでも真摯に把握しようとする営みに対して、なんだか涙が出そうになりました。
著者の松岡先生の言葉は、熱が入っていないようで、端々にその熱を感じます。
具体例を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、例えば。
私は教育格差を高SES家庭出身の学生に教えることで、「生まれ」の世代間再生産を強化しているのだ。(中略)
では黙っていればよいのだろうか。もし誰も声を上げなければ、居住地の分断化が進行することで、緩やかさが失われた身分社会に近づいていくだろう。それを座して見つめ、自分は手を汚していない、これは自分の責任ではないと嘯くのか、それとも、自らの行為が内在する有害さを意識し返り血を浴びながら教育と社会の在り方の転換を進める試みに従事するのか ー私は随分と長い逡巡の上で、後者を選ぶことにした。
「返り血」などの表現が、過激だと感じないくらいには、説得力と、真摯さが伝わる1冊だと思ってくだされば幸いです。
おわりに
年始はBOOKOFFのセールもあるし、教員の仕事量も年度の中では比較的落ち着く方向に向かう先生方が多いはず。
ぜひこの機に教育関係書を大人買いしておきましょう!(誰)
積ん読本から出るα波が脳に刺激を与えることが科学的にも証明されているので、とにかく気になった本は本棚に並べておきたいですね(嘘)
2019年ありがとうございました!来年もどうぞよろしくお願いいたします。