教員必読、ってあまり使いたくないのだけど、使ってしまうくらいには読んでほしい本。おなじみの吉田新一郎先生訳本です。
吉田新一郎翻訳本クラスタの皆さま(いるのか)、本屋にまた2冊新刊が…😙
— やっちゃえ先生@論文の冬 (@Yacchaee) 2019年2月4日
とりあえず左を購入。
「ほめ言葉のシャワー」は聞いたことあるけど、「褒め言葉を使うな!」はどういう話なのか楽しみです。
積読本で家が溢れているので右は一旦ガマン…💦 https://t.co/vNDG8hF47F pic.twitter.com/PAxNhZMXhb
他の訳本同様、一見「ハウツー本」に見えたのだけど、読了後は背景にある「骨太な信念・モデル」を実感できます。
マインドセット
本書の全体が、固定マインドセット(画像右)からダイナミック・マインドセット(左)への移行を目指して書かれています。
この「固定マインドセット」を強化している仕組みが受験ではないでしょうか。
「頭が良いね」という言葉は今でも普通に聞かれます。生徒同士の会話でも「〇〇くんは頭がいいからな〜」というように。
さらに、この「頭が良い」や「知識がある」などの言葉を教員側が無意識的に使うことで、さらに教員・生徒の固定マインドセットは強化されます。
このような、教員・生徒の思わぬ「協働」が、固定的な知識をいかに効率よく詰め込めるか、という受験の形を正当化してしまっている気がします。
固定マインドセットを打開するには
まず、教員の言葉選びがその大きな役割を果たす!というのが筆者の主張。
こういう小さなところから。
でも、こういう実践はもうすでに意識されている教員・保護者も多いはず。この本の出色は第3〜5章。←独断と偏見
読むべき3つの章紹介!
3章は個人的にナイスタイミングでした。
第3章:学びの語り方(ナラティブ)を変える
「学びの語り方」の視点は、これから年度末の振り返りをさせていく際にとても参考になります。
この質問の仕方を行う効果。
日本の学校で行われる「試験」のあり方は、いわゆるヒドゥンカリキュラム。
定期試験廃止、も叫ばれていますが、ともかく試験が固定マインドセットを助長させてしまっています。それに対する細やかな抵抗になる。(?)
5つのフィードバック、どれを選ぶ?
第4章はフィードバックをめぐる「ことば」の選び方が主眼。
第4章:「いい出来です」ーフィードバック・称賛・その他の反応
ここで紹介されていた研究を一つ紹介します。
皆さんなら、どのフィードバックが「良い」と思いますか?
- とてもいい子だね
- あなたを誇りに思っています
- あなたはこれが得意ですね
- とてもがんばったね
- いい方法を見つけたね。他にいい方法を見つけられますか?
答え、というか解説はこの記事の脚注*1に書いておきます。
ヒントは、人に対してではなく、過程と可能性に焦点を当てること。
だから帯のこの言葉になるわけです。
これを読むと、菊池省三先生の「褒め言葉のシャワー」が思い出されます。ただその実践・哲学を勉強できていないので、ご存知の方がいらっしゃったら本書の第4章を読んでその比較をしてくださいませんか…(絶対他力)
主体的・対話的で深い学びへ誘う
まさに今求められている「学びのあり方」の変容に必要な第5章。間違いなく、形だけのアクティブラーニングとは一線を画しています。
第5章:それを考えられるほかの方法はありますか?ー探究、対話、不確実性、違い
筆者のスタンスは、
不確実性の認識こそが対話を可能にします。逆に、対話が不確実性を持続させます。(中略)不確実性こそが探究と研究の基盤なのです。
というもの。
何が正しいのか、ではなく、正しいかもしれないことは何か、を問うこと。
地道なその繰り返しが、「不確実性への心地よさ」を生みます。
これはすごく実感として分かる気がしていて、寮生活とか留学中の生活を考えると、「異質な他者」が「そこ」にいることが当たり前でした。
それによって探究的なマインドセットが身についていったと今なら思う。
教員としては、その実現のために言葉を選ぶわけですが、言葉選びを助けるコツとして「教師と生徒の力関係を均等にする」(137)で紹介されている教員のあり方は参考になります。
この本で言われていたことと近い気がしました。
「対話的な学び」を放任ではなく丁寧に導くスキルは、経験的に習得していないなら、教条的にでも叩き込んでいくしかない。(圧力)
本書には、生徒と教員の対話のスクリプトも載っているのでご覧ください。「なんてことない対話じゃん」、と思うのだけれど、解説を読むと見え方が変わるかも。
その延長線上に、スパイダー討論があると思うのでこちらもぜひ。
おわりに
原著のタイトルは、"Opening Minds -Using Language to Change Lives-"なんですねえ。射程がChange Livesですから、やはり単なる言葉選びではない。生き方、マインドセットまで射程に入れているわけです。
ニューヨーク州立大(SUNY)名誉教授の著者なので、引用も多いです。
それにしても紹介し足りない部分が多いのだけど、読み返しつつ書評をまとめてそれが血肉化していく感覚がたまりません。
吉田新一郎訳本に慣れた方からの「あるある」共感がたくさん寄せられました。先生はぶれない。
吉田新一郎先生の訳本あるある💡
— やっちゃえ先生@論文の冬 (@Yacchaee) 2019年2月5日
•TVのCM以上に多い訳者注に慣れる
•「翻訳協力者のコメント」にも慣れる
•訳者注で「こんな教え方を日本の学校では未だに行っています!」とか書いてあるんだろうな、という予測ができるようになる
•ここであの本を紹介するだろうな、という予測もできるようになる pic.twitter.com/fmk7jRGTSe
一つの訳語へのこだわりも非常に強いし、ただ文字を訳しているわけじゃないのが伝わりますね。(よく言えば)
当ブログでも先生の訳本は結構触れています。自分で読み直す用として書いておいてよかったと痛感する…
『オープニングマインド』は自分を見つめ直すオススメの1冊。ぜひ。
*1:1,2,3は「人に対する批判」と同じ効果をもつ。つまり、「あなたを誇りに思っています」というフレーズには「あなたにはガッカリしています」と同じ効果がある。面白いのは、成功した時に「誇りに思う」と言われると、失敗した時に「ガッカリする」と言われるだろうと推測してしまい、結局固定マインドセットを助長してしまう、という指摘。重要なのは、「努力と方法」に焦点を当てること。だから、4,5が「良い」とのこと。「人に対しては褒め言葉を使うな!」だそうです。じゃあ「頑張ったあなたを誇りに思う」と言ったらどうなるんだろう…